庇護区内外
領地へ入った俺達の眼に映ったのは、色々な種族の人達。領主のパトラさんに獣耳があったからってのもあるけど、獣人に始まり、兎耳や、角が生えている人も居るな。逆に、一般的な人族は少ない気がする。
俺達を見つめる視線は、どこかジットリとしていた。な、なんだ?
「ここは領地内、その庇護区外にあたる区域となっておる」
パトラさんが俺の隣まで来て、肌が触れ合う距離で話を始めてくれた。だからさ、距離感近くない?
「庇護区外、ですか?」
「うむ。この領地には庇護区内外があっての。庇護区内の者は、妾が眼を掛け要らぬ危害を加えられぬよう守っておる」
「そうなんですね」
じゃあ、庇護区外の人達は放置ってこと?
「カイル殿、庇護区外の者達への扱いを考えておったな?」
口角を上げ、上目遣いでこちらを見上げてくるパトラさん。
「え!? いや、そんなことは」
「よいよい、言わんとしてる事は分かっておる。これでも内外に分けておるのは考えがあっての。庇護区外の者は、妾の許可なく他の領地へ何かするでもなければ、自由にしてよいと伝えておる」
「自由?」
そうじゃ、とパトラさんは頷く。これが、強ければある程度なにをしてもっていう事なのかな?
俺達は領地の中心へむけて歩みを進めていく。道端で殴り合いをして、それを大勢で囲みどちらが勝つか賭ける、なんてことをやっているのが視界に入ってきた。
「凄い、ですね」
「面白いであろう? この領地へ初めて来る者は、庇護区外の者から洗礼を受ける事が殆どじゃ。今は妾がいるから問題ないが、カイル殿達だけで入ってきていたら、まず間違いなく絡まれておったぞ?」
故に時間を擦り合わせていたのじゃ、とパトラさんは告げる。そ、そういう事は先に言ってくれませんかね? 追い剥ぎに遭ったかもってことでしょ? 皆が舐め回すように見てきたけど、こちらへ来なかったのはパトラさんが居るおかげか。
このパーティーならそう簡単にはやられないだろうけど、出会った時に戦ってました、じゃ格好つかないしな。でも、パトラさんなら笑い飛ばしそうな気もする。
庇護区外、そう呼ばれたここにいる人達は、皆粗暴な様に見えるが、誰もが楽しそうにしていた。
「ここから先が庇護内の区域じゃ」
領地内に高い壁で囲まれた区域がある。ここを境に、中心までの一帯が庇護区内になるらしい。
「入口はここだけですか?」
「そうじゃ。あまり多くても妾達の負担が増えるでの。なに、この壁を越えれる者などそうおらん」
壁は空へ向かってそびえ立つ位に高い。よじ登ったりするのは無理そうだな。
「壁は越えられなくても、ここから中へ入ってこようとする人も居るんじゃ?」
「そういった馬鹿者も確かにおるがの。だが……ほれ、あそこを見ておくれ」
パトラさんが指差す場所。庇護区内への入口、その少し横にテントの様なものが設置されている。中には見るからに屈強な人達が数名。
「あれは?」
「ライカーは……おらぬか、まぁよい。あれは、自警団の分屯地じゃ。領地の治安を見守ってくれておる」
自警団、騎士団みたいなもんか。
「自警団の者達は、ディハートで頭一つ抜けた強さを持つ。あやつらの強さを知っている者なら、許可無しに区内へ入ってこようとはしまいよ」
カラカラと笑うパトラさん。
「そ、そうなんですね」
見るからに強そうだもんな。こちらから騒ぎを起こさないように気をつけよう。おっかない。
そのまま庇護区内へ入る俺達。区内でも視線は集めていたが、なんだか質が違っていた。それらは全て、パトラさんへ集まっており、パトラさんが視線を向けるだけで、ちょっとした歓声が上がっていた。
「カイル殿達の宿は区内に取ってあるでの。そこまで案内しよう」
「ありがとうございます」
そう言って宿まで案内してくれた。届いた文から、どんな待遇で来るのか警戒してたけど……パトラさん、思った以上に話せる人だな。
宿の店主であろう人は、世話を掛けるの、とパトラさんに手を握られとんでもないことです!! と涙を流していた。
「妾は朝と夕に、庇護区内の民達と謁見している。今日の夕はまだ行っておらなんだ、カイル殿も良かったら見に来ておくれ。あそこ、宮殿の下にある広場じゃ」
示された方向には大きな建物が。パトラさんは宮殿と呼んでいたが、領主宅みたいなもんだな。
「はい、分かりました」
ではの、とパトラさん一行はここから去っていった。住民達の視線は全て、その姿が見えなくなるまでパトラさんへと向けられていた。




