南へ向かって
B級へ昇格した翌日。結局、謁見場所での色々な事による疲労がしんどくて、出発を延ばした。部屋の中に、なんだかいい匂いがし始めて目覚めた俺。お腹にはライムが乗っていた。
「おはよー!」
「おう、おはよ……っと」
身体を起こし、伸びをする。それだけで、眠気は少し飛んだ。ライムは俺と一緒の部屋にいる。部屋数に余裕もあるし、ライムも自分の部屋を持っていいんだぞ? と言ったら、カイルと一緒がいいと返されて、いつも通り一緒の部屋になっている。ちょっと嬉しかったのは内緒。
ベッドから降りて一階へ向かう。調理場にはホムラさんとアメルの姿が。イッカクも居たが、リリとアニエスは見当たらない。多分だけど寝てるな、これは。
「おはよう、皆」
「おはようございます、カイル様」
「カイルさん、おはようございます!」
よそ見をしない、とホムラさんに言われアメルは視線を火元へ戻す。まだぎこちないが一人で調理しており、ホムラさんが側で見守っている形だ。
「カイル様、丁度お声掛けしようと思っておりました。もう少しで出来上がりますので、お掛けに」
「ありがとうございます。アニエスとリリは?」
「アニエス様からは伝言を承っております。『一度眠るから先に向かっておくれ』とのことです」
アニエスが、一度寝たら簡単には起きないのは迷いの森で把握している。無理に起こしてもマズいらしいし、眠い時は寝るに限るよね。
「カイルさん。リリは起こしに行ったんですけど……珍しく爆睡してました。多分、寝心地が良かったんだと思います」
アメルは苦笑していた。布団も高級ホテルとなんら変わらなかったもんな、俺も気持ち良く眠れた。
「分かった。じゃあ、食事をしたらリリを起こして出発しようか」
俺達はテーブルに並んだ朝食を頂いた。卵焼きとパン。うん、朝食らしい。食べると程よい甘さが口に広がっていく。美味しいと告げたら、アメルが泣きそうになっていて、ホムラさんはその姿を見て頷いていた。
そうこうして食事を食べ進め、朝食も終わりという時に外から声が聞こえた気がする。誰だろう?
窓から門の方を見ると、ヤマトさんだった。
門の方まで出迎えに行く。ヤマトさんは息を切らしていた。
「よ、良かったぁ。出発はまだだったんだね」
「ヤマトさんおはようございます。いつも通り、部屋へ直接来てくれても良かったのに。なにかあったんですか?」
俺の発言に、ヤマトさんは息を整えてから口を開いた。
「さ、流石に城下へ行く時スキルは使用していないんだ。ここに住むのは貴族が殆どだから。癖になっちゃってたけど、ここの主がそう言ってくれるなら……今度からはそうさせてもらおうかな?」
「はい、是非」
ありがとう、とヤマトさんは笑ってくれた。ここの主なんて言われると、なんだか変な感じだ。まだまだ慣れないな。門前で話すのもどうかと思い、中へ案内する。
「うわぁ……これは凄い。シドウさんが造ったって事だから当たり前なんだけど、貴族の屋敷と遜色ないね」
「シドウさんって、そんな有名な方だったんですね」
「この辺りの屋敷は、殆どシドウさんが建てたんだよ」
「マジですか!?」
うん、マジ。と微笑むヤマトさん。領主も気にしてたけどアニエス、どうやって仲良くなったんだい……。
そのまま中まで入ってもらい、皆が集まる場所へ座ってもらう。ホムラさんが飲み物を出してくれて、ヤマトさんは緊張しているのか一礼していた。
俺は対面に座り話を続ける。
「すいませんヤマトさん、わざわざ中まで来てもらっちゃって。それで、今日は?」
ヤマトさんは息を切らしながら、ここまで来てくれていた。急ぎの用なのかなと思ったが、本人は急ぐでもなくゆっくりと飲み物を口に含んだ。
「うん。今日はね、いつもみたいなギルドへ招集、ではなくて。カイル君に会いに来たんだ、断りを入れにね」
「断り?」
うん、とヤマトさんは頷く。
「武闘祭に出るって聞いたよ。南との日程擦り合わせの為に、カイル君の進行状況を逐一ギルドで把握して、先方へ伝えないといけなくてさ。間に合わないってなると、少し大事になりそうなんだ」
「そ、そうなんですね」
「それで、毎朝か毎夕で良いんだけど、カイル君を訪ねるよって事を伝えにね。出発してたらどうしようと思って急いで来たんだ」
南との伝達役を任されてるのか、凄いな。
「でもそれこそ、以前は毎日やってたじゃないですか」
「そうなんだけどさ、一応ね」
俺とヤマトさんは同時に笑った。オーガキラーの称号を戴いてから、暫くの間指名依頼が止まず、ヤマトさんとは毎日の様に顔を合わせていた。
「勿論構わないです。元々爺ちゃんに会いに行くってだけで、アニエスに頼めば全員、南まですぐ転移出来るそうなんで」
「それは……本当かい? そうなるとギルマスより上位の……」
「ヤマトさん?」
「いやごめん、こっちの話。じゃあ、進行の確認をしにくるのだけ覚えておいて。可能なら、扉がある場所の近くだと嬉しいな」
「分かりました」
それじゃ、ご馳走様。そう言ってヤマトさんはここを後にした、徒歩で。スキル忘れてますよ……ほんとに癖なんだな。
「よし、俺達も段々出ようか。っとその前に、リリに声を掛けなくちゃか」
皆、事前に支度はいいとこ終わっている。俺は階段を上り、リリの部屋をノックする。
「んん……さっきからなによぉ、起きるって言ってんでしょお? 少しは待ってなさいようるさいわねぇ……」
段々尻すぼみに声が小さくなっていく。相当寝ぼけてるなこれ。俺は扉の前から声を掛けた。
「おはようリリ。俺だけど」
「あ、カイルぅ。おは……カイルッ!?」
「起きた? 皆準備出来てるし、段々出発しようと思うんだ。リリもそろそろ……ぐおっ!?」
扉を少し開けた瞬間、もの凄い勢いで閉められた。扉が顔に直撃した俺はその場にうずくまる。……鼻が! 俺の鼻がぁ! 急いで確認したが、幸いにも鼻血は出てなかった。
「あ、アンタねぇ!? 乙女の部屋に勝手に入ろうとするんじゃないわよ! いや、アンタなら良いんだけど……とにかく、こっちにも準備ってもんがあんの! なんで鍵付いてないのこの部屋!」
あぁもう髪ボサボサ! と部屋から凄まじい音がし始めた。下で待ってるぞと鼻をさすりながら一階へ。
それから十分程で、戦闘でもしたかと思うほど息を切らしたリリが降りてきた。息は荒かったが、容姿はいつも通り綺麗に纏まっていた。
「カイル様、行ってらっしゃいませ。アニエス様には申し伝えておきますので」
「はい。それじゃあ一足先に……行ってきます!」
ホムラさんは留守番だ。俺達は南へ向けて出発した。




