新しい拠点
ちょっと長いです。
俺達がギルドから歩いて来た場所は──城下街、貴族が住まう場所。
「あ、あの。シドウさん?」
「なんでい」
「ここ……城下ですけど、何があるんですか?」
「ケッ、尻の穴の小さい奴だな。男なら堂々としてりゃいいんだよ、黙って付いてこいってんだ!」
声を張るシドウさん。怒ってないんだろうけど、いや、おっかないのよ。これから何されちゃうの? なにか言うと尻の穴がどうのこうの言われそうなので、大人しく後をついて行った。
そこから少し歩き、一軒の建物へ到着。以前、食事に招かれた貴族の建物と遜色ない頑強な門構えと、そこから見える広々とした庭。それに、奥には大きな屋敷がある。
「こちらは、シドウさんの家ですか?」
「あん? 違ぇよ」
……そうだよな。失礼な言い方だけど、この人が城下に住んでるのを上手く想像できない。ほら行くぞ、とシドウさんは門を勝手に開けた。俺はその行動を慌てて止めに入る。
「ちょ、シドウさん! 勝手に入っちゃマズいですって!」
騎士団を呼ばれて、この光景を見られたら言い逃れ出来ない。不法侵入になってしまう。
「中に入らねぇでどうやって説明するってんだ。聞くより見たほうが早ぇだろうが、ったくいちいち細けぇ奴だな。いいから来いってんだ!」
「うわっ!」
シドウさんは強引に俺の腕を引っ張り、敷地内へ入っていく。……共犯になってしまった。ここの人が出てきたら、死ぬ気で謝ろう。
貴族の屋敷特有なんだろうか。ここも例に漏れず、屋敷に入るまで少し歩かなきゃいけないやつだった。庭自体が凄く広い、良く手入れされている。屋敷の隣には、俺達が訓練で使わせてもらっているティアジャールさんの所と同じくらいの敷地があった。きちんと整地されており、訓練出来そうだなぁとぼんやり考えてしまう。
そうこうしてる内に、屋敷の前まで到着してしまった。されるがままだったけど、これヤバいだろ。
「さ、入れ。中の設備で気になる所があれば教えてやる」
「や、シドウさん。ここ、人様の……それも、貴族の屋敷ですよね? それに説明って……話が見えてこないんですが」
それを聞いたシドウさんは、まじまじと俺を見た後アニエスに声を掛けた。
「なんだアニエス。お前ぇ、伝えてなかったのか?」
「ん? あぁ、驚かせようと思ってね」
そんじゃま、仕方ねぇか、なんてシドウさんは言っている。シドウさんはこちらを向き直り、こう告げた。
「どうりで話が通じねぇと思ったわ……おい、カイル。耳の穴かっぽじってよーく聞けよ?」
「は、はい」
「ここは────お前の、お前達パーティーの、家だ。さっきから貴族がどうのこうのうるせぇが、そんなの居るわけがねぇ。お前が主なんだからよ」
「……は?」
「俺が造った。ほら、さっさと入らねぇか! 先に進まねぇだろうに!」
そう言って押し込まれるように屋敷内へ入れられた俺。後から皆も中へ。屋敷内はやっぱり、貴族が住まうに相応しい煌びやかな造りと装飾が施されていた。
「うわぁ……綺麗……」
「すっご、何よコレ……」
皆も中を見渡しているが……待って、頭回らないって。なに……家? 貴族が住んでいてもおかしくないようなこんな屋敷が、俺達の? どういうこと?
頭が真っ白な俺に、アニエスが声を掛けてくれた。口角を上げて、少し意地悪そうな笑みを見せている。
「ふふ、すまない主様。まさかそこまで驚くとは思わなんだ」
「ア、アニエス?」
「カイルお前、アニエスに感謝しろよ? わざわざ俺が、重い腰を上げてやったんだからな!」
「じ、じゃあ……これは、アニエスが? シドウさんに頼んで?」
「左様」
アニエスが頷くのと同時に、リリがアニエスに飛び込んで抱きついた。
「おっ、と。急にどうしたんだい? リリ」
「アニエス〜! ありがと〜!!」
普段お礼なんて言わないリリが、猫撫で声で話している。家を一番欲しがっていたのがリリだ、やっぱり嬉しいんだな。
「気にすることはないよ、主様の為にした事だからね」
「あっそ」
アニエスから離れたリリは一瞬でいつもの様子に戻り、シドウさんに個室はあるんでしょうね? と食って掛かっていた。
「せっかちな姉ちゃんだな、順に説明してやるから待ってろ! カイル、主が来ねぇと話が進まねぇ。さっさと来い!」
「わ、分かりました!」
未だ実感は湧いてこないが、ここは俺達の家……らしい。フワフワした気持ちの中、シドウさんが屋敷内の説明をしてくれたけど、ほとんど頭に入ってこなかった。
「──大体こんなもんだな。何か質問あるか?」
中の説明をあらかた終えたらしく、俺達は食堂となる場所へ集合しシドウさんからの話を聞いていた。
入ってすぐの所から、二階へ上がる階段がある。二階は主に、個人の部屋になるみたいだ。部屋に今いるメンバーを割り当てても、まだ空き部屋があった。今後もしメンバーが増えたとしても、一人の空間を確保出来るのは良いことだ。
今いる一階には大きな調理場がある食堂、それに湯浴み場もすぐ側にある。西側には、アニエスがシドウさんへお願いしたであろう資料室、研究室の様な部屋があった。
少なからず実感が湧いてきた俺。まじで、ここ俺達の家なんだな……。
「カイル、お前ここの主だろうが。何呆けてるんでい」
「は、はい。すみません、あまりに凄くって……そうだ、シドウさん。支払いってどういう形になってるんですか?」
「主様、そこは私に任せておくれ」
「い、いや一人に背負わせちゃ駄目でしょ」
もし建てるなら、商店街の住宅地へ大きめな家をと考えていた俺としては、城下の、しかもこんなに大きい屋敷を建てるなんて考えてもいなかった。アニエスが良かれと思ってしてくれた事だし、事実もう家は出来てしまっている。一番の心配はお金の工面だ。
「カイル! こういうのは黙って受け取りゃ良いんだよ! 従者に花を持たせてやるのが粋ってもんだろ!」
それに金なら全額貰ってるからな、もう要らねぇよ! とシドウさんが腕を組みながら言ってきた。支払った……って、まじ? 城下だよ? 相当な金額になるはずだ。
「シドウが言うからではないけどね。これはちょっとしたお礼だよ、私に花を持たせてはくれないかい?」
面白いものも見れたしね、とアニエスは俺を見て何故か含み笑いをしていた。
「そ、そこまで言うなら……でも、何かあったら言ってね。無理させたい訳じゃないし」
「あい分かった」
「修理だなんだは俺に連絡を寄越してくれ。そうだな、ヤマト経由でいいぞ。お前達は反応が素直で良いからな、タダでやってやる」
「い、良いんですか?」
「俺が良いって言ってんだからいいんだよ。何かあれば呼んでくれ、それじゃあな!」
そう言って、シドウさんはさっさと帰ってしまった。なんていうか、竹を割ったような性格をしている人だな。裏とかなく、全部口に出てそうだ。
「じゃあ、二階の部屋割りどうする? 私とカイルが隣で良いわよね?」
「ちょっとリリ! わ、私もカイルさんの隣の部屋が良いんですけど……だ、駄目ですか?」
二人して同時に俺を見てくる。俺、角部屋が良いんだけどなぁ……。アニエスはその様子を見て下を向き、身体を震わせていた。絶対笑ってるだろこれ。
「い、一旦さ、ギルドに他の話も聞きに行こう。その後でゆっくり決めよう? ね?」
それなら転移陣を開こう、声まで震わせ始めたアニエスが転移陣を展開し、俺達はギルドまで再び向かった。




