サキュバスの能力
ちょっと長いです。
「最近さカイルの奴、私のこと雑に扱ってる気がするのよね。これって、もしかして倦怠期ってやつ?」
「出たよ、脳内お花畑め。そもそもアンタ達、付き合ってすらいないだろうに」
武闘祭参加が決まる前、中央都市ボカティオパレスにて。二人はお菓子を頬張りながら、話し合っていた。話題は主にリリが振り、ランクスが嫌々答えていく形で落ち着いている様だ。
「周りに女が多過ぎるのがいけないと思うの。私は構わないけどカイルの奴、人前でいちゃつくの恥ずかしいみたいでさ」
奥手で困っちゃうわ、もっと迫ってくれていいのに、と言うリリに苦虫を噛み潰したような顔しているランクス。
「……だったら、宿にいる時でも襲えばいいじゃんか。アメルの手前、アンタを応援する気はさらさら無いけど。サキュバスでしょ、夢の中入れるんじゃないの? あ、フルーラ。今のやつおかわり」
ランクスは面倒くさそうに言い放ち、執事であるフルーラへ飲み物の催促をする。フルーラは、嫌な顔せず器を受け取り、そこへいい匂いがする飲み物を注いでいく。
「いやまぁ……出来ないこともないけど? 今までやらなくても何とでもなってて、試したことないし」
サキュバスの特性として、夢の中へ入り、所謂いい夢を見せた対価に、精気をもらうというものがある。リリは食事だけで精気を賄えているようで、実際に今まで試したことがなかった。
「なに? アンタまさかひよってんの? ハハッ! そんなんじゃいつまで経っても平行線だよ」
軽快に笑うランクスを、リリが睨みつけた。
「は? 舐めんじゃないわよ。私がやれないとでも思ってんの? ……いいわ、見てなさい。今度、虜にしたカイルも連れてきてあげるから」
そう言ってリリは立ち上がり、フルーラにごちそうさまと告げ、足早に館を後にした。
「失敗しても骨くらいは拾ってやるよー!」
閉まる扉へ向けて、ランクスは言い放った。
「……ったく、アイツの頭には色恋しかないのかよ」
そう言いながらも、にこやかに飲み物を口にするランクスを、フルーラは微笑ましく見つめていた。
「うぅ……寒っ! えーと、確かアイツの部屋はこの辺……あ、いたいた」
夜。カイルの奴、考え事があるからってさっさと部屋に戻っちゃった。詰める相手が居なくなった私達も、一度解散して各々の部屋へ。まだまだ言い足りなかったわ。アメルやババアならまぁ、百歩譲ってあげてもいいけど、他の女へなびいたりしちゃってさ。私にはそんな素振りすらないのに、あームカつく。
チビ助に煽られた私は、カイルを虜にするべく部屋へと侵入することに。ここの宿、なんでか窓無いのよね。部屋は二階より上みたいだけど、飛べる私にとっては訳のない高さ。庇護区内だし、危険がないからなのか分からないけど、夜寒いじゃない。なんで窓無いのよ。
まぁ、今は都合いいから良いけどね。
「はい、侵入成功……っと」
部屋の中へ入ると、カイルは布に包まって身体を丸めてる。ほら、やっぱり寒いわよね?
「あ、リリだー!」
「ちょ、シーッ、シーッ!」
嬉しそうに跳ねているライムに慌てて指を立てる。起きられたら私の能力が使えないじゃない! アンタなんで動いてんのよ。
「静かに……いいわね?」
「分かったー」
「ふぅ……ライム、アンタ寝ないの?」
時間だけいえば、かなり夜も更けてきた。他の建物の灯りも消え、この辺には人も見当たらない。普通の人なら大体寝てる。サキュバスは、どちらかといえば夜の方が強いし、寝ないでおこうと思えば朝まで余裕だけど。
「寝る? カイルみたいにー?」
不思議そうにしている、日中と変わらない元気なライムに違和感を覚える。
「嘘……アンタまさか、寝たことないの?」
「ないよー」
思わず眼を見開いちゃったけど……落ち着いて一度、息を吐く。
「……ま、アンタだもんね。いちいち驚いてらんないわ」
今更よ、このスライムがおかしいのは分かってる。切り替えて、カイルの側へ座る。私の目的はこっち。
「なにするのー?」
「ちょっとね。別に、変なことはしないわよ。ライム、危険がないように、私達のこと見張ってなさい」
「いいよー」
ライムがいるなら、多分無防備になっても問題ないわね。寝返りで上を向いたカイルの顔を覗き込む。
「っとに、気持ちよさそうに眠っちゃって……さて」
自分の能力だ、どうやればいいのかは身体が分かってる。私は、カイルの額へ自分の額をくっつける。そのままにしていると、どんどんと景色が移り変わっていった。
「……よし、着いたわね」
「あれ、リリか? どうしてここに、って……ここ、どこだ?」
辺りは一帯、真っ黒。先輩に、夢は本人の潜在意識が反映されるとかなんとか聞いた気がする。カイルは辺りを見渡しており、訳が分からない様だった。
「ったく、暗くてやんなっちゃうわ」
指を鳴らすと、一瞬で景色が変わる。そこは、高級ホテルの内装だった。
「なっ、なんだいきなり!? これ、もしかして……リリが?」
へぇ、初めてだったけど出来るもんね。
「そうよ? あんな暗い所でどうのこうの、私は嫌。やっぱ、雰囲気ある所じゃないとね」
「な、何の話だ? そもそも、ここは一体……」
「ここは────アンタの夢の中よ。アンタも正確には潜在意識な訳だから、本物じゃないわ。ま、私もだけど」
「夢の中……そうなのか? 確かに、ライムも居ないし他の皆も」
再び指を鳴らす。すると、カイルの身体が宙を舞い、ベットに寝そべった姿勢になる。
「わ、わ! なんだこれ!? 身体が、上手く……!?」
カイルはもがこうとしてるけど、動かないみたい。それはそう、私がそうしてるから。夢の中でのサキュバスは、なんでも出来るって先輩に聞いてはいたけど……マジなのね、最強じゃん。
私は焦らすように、ゆっくりとカイルへ近付いた。
「私を前にして、他の事を考えるなんて……随分と余裕ねぇ?」
そして、カイルに覆いかぶさるよう上に跨った。
「ちょ、リリ!」
「なによ、嫌なら命令でもして止めればいいでしょ? ババアが言ってたじゃない、アンタの言うことなら絶対だって」
だから私は夢の中を戦場にした。確証はないけど……ここなら、カイルに何か命令されても抗える気がしたから。
最近、何かやれば咎められてばっかよ。ホントつまんない。さて、どうしてやろうかしら。私が考えていると、カイルは眼を逸しながらこう話した。
「別に……嫌な訳ないよ。リリ、可愛いんだから」
「なっ!?」
今まで言われた事がない言葉に、顔が一瞬で熱くなる。えっ、と! 落ち着きなさい私! 眼の前のカイルは潜在意識! 本物じゃない! って、あれ……じゃあ、本心はそう思ってるって事……よね?
再び熱くなる顔。火が出そうなくらい熱い。あ、汗かいてないわよね私!? 慌てて顔を触る。かろうじて、まだサラサラしていた。
「リリ? その、段々……よけてもらいたいんだけど」
カイルも今の私と同じであろう、顔を真っ赤にしていた。それを見た私は嬉しくて、ついニヤけてしまう。
「へ、へーそう。ふーん、恥ずかしいんだ?」
「いや、普通にそうなるだろ。可愛い子にこんな体勢取られるなんて、思いもしないって」
「ちょっと!?」
なんなのもう! 私をどうする気!? 顔熱すぎて訳分かんなくなっちゃう!!
本音だだ漏れのコイツといたら身が持たないわ……。指を鳴らすと、カイルの眼に布が被せられた。
「うわっ!?」
「色々と遊んであげようと思ったけど、こっちの身が持たないし……いいわ、今のアンタの言葉に嘘は無いんだから。今までの事は、それでチャラにしてあげる」
「そ、そうなのか?」
「そうそう、素直な子には────ご褒美を上げなくちゃね?」
「お、おいリリ? この布、何も見えないから外して──」
ほんとはカイルの方からして欲しいけど。そう思いながら……私は何か言おうとしてるカイルの口を、そっと塞いだ。




