南のダンジョン
カイル達と別れたアニエスは、転移陣を使いとある場所へと来ていた。
ディハートから出て、砂漠地帯を更に南へ進むと現れる一つの建造物。それは、ピラミッドの様な形をしている、南のダンジョンであった。
「ここに来るのも久し振りだ、変わらないね」
アニエスは、そのダンジョン最奥まで一息に転移していた。手に小さな火を灯すと、眼の前には一つの像が。それは、甲冑に身を包んだ兵士の姿。剣を地面に突き刺し、存在感を放っている。
「さて……聞こえているだろう? 久し振りだね、砂人兵」
アニエスは像へと話し掛けた。すると、ゆっくりではあるが、頭部がガリガリと音を立てながら僅かに動き、アニエスを捉える。
「……久し振りだなアニエス、息災か」
「あぁ、お前の方はどうだい?」
「私は……何も変わらない。マスターからの命を果たすまで」
「くく、本当に変わらないね」
アニエスは、砂人兵と呼んだ像からの返事に苦笑する。その様子を見ていた砂人兵から、疑問が投げられる。
「アニエス、お前は変わったようだ」
「おや、そう見えるかい?」
「あぁ。弱くなるどころか強くなっている様に感じる。共に行動していた時、お前はそんな風に笑うことはなかった」
戦いの最中はずっと笑っていたがな、と砂人兵は告げる。
「あの後、色々とあってね。それを踏まえ今の私がある」
「そうか」
アニエスの返答に、砂人兵は端的に返す。
「相変わらずそっけないね。折角来たのだから、色々と聞けばいいものを」
何かないのかい? とアニエスは尋ねた。
「話したければ話せ。私はマスターの命を遂行しているに過ぎん」
「……そうかい。まぁ、私も昔話に花を咲かせるガラじゃない。お前が健在かどうか、それを確認しに来た。どうやら、その様子だと問題ないようだね」
「何の話だ?」
話が掴めない砂人兵は、アニエスに先を促す。
「南では、武闘祭があるだろう?」
「あぁ。例年、ライカーという【武闘家】が優勝しているらしい。数年前、私の所へ来た覚えがある」
それを聞いたアニエスは、眼を丸くした。
「まさか……あの坊やが、そこまでになっていたか。歳は取りたくないものだ」
「獣の鳴き声がしたかと思ったら、水を上手く扱われてしまった。あの者の実力は、確かだ」
「獣……あぁ、ティアジャールの宝具か。それでも、お前とやり合えるとは大したものだよ」
「それで、武闘祭と私になんの関係がある?」
「いやなに。私の主様が武闘祭へ出る。その後、いつになるかは分からないが、ここに来るかもしれないと思ってね」
突然来ても良かったんだが、久し振りに南へ来たから挨拶をね、とアニエスは言った。
「主……お前程の者を従者にするとは……何者だ?」
「その者は【従魔士】、その三代目にあたる人物だ」
「!?」
そこで砂人兵は驚いたのか、初めて全身を動かした。と、同時に身体全体が崩れ、大きな音を出し像は粉々になってしまった。
「全く……いつから動いていないんだい?」
アニエスは心配するでもなく、少し呆れたように話し掛ける。アニエスの眼の前で砂がゆっくりと舞い上がり、それは先程の兵士の姿を型取っていた。砂人兵は、何事もなかったかのように話を続ける。
「……すまない。私には最早、何年経過しているかも分からない」
【格闘家】が来て以降、誰も来ないのでな。砂と化した砂人兵は続けた。
「アニエス。その三代目の【従魔士】とは……まさか、マスターと繋がりが?」
「いや、血縁を調べる限りでも、その可能性は低い」
「そうか……」
砂人兵の声色が、少しだけ小さくなった。
「まぁ、そう悲観するな。どうせここから動く気はないのだろう? いずれ連れてくる」
「……そうか。待っている」
では、私は行くよ。主様はまだまだ弱くってな、手が掛かってしょうがない。と、どこか嬉しそうに転移陣を展開したアニエス。
「あ、そうそう。砂人兵や。主様はな、スライムを従魔として連れているよ」
「なっ!? それは真──」
ではな、とそのまま一瞬にしてこの場から消え去ったアニエス。
──スライムを従魔として連れている。砂人兵は、アニエスが告げた言葉を反芻していた。
「……久方の感覚。これは、高揚か。マスター……貴方はやはり、偉大な方です」
砂人兵は誰も居ないその場所で、主に傅くべく片膝をついた。
いつも読んでくださりありがとうございます。
来週は投稿をお休みします。清書作業の為です。
楽しみにしてくださってる方には申し訳ありません、のんびりとお待ちください。




