良い知らせと
「えぇ……」
「えぇ、じゃないの。これが良い知らせの二つ目なんだから」
ギルドに戻った俺達は、ジェシカさんに話の続きを伺った。残っているのは良い話と、良いか悪いか分からない話の二つ。今聞いたのは良い話……の二つ目、なんだけど。
――C級からB級への昇格。
それはすなわち、領主との謁見を意味する。
「ヤマトが急いでいた理由がこれね。領主は時間に厳しい方だから。中身はギルドでも確認しているわ」
「俺も見させてもらいましたけど、また急ですね」
ジェシカさんから渡された紙には、こう書かれてあった。
――明日、午後二時に昇格の儀を執り行う。遅れずに来るように。
この間の文面と殆ど変わらない。問題なのは、今回昇格するのが俺だけということ。だから行くのも俺だけ、という事になる。
「誰かと一緒に行くのは、やっぱり駄目なんですかね?」
「うーん……従魔と一緒は良いんでしょうけど。アニエス氏やリリさん、イッカクさんみたいな人型の魔物を連れて行くのは、領主の心象的に良くないかも知れないわね。そんなに従魔を引き連れてきて、何をする気だ? って変に勘ぐられるかも」
既に領主からの心象は良くない、なんでかは分からないけど。あれ以上心象を悪くしたら、パーティーの皆に迷惑が掛かるかもしれないし。それは思う所じゃないから、ライムだけ連れて行くのが無難か。とりあえず、リリと領主を会わせるのだけはマズい。何しでかすか分かったもんじゃないしな。
「分かりました。ライムだけ連れていきます」
「それが良いわ、戦闘する訳でもないしね」
遅れずにお願いね、とジェシカさんから念を押された。
「よし、良い知らせはこれでおしまいね」
「残りの一つは、どちらか分からないんでしたっけ?」
「そうなのよ、ちょっと待ってね……」
そう言って、ジェシカさんが机の中を確認していく。あった、と上に出された封筒には見たことがない刻印がされていた。各領地には、その地特有の刻印がある。刻印を持っているのは、その領地で上位に立つ人達。貴族だったり領主だったりが該当するはずだ。
「ジェシカさん、これは?」
「この刻印付きの封なんだけど、カイル君宛なの」
「俺に? ウィズテーラスではなくて?」
「えぇ。刻印付きの封は、基本的に宛主以外が切ってはいけないことになっているの。故に、何が書いてあるか分からなくて」
「良いことか、悪いことかがって事ですね」
ジェシカさんが神妙な面持ちで告げる。
「その刻印は南の領地、ディハートのものなの」
「南の、それで……見たことないと思ったんです」
「南は独自の繁栄をしていてね。以前は、中央とも盛んに交易をしていたらしいんだけど、今は疎遠状態。ジュエレールとは、ちょくちょく戦争まがいの事をしているとも聞くわ」
「えっ!?」
アメルが驚いて大きな声を出してしまっていた。慌てて口を押さえている。
「大元は水の確保に尽きるわね。ディハートの周辺は砂漠地帯で、水はかなり希少だから」
生きる為に水はどうしても必要だもんなぁ。地形の問題はどうにもならないしね。
「話が逸れたわ。そんなどことも交易を行っていない領地からいきなり、それも個人宛てに刻印付きの封なんて来たものだから。ヤマトは領主の件を気にしていたけど、私はこっちの封を急いで改めたいの。カイル君さえ良ければ、ここで開けてもらってもいいかしら? 可能な情報なら、ギルドで共有したくて」
「それは大丈夫です。今開けちゃっても?」
「えぇ、お願い」
ジェシカさんに促され、刻印付きの封をゆっくりと開封していく。中には一枚の手紙が。
「……あ?」
「な、何ちょっと。カイル君、どうしたの?」
読み進めていく内に、紙をくしゃくしゃにしそうになった。顔に出てしまっていたかもしれない。思わず出た声はかなり低かった気がする。手紙にはこう書かれてあった。
――――武闘祭への招待。
南の領地ディハートにもオーガキラー、貴方様の活躍は聞き及んでいます。名前は存じませんが。
さて、この手紙が届いた頃には、後一週間ほどとなりましょうか。南で最強の男女を決める、武闘祭の開催を予定しております。
そこに、本当に、最低限の実力を持たれている貴方様を招待したいと思い、筆を取らせて頂きました。
オーガキラーという、南ではさほど珍しくもない鬼殺し。中央では、その程度で盛り上がれるのも微笑ましい所ですが、どうでしょう? 貴方様の身の丈を知るには良い機会かと存じます。
手紙を確認次第、武闘祭開催までに【運び屋】を通して参加可否のご連絡を。
あぁ、勿論無理強いはいたしません。強者を前に逃げるのもまた、弱者の兵法です。
お返事なき場合も、不参加とさせて頂きます。その際、南では尻尾を巻いた鬼殺し、として民達へささやかな笑いの種とさせて頂きますことをお許し下さい。
では、簡単ではありますが、この辺で。――――ディハート領主・パトラ。代筆者・チャミオン。
……おいおい、随分と言ってくれるじゃないの。節々に漂う上から目線と煽り口調。チャミオンという人。代筆者として名が上がっているが、ディハートの領主、パトラって人はこの文面を良しとしたって事だもんな。
ジェシカさんが、私にも見せてもらって大丈夫? と尋ねてきたから、手紙を渡す。読み進める内に、ジェシカさんの手が震え始めた。
「……カイル君。これ、ギルドで共有してもいいわよね?」
こちらを見るジェシカさんの眼には、炎が宿っている気がした。怒りの炎が。
「勿論です」
「武闘祭、カイル君参加するの?」
「……ここまで舐められちゃ、俺じゃなくても腹立ちますよ。――出ます。俺が強いとか思ってる訳じゃないですけど、尻尾を巻いた鬼殺しなんて異名を付けられちゃ嫌ですし」
自身の預かり知らない所で、そんな噂を立てられちゃたまったもんじゃない。それとは別に、今の俺がどの位やれるのかを知れるいい機会ともいえる。
それを聞いたジェシカさんが口角を上げた。
「参加しないって言おうもんなら、無理矢理にでも参加させるつもりでいたけど、流石カイル君ね! 私達も全力で支援するわ、南をギャフンと言わせちゃいましょ!」
勢い良くガッツポーズを取るジェシカさん。無理矢理参加、なんておっかない言葉が聞こえた気もするが今は置いておこう。
こうして、俺はディハートで開催される武闘祭へ参加することが決定した。




