酒場で情報収集.2
俺達の拳を掴んだまま、何事も無かったかのように話を続けるライカーという人。
「ほら、いつまで力入れてんだ。二人共、一旦落ち着け」
「ラ、ライカーさん! こいつは、カラミティを使ってる疑いがあるんです!」
「あ? マジか」
そう言って、こちらを見つめてくるライカーさん。体格はイッカクと同じ位でかなりデカい。筋骨隆々としている。でもこの人……人族、だよな? 獣人や、他の種族に見られる身体的特徴がない。
「兄ちゃん。聞くが、どうしてこうなった? お前さんから吹っかけたのか?」
俺は警戒を落とすことなく応じた。
「まさか。情報を仕入れに来たら、吹っかけられたんだよ。そいつと、コイツに」
リリの尻に敷かれている獣人と、眼の前にいるキトさんを順に指差す。ふーん、とライカーさんは考えるように天井を向いた。握られた拳は、未だにびくともしない。
「これよぉ、キト。兄ちゃんは受け答えもしっかり出来てる。それに、吹っかけたのはお前達からって言うじゃねぇか。これ、正当防衛だろ」
「ライカーさん! 俺はそこまで黒くなってる奴、見たことないんです! 今キメてないだけで、絶対やってますよ!」
キトさんがそう訴えると、すまなかったな兄ちゃんと言って、ライカーさんは俺の拳を離し────もの凄い勢いで、キトさんへ殴りかかった様に見えた。そんな風に思ったのは、ライカーさんが振るったであろう拳が、まるで見えなかったから。
「がっ……!!」
キトさんは轟音と共に、一気に酒場の壁まで吹き飛ばされる。そのまま動かなくなった。
一瞬の出来事に、あれだけ騒がしかった店内は沈黙に包まれる。
「カラミティを使った奴は呂律が回りにくく、攻撃性が高まるって言ってんだろ? 【狂犬】の方が余程だろうに。それに、パトラも黒髪なんだ。あんま黒髪自体を悪く言うのは止めろ。って、聞こえてねぇか」
ったくよ、と言いながら、壁にめり込みつつあるキトさんをその場から引っこ抜き、椅子へ座らせていた。身体は傾いていたが、その辺はどっちでも良いらしい。ライカーさんは、こちらへ近付いてきた。
「兄ちゃん、ウチのもんがすまなかった。情報収集って言ったな。俺が知ってる事なら教えるから、それで勘弁してくれ。なぁ、お前らもすまなかった! ここは俺達自警が持つから、遠慮なくやってくれ!」
ライカーさんが告げると、周りからは流石だぜ! とか、マジで強ぇ! といった声が聞こえ、段々と賑わいが戻ってきた。
「ほら、兄ちゃんも。奢るしよ、カウンター行こうぜ」
「……はい」
戦闘する気はないみたいだ。融合は解かず、勧められた一席へ腰掛けた。
「あっちの姉ちゃんも仲間か? 酒場にいる男を尻に敷くとは……大したもんだ」
「あ、ありがとうございます」
リリは面倒そうに獣人へ腰を降ろしたまま、頬杖をついている。獣人はリリが少し動く度、ホホォ! と奇声を上げだしており、周りの人達もそれを肴にしながら、酒を楽しんでいた。
イッカクは壁へもたれており、アメルに危険はないだろうけど一応、隣に座ってもらっている。
「そういえば兄ちゃん、こっちの人じゃねぇだろ。聞いてただろうが改めて、俺はライカーっていう。自分でいうのもだが、南じゃ少しばかり有名なんだぜ?」
「ライカーさん、でいいですかね。中央から来ました、ウィズテーラスリーダーのカイルです」
「中央か、また遠い所から来たな」
「武闘祭へ招待されまして」
それを聞いたライカーさんは、俺をまじまじと見てきた。
「ほう……線は細いがよく鍛えてるな。いい線いくと思うぞ。それで、情報収集だっけか。何が聞きたい?」
武闘祭について聞いてみたかったが、早々に話を切り上げられた。俺は今までの話から、聞きたいことを纏めてみる。
「えっと、色々あるんですけど。武闘祭開催の場所、それまでに訓練出来そうな所。カラミティっていうのと、ライカーさんが言われてた【狂犬】について伺いたいです」
「うお、凄ぇあるな。ちょっと待ってくれ」
短ぇのから説明した方がいいな。そう言ってライカーさんは話し始めた。
「まず武闘祭の開催場所だが、区外西側にある闘技場だ。昼間でも行ってみたらいい、観客席はいつでも入れる。訓練出来る所ってのは、正直ねぇな。強いて言えば、区外が訓練そのものになったりする。まぁ、ちゃんとやろうとするなら、領地外だな。だが、涼しいからって夜訓練しようとするなよ。夜はデザートスパイダーがウヨウヨしてるからな」
「デザートスパイダー?」
「あぁ、夜行性の蜘蛛だ。群れで動いててよ、噛まれると大体死ぬぞ?」
「えぇ……」
大体死ぬの? 行かない、絶対行かないよ、俺。
「まぁ、昼間は地中に潜ってるから、そう危険はねぇさ。さて、後はカラミティと【狂犬】か」
どちらも、中央では聞き覚えのない言葉だ。
「カラミティからいくか。最近、区外でその薬をバラ撒いてる奴がいるんだわ。とんでもない力を手に入れる反動として、身体、特に髪や眼とかが多いか。元の色から、黒く変色していくんだ。それに呂律が回りづらく、攻撃性、凶暴性が増す。俺達自警団は、今その出処を探してるんだ。あの馬鹿が先走ったのはカイル、お前さんの髪が黒かったせいだと思う」
指を差した所にはキトさんが。未だピクリとも動かない……死んでないよね?
思うことがあって、絡んできたのは分かった。けどなぁ。
「まぁ、村でもこの髪は散々言われてきましたし。その辺は大丈夫です」
「別に危険がある訳でもないのに、なぁ? 昔惚れた女も言ってたぜ。『闇を目指す者にとって、黒が身体に現れるのがどれ程凄いことか』ってよ」
その台詞、どっかで聞いた気もするな?
「もし、こいつカラミティ使ってるんじゃ? って引っ掛かる奴を見つけたら、自警団に声を掛けてくれ」
「分かりました」
変色して黒くなったであろう髪や眼、加えて攻撃性や凶暴性が上がる、と。覚えておこう。
「最後は【狂犬】だな。区外でよく見かけるが、アイツいつも剣を抜きっぱなしでよ。区外の奴からは、【狂犬】なんて名が付けられてんだ。よく俺等が世話してる」
別に強くはねぇんだ、とライカーさんは笑った。多分、ライカーさん基準ではアテにならない気がします。
「そいつは呂律も回ってなくてな。カラミティを使ってる、それかバラ撒いてるんじゃないかって噂されてるんだわ。身体的な特徴はねぇから、自警団としてはグレーとして眼を付けてる。カイル、お前も絡まれて面倒だった時は分屯地に来い。誰かしら居るからよ」
「はい」
日中は【狂犬】、夜はデザートスパイダーに気をつけろって訳ね。了解。
「ライカーさん、色々教えてもらってありがとうございます」
「いや、うちの馬鹿が迷惑掛けたんだ。その位はな」
とりあえず何か飲むか? と聞かれ、じゃあ水をと伝えたら、眼を丸くしてカイルお前……成人してないのか? マジ? と二度聞き返されてしまった。してないんです。




