お達し
オーガの変異種討伐から一月が経とうとしていた。早朝の訓練、それは変わらず続けている。ティアジャールさんが見守る中、俺はイッカクと立ち会っていた。何度か打ち合いの末、一度距離を取る。
「大分良くなってきたな」
「はぁ、はぁ……そ、そうですか?」
ティアジャールさんの声掛けに、汗を拭いながら応える。自分では実感が湧かない。ライムとは融合しているけど、イッカクは毎度ながらその場から一歩も動いてないし、一撃も入れれていないからなぁ。
「以前ヨリモ速クナッタ。緩急モ付イテイル」
変異種と戦った時に使った、個人スキルの強化。意識することで強化が出来、それを訓練の時から使うようにしてる。そのおかげかは分からないけど、反動が来るまでの時間がかなり延びた。これは明確な強化になっている。今も汗が止まらない位には動いたけど、ふらつく様な感覚はない。
褒めてくれるのは嬉しいけど、イッカクにはまるで通用しない。まだまだ実力の一端すら見えないし、どうなってんのよその強さ……。
吹き出る汗を拭い、改めて構える。と、コココンッという音と共に、ティアジャールさんの店から出て来た人物が。あれは……ヤマトさんだ。
「おはようございます。えっと? ……そうか。最近この時間は訓練をしているんだったね」
「おはようございます、ヤマトさん」
「ヤマト。人の店から出てくるな」
ティアジャールさんは渋い顔をしている。ヤマトさんの個人スキルの前では、建物の鍵はあってないようなものだ。ヤマトさんもそれは承知しており、申し訳なさそうにしていた。
「す、すいませんティアジャールさん。これは仕様みたいなものでして……自分で調節は出来ないんです」
「……どうした。カイルに用事か」
そうです、と答えるヤマトさん。
「いつもより、早い時間になりますね。何かあったんですか?」
「いや、あのね。色々ありすぎてね? 本日中にカイル君をギルドへ、ってお達しがあってさ。今日、時間あるかな?」
「はい。特に何もないですけど」
「良かった。落ち着いたらギルドへ来てくれるかな? ジェシカに話は通っているから」
「分かりました」
それじゃ、とティアジャールさんの店から帰ろうとしていたヤマトさんだったが、ヤマト、と呼び止められ、慌ててギルドの方向へ走っていった。ちょっと可哀想だな。
「そろそろ開店の支度をする。お前達も忙しくなりそうだし、早めに上がっておけ」
そう言って、ティアジャールさんも店へと入っていった。
「ヤマトさんが色々あるって言ってたな……悪い事じゃないといいんだけど。イッカク、戻ろう」
「アア」
俺達は一度宿に戻り、食事を頂いてからギルドへと向かった。
ギルドへ到着した俺達。受付にいるジェシカさんの元へ。
「ジェシカさん来ました。おはようございます」
「おはようカイル君。それに他の皆も」
笑顔で返してくれるジェシカさん。ジェシカさんはちょっと待っててと告げ、奥にいる職員さんと話していた。
「お待たせ。ヤマトには会ったのよね?」
「はい、なんだか慌ててる様子でしたけど……俺、なんかやっちゃいました?」
そんな覚えはないけど、意図せず……なんてことはあるかもしれない。ジェシカさんは首を振り、こう告げた。
「二件は良い知らせ。一件は分からないわ」
分からない? なんでだ?
「ジェシカ、という事は……出来たのかい?」
その会話に入ってきたのはアニエスだった。
「はい。一人であの規模の物を造り上げてしまうなんて、それも一月掛からずです。にわかには信じられませんが……今ヤマトに呼びに行ってもらってます」
その後も会話を交わす二人。アニエスがジェシカさんを名前で呼んでる。いつの間に仲良くなったんだ? そもそも何の話をしてるんだろう?
疑問が頭の中を飛び交って行く中、ギルドの奥からヤマトさんと……誰だ? 少し年配に見えるが、とても元気そうな男性がやってきた。
「ヤマト、お前ぇ来る時は来ます、って前もって言えって言っただろうに! いきなり来んじゃねぇよ、びっくりするだろうが!」
こちとら飯の最中だってのによ! と言葉をぶつけている。
「す、すみませんシドウさん。これは仕様みたいなものでして……」
ヤマトさんは、さっきと同じ謝り方をしていた。多分だけど、こういう事が何度かあったんだろうな。
シドウと呼ばれた人は、俺を見るなりこちらへ歩いてきた。一度、視線をアニエスに向けた気がする。
「お前がこのパーティーのリーダーか?」
「はい。ウィズテーラスのカイルといいます」
俺がそう言うと、シドウさんは俺の肩をガッシリと掴んだ。な、なんだ!? 慌てて身構えてしまう。
「お前ぇ……いい従者を持ったなぁ! 大事にするんだぞ!!」
「は、はい?」
呆気に取られていると、アニエスが話を進めてくれた。
「もう少し掛かると思っていたが、早かったね」
「誰にもの言ってんだアニエス! 引き受けたからにゃ、全力で応えるのが粋ってもんよ!」
そうかい、と微笑むアニエスと豪快に笑うシドウさん。アニエスとシドウさんは知り合い……っぽいぞ? 待って、何の話? 俺は話が掴めなくて、助けを求めた。
「ジ、ジェシカさん?」
見るとジェシカさんも苦笑していた。
「カイル君、これが良い話の一つ目よ」
「そ、そうなんです?」
「カイルって言ったな。主が来ないと話になんねぇ! いっぺん付いてこい!」
そう言って、俺の腕を引っ張るシドウさん。
「ち、ちょっとシドウさん!?」
慌ててジェシカさんに視線を向けると、にこやかに一度頷いた。だ、大丈夫って事か。
「後の二つは終わってから話すから。一度行ってみて」
ほら、早く来い! とシドウさんに引っ張られていく俺は、半ば強制的にギルドを後にした。




