久しぶりの家
じいちゃんに家の中へ案内された二人は、機械みたいな動きをしながら椅子へと腰掛けた。ライムを初めて見た人と同じ様な反応だ。俺も今でこそ違和感は無くなったが、当時は誰だアンタ? と口に出してしまった程。その後、頭を叩かれたけど。
「初めまして、お二人さん。儂はダンガルド、カイルの祖父にあたります」
「あ……えっと、アメル、といいます。初めまして」
じいちゃんの挨拶に、アメルも慌てて自己紹介を返す。リリは……固まったままだった。
「ほら、リリも折角だし挨拶しようよ」
「ちょ、カイル。アンタ、話が違うじゃないの。これのどこがジジイなのよ!」
ピチピチじゃないの! とリリはじいちゃんを指差す。ジジイって。
そう言われたじいちゃんは、怒るでもなく豪快に笑っていた。
「ははは! お嬢さんの言い分はもっともだ。こんな爺が世にいてたまるか! ってなぁ? カイル」
「じいちゃん……それ、自分で言うの?」
それを聞いたじいちゃんは更に笑う。久しぶりだなぁ、この感じ。
じいちゃんと俺は呼んでいるが、そう呼ぶにはあまりに若すぎる姿。三十代、なんなら俺の父親、と言っても差し支えない位だ。年齢詐欺にも程がある。
「それにしても、どうした? 連絡も無しに急に来て」
「あぁ、そこはちゃんと説明しなきゃだね」
俺はここまでの経緯を簡単に説明した。
「──南の武闘祭に呼ばれたって? お前が?」
これで? と俺の身体を触ってくるじいちゃん。
「お、俺だって遊んでた訳じゃないんだからな! 強くなったんだぞ!」
じいちゃんの身体がおかしいんだよ。筋骨隆々としやがって、イッカクじゃねぇんだから。
「ほほう? そこまで言うなら……ちょっと使いを頼もうかな?」
じいちゃんは楽しそうに告げる。
「使い?」
「今年もアルミラージが出てな。まぁ、その辺はいつも通りだ。儂らでもなんとかなる。だが最近……東の方から妙なのが来ていてな」
じいちゃんの話では、一月前から普通のアルミラージとは違う個体が、村へ来て被害を出していると。その個体は黒く、そして、一般のアルミラージより大きいらしい。
「そのアルミラージによる人的被害は、今の所ない。アイツの狙いは作物だからな。だが、素早い上に知能もありそうでな。倒すことも叶わんから、追い払うのが現状やっとの状況なんだ」
あれを放っておいて良いことは一つもない。じいちゃんは渋い顔で告げた。
「人が居ない間、特に夜に現れることが多い。村の住民全員で見回りは順次しているが、それでもいたちごっこだ。……どうだカイル? そのアルミラージ、お前なら討伐出来そうか?」
「うーん……じいちゃんの話だと、そいつは多分変異種だ。見てみないとなんともいえないけど……」
「分かった分かった! やっぱりお前には荷が重いか、はは、すまんすまん。いきなりこんな事を言って悪かったな!」
笑いながら言うじいちゃんに、思わずムッとしてしまった。
「なんだよその言い方、出来ないなんて言ってないだろ? やるよ、やってやる!」
「……言ったな?」
それを聞いたじいちゃんは、俺を見据えて口角を上げる。しまった、嵌められた! と思った時にはもう遅かった。
「じゃあ、滞在中はカイルに一任するぞ。村の者には儂から言っておく、男なら──」
「口に出した事は守れ、だろ? 分かってるよ」
じいちゃんが、俺へ口酸っぱく言っていた事だ。今まで忘れた事はない。
「ならいい。お前達、飯は食べたのか? 戦の前には、腹ごしらえをせんとな」
「なんか美味しいのちょうだい」
「ははは! 素直なお嬢さんだ、ちょっと待ってておくれ」
リリは好印象を取れば勝ち確、なんて言ってたけどこれは……好印象、なのか? いや、じいちゃん笑ってるから良いんだろうけど。
「ダ、ダンガルドさん。私も手伝います!」
アメルは、調理に入ろうとしてるじいちゃんに声を掛けた。
「お、いいのかい? そうしたら、これの皮剥きをお願いできるかい?」
「皮剥き……が、頑張ります!」
アメルはぎこちない手つきで、それでも必死に皮を剥いていた。怪我しないようにね、とじいちゃんはそれを見ながら微笑んでいた。
いい匂いがし始めた時、地面が光り輝いた。これは……アニエスの転移陣だな。
「な、なんじゃ!? 床が光っておるぞ!?」
じいちゃんが驚く中、アニエスがゆっくりと姿を現す。俺と眼が合うと微笑んでくれて、思わずドキッとしてしまった。
「主様、お待たせした」
「あぁ、おはようでいいのかな。アニエス」
ふふ、おそようでも良いかもね、とアニエスは言う。じいちゃんは、俺達のやり取りを呆然と見つめていた。
「じいちゃん、この人はパーティーの仲間でアニエスっていうんだ。アニエス、見えないかもだけど話してたじいちゃんだよ」
「……そうだね。祖父と捉えるには、あまりにも若いか。御仁、紹介に預かったアニエスという」
一礼するアニエスに、じいちゃんも慌てて挨拶を返す。そして俺を強引に引き寄せ、小声で話し始めた。
「お、おいカイル。お前どうなってるんだ? 別嬪さんばかりじゃないか! なんだ、ハーレムでも作るつもりか! じいちゃん羨ましいぞ!」
「羨ましいって言われても。自然とこうなったんだよ」
後からイッカクも合流するし、ライムもいる。ハーレムではないはず……違うよな?
「ダ、ダンガルドさん! 野菜が、ちょっと焦げちゃってます!」
「お、おぉ! いかんいかん!」
慌てて戻っていくじいちゃん。気になるからって火元から離れるなよ、ったく。
「面白い御仁だね」
主様の祖父に間違いなさそうだ、とアニエスはクスクスと笑っている。その通りなんだけど、どこを見てそう思ったのか気になるぞ。
「さ、出来たぞ! 来てくれたお姉さんも座っておくれ。皆で頂こう」
出された料理は、少し焦げていた。だけど味は懐かしくて、美味しかった。




