武闘祭まで
パトラさんが用意してくれた宿で、今後の動きを話すことに。
「しかし……庇護区内外で、こんなに様子が違うなんてなぁ」
「上手く立ち回っている。あの領主、やり手だね」
アニエスが妙に感心していた。庇護区内は活気こそあれ、往来で殴り合いなんて事はない。感覚は、中央にいる時と一緒だ。
「あの女嫌い、カイルにベタベタしちゃってさ。何様のつもり?」
リリがそう言うと、宿内にいた人が一斉にこちらを睨みつけてきた。なによ、文句あんの? とリリが睨み返すと、皆ゆっくりと視線を外していく。
「……リリ、ここではあまりそういうことを言うな。いらん騒ぎは避けたい」
パトラさんが住民に好かれているのは、案内の時で嫌というほど見せられてるしな。
「……分かったわよ。アンタも、くっつかれた位でデレデレすんじゃないわよ。このスケベ」
「し、してないよ?」
「……してましたよ?」
そう言うのはアメル。こういう時、何故か二人は息ピッタリだ。にこやかではあるけど、俺は冷や汗が滲み出てきていた。
と、とにかく! と話題を切り替える。
「後何日かで武闘祭になる。参加は俺だけだと思うし、この気候にも慣れなきゃいけない。あ、どこかで訓練できる場所があるか、聞けばよかったな」
まぁ、最悪この領地の外側か。暑そうで嫌だなぁ。でも、そうも言ってられないか。
──優勝以外許さん。領主直々に言われちゃってるからな。優勝出来ないとしても、健闘しましたって言える位には頑張りたい。新しい拠点には、まだ数日しか住んでないし、じいちゃんにだって来てもらわないと。
「夕方の民と謁見する、ってのを聞いてから酒場で情報収集するか」
「主様、ちょっといいかい?」
ざっくりと方針が固まった時に、アニエスから声が掛かった。
「どうしたの?」
「いや、主様が酒場へ行く間、ちょっと知り合いに会って来ようと思ってね。構わないかい?」
「それは全然。この領地の人?」
あぁ、近くに居るんだと告げるアニエス。折角ここまで来たんだし、会える時に会った方が良いよな。今後の動きを擦り合わせながら、俺達は夕方まで過ごした。にしても暑い……。
夕方。昼間の暑さはどこへやら。なんなら少し肌寒く感じる位だ。俺達は宮殿へ向かうことに。案内は、意図せず周りの人がしてくれた。マジで分かり易い。
全員が全員、宿の部屋にいた人でさえ一斉に外へ出始めた。向かう方向は宮殿だ。俺達も後へ続いた感じになる。
「凄いな、こりゃ……」
「ち、ちょっと怖いくらいですね」
アメルが言うのももっともだ。恐らく区内の人、全員だろう。その全員が同じ時間、一斉に宮殿へ向かうなんて。あまりにも熱狂的、悪く言えば狂信的とも取れる。
それだけ、領主であるパトラさんが凄いって事か。歩いている人は、区外の人達と違い全員、人族みたいだ。獣耳の様なものは見当たらない。
──庇護区内の者は、危害が加えられぬよう妾が守っておる。パトラさんが言っていた事を思い出す。この人達を見る限り、有言実行してるんだろう。そして、それを実行できる強さを持っているんだろうなと、どこか納得してしまっていた。
こうして。宮殿下の広場に着いた俺達。住民がそこで立ち止まって、皆で上を見上げていた。俺も見上げてみると、そこには宮殿内から出てこれそうな場所がある。あそこから出てくるのかな?
少しして、パトラさんと従者であろう男性と女性が現れた。同時に、住民からは割れんばかりの歓声が上がる。
「凄いな」
「うっさ! なんなのよもう!!」
パトラさんが手を上げると、歓声はピタリと止んだ。
「愛しの民達よ! いつもありがとう! 後三日で、武闘祭が開催じゃ!」
「……後、三日か」
三日目、で開催と捉えた方がいいな。となると、訓練するとしても二日間。まずはこの気候に慣れなきゃな。
「今年は、中央からも参加を決めてくれた者がいる。皆、来るその時を楽しみにしておくれ!」
同時に沸き起こる歓声。手を上げて、パトラさんは宮殿内へ入っていった。……え、終わり?
「いやぁ、姫様最高だったな!」
「えぇ! 私が男だったらと何回思ったことか……」
住民達は皆、満足そうに帰っていく。
「お、俺達も帰ろうか」
なんか、もう少し話すのかなと思ってたけど、毎日朝と夕に話してるんだもんな。少しだけでもいいのか……いいのか?
そんな事を考えながら宿へ戻った。




