酒場で情報収集.3
ちょっと長いです。
そこから少し話し、話題は武闘祭へと戻った。
「──毎年優勝するだけでよ、面白い感覚が段々無くなってきたんだわ。中央で言えば、【最強】か【最狂】辺りがくれば面白いと思うんだがな。それに、守護者にも認めてもらえたしよ。今年か……来年辺りで、いいとこ参加は止めようと思ってんだ」
何故か結婚してもらえなかったしな、と肩を落とすライカーさん。この人が武闘祭優勝者、なんだ。ライカーさんを超えなきゃいけない、って事か……。
それはそうと、俺は気になった言葉を尋ねてみる。
「あの、守護者って何ですか?」
「その為に鍛えたってのに、どうすりゃいいんだ俺ぁ……と、すまん。守護者の話だったな。この領地から、更に南へ進むと守護者がいるダンジョンがあってな。その最奥にいる、主みたいなもんだ。そいつに実力を認めさせると、ダンジョン攻略の証となる……ほら、これだ」
そう言って、ライカーさんが耳の飾りを見せてくれた。無骨に出来たその耳飾りは、耳にしっかりと嵌まっている。
「このピアスをもらえるみたいだ。付けてるのは、現状俺だけだ。ちょっとした自慢なんだぜ?」
「それは……凄いですね。ライカーさん、一人で行かれたんですか?」
「あそこは武闘祭優勝者しか、入ることを許可されてないんだわ。無くても入れるみたいだが、余程の実力がないと、多分死ぬぞ?」
多分死ぬの? ねぇ、この領地の外側、大体死ぬとか多くない?
「ま、カイルももうちょっと大人になって、優勝した時でも行ってみるといい。そんときゃ案内してやるよ」
ライカーさんに、肩をポンポンと叩かれる。この人は馬鹿にする気はないんだろうけど……今年も優勝は俺なんだから、俺が引退するまで待て。何故かそういう風に聞こえてしまった。
「──大分馴染んでいるね主様。楽しんでいるかい?」
声の主はアニエスだった。直接転移してきた訳じゃなさそうだ。
「あ、アニエス。用事は済んだの?」
「終わったよ。元気だったが、暇そうにしていた」
昔からの知り合いだったんだろう。苦笑するアニエスに、俺もつられて笑ってしまう。
「なっ……お前……ア、アニエス!? じゃあ、あそこに寄っかかってるのは、角はないがイッカクなのか!?」
何故かライカーさんは、驚いた様にイッカクを指差す。
「あぁ、ライカーか。久し振りだね」
ライカーさんは、アニエスと俺を交互に見る。
「カ、カイルよ。こりゃどういう……なんで、お前がアニエスと一緒にいるんだ?」
どうやら、ライカーさんとアニエスは面識があるみたいだ。イッカクの事も知ってるみたいだし。
「えっとですね──」
すると、アニエスが俺に近付いて腕を絡めてきた。
「なっ!?」
「ライカー、今の私は主様の女だ。すまないね」
確かにそうではあるんだけど……言い方はそれでいいの? う、腕絡める必要ある?
ライカーさんは俺達を見て、座ったまま身体を振動させていく。ど、どういう動きなの? リリはもの凄い睨んでるし、後ろからはヤバい気配を感じる。決して振り向くまい。
振動が止まり、ライカーさんはゆっくりと立ち上がる。そして、未だに動かないキトさんを肩に担いだ。
「カイル……お前、武闘祭出るんだよな?」
「え? は、はい。そうです」
「決勝まで来れたらお前、覚悟しとけよ。店主、自警団にツケといてくれ!」
ちくしょおお!! どうしてだよぉお!! そう言いながら、キトさんを担いだライカーさんは走り去っていった。な、なんだか可哀想な気がしてきた。
「ババア! いい加減離れなさいよ!」
「と、すまないねリリ」
大きな音を立てて近付いてきたリリを見て、アニエスがゆっくりと離れる。柔らかい感触が腕に残っていて、顔が熱い気がする。
「お、俺達も行こう。すいません、もう一杯水をもらえますか?」
頂いた水を一気飲みして、顔の火照りをなんとか冷ます。ある程度情報も集まったし、俺達は酒場を後にした。獣人は四つん這いのままだった気がする。
酒場から出ると、寒いくらいの空気が肌を刺す。昼間とはえらい違いだ。
「寒っ!」
「わっ、冷えますね……!」
「南の気候ならではだ。もう少し夜が更けると、凍える程になってくる。早めに戻った方がいいね」
中央とこんなに違うのか。寒暖差にやられて、武闘祭前に調子を崩したんじゃ元も子もないしな。戻ろうと区内へ足を向けた時、区外の一画が眼についた。そこはどの店も灯りがついており、寒いはずなのに結構な人が居た。呼び込みをしてるのは、主に女性みたいだ。
「あれ、なんだ? アニエス、あっちの方賑わってるみたいだけど、なんだか分かる?」
「ん、あぁ。あれは遊郭だよ。あの辺り一帯がそうみたいだ。身体は温まるだろう、行ってみるかい?」
遊郭……遊び場って事だよな。女性と眼が合うと笑みを浮かべて、手招きをしてくれた。よし、折角だし行ってみるか。そう思った瞬間、両脇を抱えられた。
「カイルさん? どこへ行かれるんです? 寒くなってきましたし宿へ行きましょうさぁ早く」
「アンタは……っとに! ババア! 軽々しく変なこと言ってんじゃないわよ! ほら、帰るわよ!」
リリの怒声に、アニエスはすまないと苦笑していた。まさか……こ、こうなる事分かってた感じ? 引きずられそうになり、慌てて声を上げる。
「わ、分かった、分かったって! 自分で歩けるから!」
その後、宿に着いた俺達。何故か俺は正座をさせられて、二人に詰め寄られていた。
「サイテー。私というものがありながら、他の女になびくなんて」
「い、いやごめん。大人の遊び場と思ってなかったんだよ」
「……ほんとですか?」
「ほ、ほんとだって!」
中央にはそんな場所がなく、すっかり忘れていたけど、ギルドの文献にはあったような気もする。アメル、その笑顔おっかないからやめて……。
その後二人は、アンタ、女に囲まれてるからって、感覚麻痺してるんじゃないでしょうね? とか、カイルさんは、ああいう衣装が好み……なんですか? とか言っていた気がするが……俺は、酒場での出来事を思い返していた。
武闘祭例年の優勝者で、南のダンジョン、その守護者にも実力を認められたというライカーさん。受け止められた拳は、ビクともしなかった。それに、キトさんを吹き飛ばした時の拳……俺には全く見えなかった。
圧倒的な力の差。それこそ、イッカクと戦っている時を感じさせられる様だった。ライムのスピードは随一だ。早々負けるもんじゃない。だけど、融合して火力が上がるかと言われると、疑問になってしまう。
ライムの力を全部引き出せていない俺は、鬼斬によって火力を補っているから。勿論、それでも問題なかった。
でも、武闘祭は祭りというだけあって、別に殺し合いじゃない。武の高さを競う大会だと認識してる。出来れば、鬼斬はあまり使いたくない。だとすると……。
「どうした主様、考え事かい?」
「え? あ、いや。ごめん、聞いてなかった。何の話だっけ?」
眼の前にいる二人は、その眼を丸くしていた。ごめん……マジで聞いてなかった。そもそも、二人が話してる時に考え事しちゃまずいよな。
「アンタまじでさぁ……」
「遊郭が気になったのかい? 女性の身体に興味があるなら、私と夜伽でもするかい?」
「は!?」
夜伽の意味は覚えていた俺。思わず大きい声を出してしまい、視線を集めてしまった。
「ふふ、冗談だよ。──出来ることは色々試すといい。強いよ、ライカーは」
「……あぁ、分かってる」
アニエスには筒抜けだった、そりゃそうか。
俺は立ち上がり痺れる足を押さえながら、武闘祭について考える事があると告げ、一人早めに部屋へと戻る事にした。




