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謁見の裏で

「……ふん」


 カイルが後にした謁見の場。アロガンスは椅子へ身体を預け、一つ息を吐いた。


「どこまでも気に食わん奴だ……居るんだろう? 出てこい」


 アロガンスが告げると、何も無い空間から姿を現したのは初老の男性。黒の礼服を身に纏い、アロガンスへ歩み寄った。


「オウ……拝見しておりましたが、まさかアロガンス様の御力でも駄目だとは思いませんでした」


 そう言われたアロガンスは、十字架に視線を落とす。


「これは出生がセバンタートの者、もしくは私に忠誠を誓う者にしか効果が出ない代物だ」


「フム、左様でしたか」


 これは失礼を、と男性は深々と頭を下げる。


「構わん、それよりロドフォノスよ。お前が執心するあの【従魔士】に、一体何があるというのだ?」


「そうですな……詳細は、アロガンス様が気にする程の事ではないかと。ただ、あの者がいると、私、そしてアロガンス様にとっても、邪魔な存在であるかなと愚考いたします」


「確かに、それは間違いない」


 ──あの【従魔士】が来てから、やれオーガキラーだの、やれ水の巫女だのと、民衆の注目は私を差し置き全てあの男が中心となっている。あまつさえ、私の住んでいる領域にまで足を踏み入れるなどと。……ふざけるな!! 私が、この私アロガンスが! この領地の主であるというのに! そんな馬鹿な話があってたまるか!


 アロガンスは王座を模したであろう、豪勢な椅子の肘掛けを握りしめた。


「アロガンス様、どうかされましたか?」


 その様子を伺うロドフォノスへ、アロガンスは視線を向ける。


 ──最近ふと現れたこの男。利害が一致している今は、利用してやっている。裏情報に聡いこいつは、私が表沙汰に出来ない様な依頼を従順に、そして迅速にこなしてくれていた。


 裏があるのは当然分かっている。が、私に仇なすことがない限りは、眼をかけてやることにした。


「いや、なんでもない。しかしロドフォノスよ。【従魔士】を捕え、従魔達を主から引き剥がすというお前の望み、こちらに大義がない限り、中々に難題だ」


 弱みらしい弱みも握れなかったしな、とアロガンスは舌打ちをしながら告げる。


 顎に指を当て、ロドフォノスは思案する様子を見せた。そしてゆっくりと口を開く。


「……それについては、こちらで何とかいたしましょう。その時が来ましたら、アロガンス様のお力を是非」


「あぁ、分かっている」


 それでは、お願いいたします。そう告げて、頭を下げながらロドフォノスはゆっくりと姿を消していった。まるで初めから誰も居なかったかのように。


「【暗殺者】のスキルか、はたまた個人のスキルか……愉快なものだ」


 ──あれならば、懐に潜り込むのも容易いか。それでも、私を狙うことなく話を持ちかけてきたのだからな。いいだろう、互いの利益の為、利用しあおうではないか。


 アロガンスは静かに笑う。


「……そういえば、あの男。偶然かロドフォノスの気配を感じ取っていたようだったか」


 ──【暗殺者】であれば、気配を完全に無くせていたはずだろうに、それを感じ取る力……。癪な話だが、民衆に注目されているだけはあるか。【従魔士】の力、正確に把握しておく必要があるな。


「ふん……誰か、誰かおらぬか!」


 アロガンスが声を上げると、扉が開き衛兵の一人が。アロガンスの前でひざまずく。


「アロガンス様、何か」


「──至急、セディオンを呼んでこい」


「……っ! はっ!!」


 衛兵はアロガンスの発言に、慌てた様子でその場を後にした。アロガンスが彼を呼ぶ時────それは、中央都市にとっての有事であると把握しているから。


「念には念を、だ」


 アロガンスは誰も居ないであろうその空間で、一人呟いた。

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