南での訓練
南へ着いた翌日の朝。俺は身体を起こして伸びをする。
「ん……と。なんだが、だるい感じがするな」
「おはよー!」
ライムが元気よく肩へ登ってきた。
「おー、夜寒くなかったか?」
「んーん、大丈夫!」
眠りに落ちる前は、かなり寒かった事を覚えている。なんで窓ないんだこの宿……。このだるさは、寒暖のせいだろうな。今は既に暑いくらいになっている。俺は用意を済ませ、下へと降りた。
皆と合流し、今日の動きを決めていく。
「とりあえず今日は、領地外で気候に慣れようと思う。イッカクも一緒に来てくれる?」
「分カッタ」
「主様、私達はどうしようね」
アニエスや、他の皆は参加する訳じゃないし、訓練に付き合わせるのもなぁ。
「そうだね……観光、する所があるかは分からないけど、自由行動でいこう。一緒に来てくれても良いけど、多分暑いだけかもしれないしね」
「私は、いける所までカイルさんと一緒に居ます」
アメルは意気込んでくれている。嬉しいけど、無理はさせないようにしなくちゃな。
「では私は、この辺りで情報を集めてみようか。カラミティといったか。クロとの関連も視野に入れたい」
「ありがとう、助かるよ。リリはどうする?」
リリに尋ねると、ニコニコしながら返事をくれた。
「なぁに?」
そして猫撫で声を出してきた。肌もいつも以上に綺麗に見えるし、なにより機嫌がめちゃくちゃいい。昨日酒場じゃ、あんなに不貞腐れてたのに。何があったんだ……?
「どうした? 気候にやられたのか?」
「……そうだった、現実のアンタだったわね」
そこで真顔になるリリ。なにその冷めた表情は。
「これからどう動くかって話。リリはどうするのかなって」
「暑いからあんま動きたくない。帰りになんか、飲み物買ってきてー」
特に悪態を吐くでもなく、リリは自身の要望を伝えてくれた。
「ん、分かった」
俺が返事をすると、リリは嬉しそうだ。なんでこんなに機嫌が良いんだ? ……暑いし、雨でも降ってくれると嬉しいんだけどな。
今日の方針を決めて、俺達は各々動き出した。
朝の、領主による民達との謁見。内容は変わらず、武闘祭の話だけだった。区内の人も、もはや話自体はどうでもよくて、一目パトラさんに会いたいだけな気がする。
区外へ出ると、分屯地であるテントから声を掛けられた。ライカーさんだ。
「おう、カイルじゃねぇか。昨日は、走って帰っちまって悪かったな。あの後、なんともなかったか?」
「はい、おかげさまで」
「今日……は、領地外で訓練か。あまり無茶するな? 脱水になっても、ここの水はそこまで潤沢じゃないからな」
体調も合わせてこそって事だもんな。
「はい、気をつけます」
「帰りに闘技場も寄っていくといい。デカいから、見たら驚くぜ?」
一度、開催場所を見ておくのはいいかもな。ライカーさんへ一礼し、俺達は領地外へ出た。道中、順路といえばいいのか。商人達も行き来している場所を通ってる間、ありがたい事に絡まれることは無かった。それにしても、暑い。暑すぎる……。
外に出た俺達。南と中央を繋ぐ道近くで訓練する訳にもいかず、敢えて砂漠地帯に足を踏み入れた。上からは刺すような陽の光。照り返す熱気を帯びた砂。早くも限界が近いんだけど……やる前から、そんな事言ってられないか。
「夜ノ内ニ、闘技場ヲ見テキタ。地面ハ土デ固メラレテイル、足ヲ取ラレル心配ハナイ」
見てきてくれたんだ、仕事が早い。じゃあ、ここで訓練しておけば、本番は動きには困らないって事だな。
「主ヨ、始メルカ?」
「おー!」
イッカクとライムはやる気満々だったが、俺は待ったを掛けた。
「ちょっと待って。今回の武闘祭なんだけど────イッカクと融合して出てみようと思うんだ」
それを聞いたイッカクが、意外そうな顔をしていた。
ライムも、始めこそなんでー? と疑問に思っていた様子だったが、俺が説明するとすんなり納得してくれた。
そんな訳で、ライムは擬態して俺になっている。持っている武器は、俺が千変万化で作り出した木剣だ。
千変万化。好きな武器を創り出せる反則的なこのスキル、使用しても体感はなんともない。アニエスがいう、使っても大丈夫な位には鍛えられてるんだ。思わずガッツポーズをしてしまった。ちなみに俺は素手だ。
イッカクと融合すると、オーガの様に筋肉が一回り二回りと大きくなった。それに、頭からは一本の角が。髪の間からひょっこり顔を出す感じだ。
筋力強化で大きくなったであろう俺の身体は、力こそ出るが動きがおぼつかない。今もライムから、いいようにポカポカ殴られている。
イッカクが所有してるスキル、硬質化で殆ど痛みらしい痛みはないけど……。
(主ヨ、反撃ハシナイノカ?)
イッカクに心配されてしまっていた。殴り掛かるが、ライムに易易と避けられてしまう。うーん……どうしよう。
「……やっぱり、慣れていくしかないか。イッカク、武闘祭までの間、融合しっぱなしでもいい?」
(アア、構ワナイ)
了解を得た俺は、ライムとの訓練に戻る。その後も一発も当たることは無く、ポカポカと延々殴られ続けた。




