再びの謁見
「ま、またお見えになられたんですね。今度はご自身が、と伺いましたが」
「え、えぇ。まぁ」
謁見に領主宅へ伺った俺。拠点が城下に出来たから、来るまでの時間がかなり短縮できた。案内をしてくれた騎士団の人は、この間と同じ方だ。俺が期間を空けずに来たものだから、驚きを隠せないでいた。
前回はパーティー単位で、今回は変異種を倒したことによる功績で、という事になる。
「中央に、こんなにランクの高い方が居ると思うと心強いです」
「あ、ありがとうございます」
扉前で引き継ぎをしてくれて、笑顔で持ち場へ戻っていった。引き継いだ騎士団の人は、無表情に一礼だけしてくれた。俺が一礼を返すと、扉へ声を掛ける。
「アロガンス様、カイルさんが来られました」
「通せ」
大きな扉がゆっくりと開かれる。目線の先にある椅子へ、どっしりと構える男性。──領主のセバンタート・アロガンス。彼は、俺を睨みつけるようにこちらを見ていた。な、なんでこんな心象悪いの? 中央に被害を出してる訳じゃないし、流石に意味分からないんだけど。
「またお前か……」
領主は大きな溜息を吐く。そう、俺です。案内してくれた騎士団の笑顔が恋しいよ……。
「前回もそうだが、定刻通り来るのは冒険者にしては珍しい。褒めてやろう。書状の方は既に書いてある」
「あ、ありがとうございます」
とっとと受け取って早く帰れってことだな。俺もこの雰囲気は苦手だから、ある意味ありがたい限りだ。俺は前の時と同じく、さっさと取りに来いと言われると思って構えていた。だが、領主からは別の言葉が飛んできた。
「書状を渡す前に、話がある」
「話……ですか?」
俺はないよぉ、早く帰りたいんだけど。
「南の武闘祭へ招待されたようだな」
「は、はい。そうです」
ギルドへ共有して大丈夫、と伝えた手紙の内容だ。領主まで話がいくんだな。
「──優勝以外許さん。出来なかった場合、中央へ帰ってくることは叶わんと思え」
「なっ!?」
横暴過ぎる! どういう事ですかと尋ねようとしたが、次だと話を進められてしまった。
「お前、城下に家を建てたそうだな」
「……はい」
「シドウに迅速かつ丁寧に建ててもらったと聞くが、一体どんな手を使ったんだ?」
領主は、シドウさんの名を知ってるみたいだ。そんなに有名だったのかあの人。
「仲間と親しくなったみたいで。俺は関与していないから分かりません」
そう言うと、領主は盛大に舌打ちをする。あ、貴方領主だよね?
「弱みでも握ったかと思えば……私を前にしてシラを切るか、いい度胸だ」
領主は、胸元から装飾品を取り出した。十字架の様な形をしたそれは、見たことのない光を放っている。その光に寒気がした。領主はその十字架を前に出し、もう一度同じ質問をしてきた。
「もう一度問う。一体、どんな手を使ってシドウと親密になった?」
「仲間と親しくなっただけで、俺は関与していません」
そもそも嘘の吐きようがないから、同様の返答をする。すると領主は、眼を丸くして質問を変えてきた。
「お前……出身はどこだ?」
「ここから少し南にある村ですが」
田舎者が、と言いながら十字架をしまう領主。……なんなんだよ、段々と苛ついてきた。書状をくれるならさっさとくれねぇかな。じゃなきゃ要らないし、さっさと帰りたい。
【──全く、嘆かわしい限りです】
ふと、そんな言葉が聞こえてきた。この間も聞いた声。今この場には領主と俺しかいない。この間領主の側にいた人も、今日はいないみたいだ。
この声はどこから? 領主側からしてる気がするんだけど。
【聞こえていますね? 可能性の子よ】
その声は、やっぱり俺目掛けて話し掛けてきている。
【今、貴方へ使われた力。それは本来、決して個の判断で使用してはならないものです。三代目の領主となるこの男、アロガンスは領主として非常に危うい思想の持ち主です】
この声を聞く限り、現領主は三代目となるらしい。アニエスに俺も三代目と呼ばれているし、変な所で共通点が見つかってしまった。やだなぁ。
【その力は貴方か、貴方が認める正しき思想の持ち主へ――】
「……ぃ、おいっ! 聞いているのか!?」
「は、はい!?」
声の方へ意識を割いていた俺は、領主の怒声によって現実へと戻された。
「何を呆けている。話は終わりだ、早く取りに来いと言っている」
領主が手にしているのは、昇格の書状と思われるもの。俺は慌てて領主の側へ行き、書状を受け取った。
「あ、ありがとうございます」
「ふん……振る舞いは目に余るが、実力があるのは確かなのだろう。どうだ? 私に忠誠を誓えば、今までの事は水に流し眼を掛けてやってもいいぞ?」
領主は胸元の十字架に手を掛け、口角を僅かに上げた。
「お断りします」
「なっ……!?」
思わず即答してしまった。領主も、すぐ返事が来ると思ってなかったみたいで、眼を見開いていた。……しまった、端的に答えすぎたな。俺は言葉を捻り出していく。
「えっ、と。お気持ちは嬉しいんですけど。――今の俺は、冒険者です。何事も、一旦自分の力でなんとかしてみたくて、なので……すみません」
何か裏がありそうではあったが、初めて領主から向けられた好意を拒否してしまった俺。
「……よいのだな? 二度はないぞ」
「はい」
領主は俺を睨みつけてくる。やめてよ、おっかないんだから。やがて、ゆっくりと視線を逸した。
「分かった、下がれ」
俺は一礼して、扉まで歩いていく。
「あの」
「なんだ」
俺は、最後に気になっていた事を確認してみた。
「今日って、ここにいるの俺達だけ……ですよね?」
「見て分からんか? 何を言っている」
「いえ、すみません」
と、なるとあの声は幻聴、そうでなければ俺しか聞こえていない事になる。アメルも聞こえてなかったみたいだしな。
──アロガンスは、領主として非常に危うい思想の持ち主です。
この言葉が妙に引っかかった。そう告げてくれた声も、今は一切聞こえてこない。
俺はモヤモヤしながら、領主との謁見を終えた。




