酒場で情報収集
ちょっと長いです。
「飲食店はありますが、区内に酒場はありませんよ」
宿に戻った俺達は、店主に酒場の場所を聞いてみたが以外な返答が。
「あ、そうなんですね」
「えぇ。この辺りは水の価値が高く、嗜好品寄りの酒はあまり提供出来ないんです」
ジュエレールと戦争まがいの事もしてる、って聞いたしな。その辺は仕方ないのか。
「じゃあ、区外にはあるんですかね?」
「ありますが……まさか、区外へ行かれるんですか!?」
店主はありえない、という顔をしていた。そんな驚かなくても。
「はい。武闘祭に出るので、色々知っておきたくて。大まかな位置を教えてくれませんか?」
「武闘祭……あぁ、姫様が言われてた中央の方。一緒にお見えになったから、おかしいなと思っていたんです。……お連れの方も、なんだか強気でしたし」
「あ?」
リリが店主を睨みつけると、ひいっと悲鳴じみた声を出した。リリを宥めながら話を進める。
「そんな訳で、南の情報を知りたくて。教えてもらえませんか?」
「わ、分かりました。武闘祭へ参加される位なら、確かな強さなんでしょう。それでも区外は危険ですが……今書きますね」
少々お待ちを、と言われ書いてくれた紙を手に、俺達は区外の酒場へと向かった。
「おい、もう夜だ。区内から出ない方がいいぞ」
区内を出た途端、声を掛けられた。テントから出て来た人、自警団だ。
「お気遣いありがとうございます。ちょっと酒場へ行きたくて」
「酒場? しかも夜に、区内の人間が……死にたいのか? って、昼間姫といた人だな。刻印も無いし、外から来た人か」
「刻印?」
「あぁ、庇護区内の住民は区外と識別するために、領地の刻印を見える位置にしていたはずだ。その刻印がある人に、手を出す奴はそういない。姫が怒るからな。南で唯一の規則みたいなものだ。だからって、夜に区外を出歩く奴もいないけどな」
そういえば、店主の手の甲にも刻印があった。思い返すと、他の住民も腕や首にあった気がする。
「えっと、情報を仕入れたくて」
「確かに、それなら夜の方が良いな。姫が連れていたなら手を出す奴もいない、いやいるな……まぁいいか。俺が口添えするよ、案内しよう」
「あ、ありがとうございます」
手を出す人はいるんですね……。俺は気を引き締めて、酒場まで案内してもらった。
「姫が中央から招待した客だ! あまり無茶なことはするなよ!!」
じゃあな、と自警団の人は去っていった。え、それだけ?
入るなり大声を出すから、皆が皆こっちを舐め回すように見ている。が、向かってくる人はいない。今の所はだけど。
一先ず大丈夫そうか。視線を集める中、俺達はカウンターまで足を運んだ。
「ご注文は?」
店主は落ち着いた様子で尋ねてきた。流石に何も頼まないのは良くないよな。
「えっと、じゃあ……とりあえず水を」
──そう告げた瞬間、店内で笑いの渦が起きる。な、なんだ!?
「おい聞いたか!? 水だってよ、水!!」
「流石、中央から来た奴は格が違ぇわ!!」
な、なんか凄い馬鹿にされてる気がするぞ。慌てて店主に尋ねた。
「お、俺なんかマズいこと言いましたかね?」
「……ここは酒場ですので、暗黙の礼儀として、一杯目は酒類を頼まれる方が多いようです」
先に言ってよぉ。店主にはそう言われたが、俺は成人してないし酒は飲めないからなぁ。早速失敗した。どうしたものかと思っていると、笑いながら声を掛けてくる人が。
「おいおい兄ちゃん、ここは子供が来る場所じゃねぇんだ。そこの女だけ置いてさっさと帰んな。み、水代くらいは奢ってやるからよ? ギャハハ!!」
獣耳と口から鋭い牙が見える、獣人だ。
【跪け】
その声と同時に、獣人が床へ崩れる様に四つん這いになった。
「ガッ!? んだこれ!? 身体が動かねぇ!」
「もう区外だからいいわよね? 私の男を馬鹿にすんのもいい加減にして、殺すわよ?」
どうやらリリが洗脳を使ったみたいだ。俺を庇ってくれたのは嬉しいけど、物騒なこと言っちゃってるし。戦いに来たわけじゃないのに、既に情報収集出来る雰囲気でもなくなったぞ……。
周りの人は、四つん這いになった獣人を笑い飛ばしている。
「なんだお前! 喧嘩ふっかけて秒で這いつくばるって! 面白過ぎんだろ!」
「中央か獣人か! 一口千からだ!」
中央に千! ここから獣人が巻き返すに二千だ! と野次が飛び交い、気付いた時にはもう賭けの対象にされてしまっていた。
「ぐっ……くそ!」
獣人は必死に抗おうとしているが、身体が思うように動かないみたいだ。
「カイル、どうする? このまま殺してもいいけど」
「ちょ、腕を変化させるな! 大人しくしててくれ!」
あっそ、といいながらリリはそっぽを向いた。大人しくはしてくれるようで一安心だ、これ以上はマズい。
「──なんだオイ、強い女がいるからって調子に乗ってんのか? それはどうかと思うぜ? 兄ちゃん」
今度はなんだ!? リリがようやく落ち着いたってのに! 酒場の入口から、新たに入ってきた男の発言のみたいだ。声がする方を向くと、その男は額から立派な二本の角が生えている。
「お前……姫に案内されてたっていう、中央の男か? どんなのが来たかと思えば……女にやらせといて自分は調子に乗ってる、ただのガキじゃねぇか!」
笑いながら男は俺を指差す。
「あ?」
「おまけに黒髪と来てやがる! しかも……黒眼かよ。そんな黒いやつ見たことねぇぞ? ……まさかお前、カラミティの常習者か?」
もし出処がお前なら、ちょっと一緒に来てもらわねぇとなぁ? そう言いながら男は指を鳴らし、訳の分からんことを言い始めた。
リリは、四つん這いの男に座り大人しくしていた。いや、大人しくはあるけど……下の獣人は、なんだか恍惚な表情を浮かべ始めていた。ちょっと怖い。いや、それより眼の前のこいつだ。
俺はライムと融合し、スキルを発動する。
「……黙って聞いてりゃ、訳わからんことばっか吹かしやがって。お前、なんなんだよ」
「あ? 俺の名はキト、自警団のナンバー2だ! 覚えとけ! お前こそなんだ、ぐにゃぐにゃしやがって。舐めてんのか?」
自警団って、こんな感じでいいの? ……いいのか。これが南って事だもんな。
剣を抜いたら、いよいよ後に引けなくなる。俺は愛剣を抜くことなく構えをとる。
キトに三千! いや、中央に五千! 大穴で獣人に全部だ!! 周囲では賭け声で、ますますヒートアップしていく。
「へっ、剣は抜かないってか? 後で後悔すんなよ」
「お前こそ抜いてねぇじゃねぇか。こっちは情報収集に来ただけだっての! お前、俺が勝ったら知ってること全部教えてもらうからな!!」
「勝てると思ってんのか!? そんなナリで! 中央は馬鹿の集まりかよ!?」
店内は狭い。ブーストの強化はセず、そのままキトさんまで駆けていく。キトさんもしっかりと反応し、俺へ拳を繰り出してきた。応戦しようと拳に力を込めた時、人影が割り込んできたのが微かに見えた。
「────何やってんだ? キト。治安を守るはずの自警団が暴れててどうするんだ」
「え、あ……ライカーさん」
ライカーと呼ばれた人は、俺とキトさんの拳をしっかりと両手で押さえており、動かそうとしてもびくともしなかった。




