早めの到着
「……着いちゃったな」
周囲からの熱気が凄まじい。固められた土の街道から一歩でも横へ出ると、そこから砂地が広がっている。周りを見渡しても同じ様に砂の大地。目線の少し先には、巨大な建造物が見える。目的地、南の領地ディハートだ。
夕方から夜に掛けて到着する予定だったが、二匹の狼がやんちゃするもんだから、恐らく昼過ぎであろう今に着いてしまった。陽の光が痛く感じる程に暑い。当然、出迎えのようなものも見当たらない。
「ハッ! 俺様の勝ちだなライム! 今度から真似する時は俺様にしとけ!」
「くそー!!」
ケラケラと笑うリクと、悔しがって俺の肩で跳ねているライム。仲良さそうだな。
「時間より、かなり早く着いちゃいましたね。カイルさん、どうしますか?」
「入ってもいいんだろうけど……来てました、じゃあお互いに格好つかないかも」
だからって、夕方まで……待つ? ここで? こんな暑いとこで待つ位なら、やっぱり入った方が良いよな。
「主様、私がギルドへ知らせてこよう」
「え、いいの? ありがとうアニエス」
「お安い御用さ」
俺の心を読んだのか、アニエスが一人で転移していった。
「じゃあ、アニエスが来るまで一旦待ちだね」
多分すぐ戻ってくるだろうけど……暑いな。それしか出てこない位には、暑い。陽は丁度真上まで上がってるし、遮るものは何も無い。くそ、軽装過ぎたか。せめて、帽子の様なものでもあればなぁ。じんわりと汗が出てくる、ぬぐっても次から次へと。
気を紛らわすものはないかと周りを見る。丁度アメルがアプサラスに水を与えていた。
「アメル様、ありがとうございます」
「うん」
「魔力で出した水か。俺も使えればなぁ」
アニエスが言うには、どうやら俺は闇に適正があるみたいだ。火力は高いらしいんだけど、今欲しいのは火力じゃなくて、水。あー、余計に喉乾いてきた。
「カイル様も飲まれてみては? アメル様が創ってくださる水は清らかで、とても美味しいのです!」
「そうなの?」
水の精霊であるアプサラスが、そこまで勧めてくるアメルが創り出した水。興味も湧いてくる。俺はしばらくアメルに視線を向けた。
「え? あ、じ、じゃあ……カイルさんも、飲んで、みますか?」
アメルは何も唱えずに、両手を合わせる。すると、そこからは透明な水が湧き出てきた。いつの間にか、水の扱いが上手くなっている。初期魔法ではあるけど、精霊化してるわけじゃないし。これ……無詠唱だよな?
溢れ始めたのを見て、慌てて意識を戻し水に口をつけた。冷たっ! しかも美味い! 水が美味しいなんて思ったの、生まれて初めてかもしれない。水なのに、ほんのりと甘かった。
しばらく飲み続けていたが、飲み過ぎてもなと思い顔を上げ、口を拭う。
「いやー、美味いね! アプサラスの言う通りだ」
「そうでしょう、そうでしょう!」
アプサラスは、我が事の様に胸を張っていたが、アメルは顔を赤くして俺を見ていた。
「アメル? 顔真っ赤だよ? やっぱ暑いよね。美味しいし、アメルも飲んでみたら?」
「え!? そ、そうですね……!」
じっ、と自分の手を見つめるアメル。……俺の後だから嫌かもしれないな。そう思っていたら、横からリリが顔を突っ込んだ。パシャと水しぶきが上がる。
「うわっ!」
「……ぷはーっ! 気持ち良いわコレ、美味いし。中々やるじゃない、アメル」
「……リリぃ!!」
大きな声を上げ追いかけるアメルに、早い者勝ちよ! と逃げるリリ。二人とも元気だな、暑くないの? その光景を眺めている内に、アニエスが戻ってきた。
「おかえり」
「あぁ、なんだか楽しそうだね。【運び屋】を通して、南へ連絡がいくように手配した。じきに出てくるだろう」
よかった。いつまで待つか分からないのは、この暑さではしんどいしね。
少しして、ディハート正面の方から団体がやってくるのが見えた。あれかな?
「行ってみよう」
俺達は、その団体へ向けて歩みを進めた。
「ようこそ、南の領地へ。妾が三代目領主、パトラと申す」
出迎えてくれたのは、獣耳のある女性だった。この人も三代目なんだな。猫耳のそれは作り物ではなく、ピコピコと動いている。可愛い。両隣には、無表情の男性とニコニコした女性が。その後方には、十数人の衛兵だと思う人達が居た。
「【運び屋】には、夕方から夜に掛けての到着と聞いておったが。随分と早かったの、オーガキラーとはどの者じゃ?」
「俺です。ウィズテーラスリーダー、カイルといいます。本日はお招き頂いて」
それを聞いたパトラさんは、そなたか! と歩み寄ってきて────何故か、腕を絡めてきた。
「ちょっ!?」
「そなたへ出した文の件……怒っておるじゃろう? 部下の不始末は妾の不始末。本当に申し訳ないと思っておるのじゃ。本人にはキツく申した故、ここは一つ、許してはもらえぬかのう?」
上目遣いで見つめてくるパトラさん。状況によっては一言いってやろうかなと思っていたのに、くそっ! 可愛いな。
「い、いえ。正直ムッとはしましたが、参加を決めたのはこちらです。気にしないでください」
「そうか? カイル殿は器が大きいのう」
そう言って、パトラさんは腕どころか足まで絡めようとしてくる。大胆に露出した肌が、嫌でも視界に入ってくる。
コレなに!? 公の場ですよね!?
「アンタ、さっきから私の男になにしてんのよ!!」
リリが怒声を上げ、もの凄い形相でこちらへ向かってくる。──その首元に、静かに剣が当てられた。パトラさんの側でニコニコと笑っていた女性だ。いつの間にか、俺達側へ来ている。笑顔のままだが、言葉には静かな怒気が込められていた。
「……姫様に何をする気ですか? 殺しますよ?」
「あ? なにアンタ? なんなら先にやってあげようか? こっちは、ただでさえ暑くてイライラしてんのよ」
リリの腕がゆっくりと、黒く変色し始める。
「リリ止めろ! 来て早々騒ぎを起こすな!」
「イラス、止めよ。ただのじゃれ合いじゃ」
「……フン」
「はい、姫様」
リリの首元から剣を離し、二人は距離を取った。パトラさんも、一度俺から離れてくれた。この人、距離感近くない?
「カイル殿は、パーティーと仲が良いのじゃな。おまけに、仲間の女性達は血気盛んときている」
「す、すみません急に」
「構わぬよ。ここでは日常茶飯時だしの、南に合う気性じゃ。どれ、ここで止まっていても勿体無い。領地内を案内しよう、付いてきておくれ」
パトラさんは、先んじて領地へと進んでいく。
「じゃあ、俺達も行こうか」
「いつか殺す」
「あの人、嫌いです」
リリとアメルから物騒な発言が。いくら強ければ何をしても許されるという場所とはいえ、領地内に入る前から騒ぎはごめんだぞ。既にちょっと遅い気もするけど。
その言葉が聞こえたのか、パトラさんは猫耳を立てながらニャハハ! と笑った。




