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入団試験

 ちょっと長いです。

 東の森フォレイトス。セラと別れた俺は商人御用達の道、いわば順路から森へと入った。昼過ぎだってのに、木々が生い茂るせいでどこか薄暗く、辺りは見渡しても同じ様な景色が続くばかりだ。


「相変わらず不気味な所だな。っと、確かあの家は……周りを綺麗に整地してあったな」


 俺は記憶を頼りに森を散策する。順路が途絶え、道らしい道も無くなった。少し考えたが、引き返すなんて事はしねぇ! 俺はそのまま草木をかき分け、森を進んでいく。なに、あれだけ開けてたんだ。すぐ見つかるだろ。そんな俺の算段は、ものの数分で打ち砕かれた。


「どこだ……ここ」


 一面、森。気合いだけでここまで進んじまってたが、嫌でもこの領域の異名を思い出さされた。──迷いの森、実際に行方不明になった冒険者もいる。


 俺は、背中に嫌な汗が出るのを感じた。


「くそっ! こんなことなら、カイルに話して聞いておくべきだったぜ!」


 【東の魔女】が出した条件を達成出来ず、不合格を突きつけられた俺は、なんとなくカイルと顔を合わせづらくて、合格をもぎ取ってから会いに行こうと思っていた。


 その結果が、このザマだ。


「……一旦、来た道を戻るか」


 順路まで出てからまた考えよう。そう思い、来た道を戻ってるはずの俺は、いつまで経っても変わらない景色に焦りを覚えていた。


「マジで洒落にならんぞ……!?」


 半ばヤケクソに、草木を強引にかき分け来た道かも分からない所を進んでいく。


「──こら、そんな乱暴に扱わないの。森に怒られちゃうよ?」


 すると、どこからか声が飛んできた。


「だ、誰だ!?」


「君は……迷子でしょ? だからって、必要以上に草木を乱暴にしちゃ駄目だよ」


 慌てて周囲を見渡す。声はすれど姿は見えない。だが、敵意はなさそうだ。俺はその場へ立ち止まり、声の主へ向けて話し掛けた。


「俺はアミカっていう。あんたは誰だ、姿を見せちゃくれねぇか?」


「名前……位なら、いいか。私はカドリィだよ。姿はあんまり見せちゃいけないんだ、ゴメンね!」


 カドリィね。姿は見せられない、こんな森の中で女がそう居るわけがねぇ。となると……エルフか。見たことは無いが、この領域に居ると言われている種族。姿を見せられないってのも、それなら辻褄が合う。


「アミカ、迷子なんでしょ? 整備された道まで案内してあげるよ」


 確かに迷子ではあるんだがな、俺はそこまで子供じゃねぇぞ? 嬉しい申し出だが、目的も果たさず帰るわけにはいかねぇ。


「そりゃ嬉しいんだが、ここに用事があってな。カドリィ、【東の魔女】って知ってるか?」


「アニエスさん? うん、知ってるけど。どうして?」


「家があるはずなんだが、そこへ案内してくれねぇか?」


 そこでカドリィからの返事が止まった。な、なんかヤバい事言ったか? そもそもカドリィが居なくなってしまったら、もれなく迷子へ逆戻りだ。


「……理由次第で案内してあげる。どうして行きたいのか教えて!」


 よかった、返答を考えてくれてたみたいだ。多分、カドリィが納得する回答じゃないと案内してもらえそうにないな。でも、嘘を吐いても駄目だ。俺はありのまま、カドリィへ説明した。


「そうなんだ、カイル達の仲間になる為にって事だね。分かった、案内してあげる!」


「いいのか!? 助かる!」


 カドリィも、カイルを知ってるみたいだった。面識があるっぽいな。


「だけどよカドリィ。姿を見せないで案内するのって難しくないか?」


 俺がそう言うと、視界に浮遊する光の球が現れた。それはゆっくりと、視線の先へと向かって動き始める。


「見えるでしょ? それに付いてきて!」


「……すげぇな、分かったぜ」


 流石エルフだ。こうしてカドリィに案内してもらい、道なき道をしばらく進んだら開けた場所に出た。見覚えがある景色、と同時に嫌な思い出も浮かんできた。俺は頭を振り、雑念を飛ばす。


「後は大丈夫かな……あ! アメル!」


「え……カドリィさん!?」


 やっほー! と言うカドリィ。目線の先には、苦汁を飲まされたホムラと、何故か嬢ちゃんが居た。



 その後、カドリィは俺を連れてきたことを説明し、去っていったみたいだ。嬢ちゃんが変な方向へ手を振っていたから俺も見てみたら、一瞬人影の様なものがあった。樹の上、それもあんな高い所にいたのか。目線を戻すと、嬢ちゃんがこちらへ歩み寄ってきた。


「それでアミカさん。どうしてこちらに?」


「あ、あぁ。ちょっとな。嬢ちゃん、【東の魔女】は居るかい?」


 入団試験みたいなもんだ、呼んできてくれるか? と伝えると、嬢ちゃんは古家の方へ。前より少し修復した気がするな。


 そこから、ゆっくりと【東の魔女】が。俺を見るなり、ふむ、と一言だけ声を出した。


「来たぜ。ここまで来たら、同じ条件でやってくれるって約束だったよな?」


「……そんなことも言った気がするね。もう来ないと思っていたから、すっかり忘れていたよ」


 そう言って苦笑する【東の魔女】。畜生め、それを言うならもう来れない、だろ。ここまでの道なんざ、まるで分からん。となると……意地でもここで決めなきゃならねぇ。


 出来るのか……? あれだけこてんぱんにやられたのに……。


 ──俺は自分の両頬を強く叩いた。嬢ちゃんが、いきなりのことに驚いていた。


 出来るか、じゃねぇ。やるしかねぇんだ!


「おう、いつでもいけるぜ?」


「……特別力が付いた訳でも無さそうだね、ただの虚勢か。それはそれで【重戦士】らしいが、さて」


 【東の魔女】は少し考え、こう提案してきた。


「──たまには違うのを相手にした方がいいだろう。アメルや、お前さんが相手をしておやり」


「わっ、私ですか!?」


 嬢ちゃんは驚いた声を出していたが、俺は好機と捉えた。──千載一遇だ! ホムラには正直、一撃入れれるかも怪しいが嬢ちゃんなら話は別。何度か一緒に探索をしてるし、動きは把握済みだ。


「流石に殺してしまっては主様に悪いから、銃の使用は無しだ。あぁ、そうそう。手心を加えたと私が判断した場合、同行の件は白紙に戻すよ」


「えっ!?」


 嬢ちゃんは、普段聞かないであろう馬鹿でかい声を出していた。嬢ちゃんは【東の魔女】へ食い下がっていたが、条件は変わらなかったみたいだ。ホムラに耳打ちをされた後、ゆっくりと俺の正面へ立った。


「……アミカさん、前回の条件をお伺いしても?」


「俺が相手の攻撃を受け切って、一撃でも掠れば達成ってところだ」


 自分で言ってて悲しくなる。一撃も入れれなかったし、攻撃を受けなきゃいけない【重戦士】が、不意打ちとはいえ一撃で体勢を崩され決められちまったんだからよ。


「分かりました」


 そう言って嬢ちゃんは構えを取った。【東の魔女】に制限をかけられており、素手だ。構えはサマになっているが……遠距離を得意とする嬢ちゃんから武器を取り上げるってのは。俺へ対して【東の魔女】からの優しさか、それとも単に舐めてるだけか。


「……嬢ちゃん。馬鹿にする気はないが、銃の使用は禁止なんだろ? 流石に丸腰は……やめといた方がいいんじゃないか?」


「私も……これだけは、譲る訳にはいかないんです」


 嬢ちゃんの表情は真剣そのものだ。同行がどうのこうのってやつか。


 ……嬢ちゃんには回復スキルがある。どこかに掠ればいいんだ、下手に遠慮は要らねぇな。俺は大盾と武器を構え、気合いを入れた。


「恨みっこ無しだぜ?」


「……お願いします!!」



「くっ! このっ!!」


 ──当たらねぇ。全部見えてるかのように、紙一重で躱されちまう。水の巫女候補っていう位だ。嬢ちゃんは水の魔法に適正があった。


 水を棒状に作り出し、俺へ当てようと振るってくる。少し前まで、なにも出来なかったと思えねぇ程に動きは洗練されており、熟練の棒術使いといっても差し支えない。探索の時とはまるで別人だ。


 だが、流石にその程度の攻撃じゃ俺には響かねぇ。そもそも、しっかりとした打撃特有の重みがあるのがおかしいんだが。水だぞ? 多少当たったとしても、立って受けれていれば問題ねぇからな。


 問題なのは、俺の攻撃が掠りもしないこと。あの眼、【射士】特有なのかはしらんが、とにかく避け感がすげぇ。


 一度お距離を取った嬢ちゃん。動きも軒並み良くなってやがる。さて……どうするか。


 最悪……使いたくねぇが、下は土だ。あの眼さえなんとか出来れば──


「やはり、近接戦闘はまだまだですか。改善のしがいがありますね」


「は、はい……」


 二人の会話に意識を戻された俺。


「おいおい。戦闘中におしゃべりとは水分と余裕だな?」


「貴方こそ。今までが唯一の好機だったのに、それを易易と逃しましたね?」


「なに?」


 アメル、あれを使ってみなさい。あの男なら、死ぬことはないでしょう。それを聞いた嬢ちゃんが、今までとは違う構えを取っていく。嬢ちゃんの手には、先程と違う武器が握られていた。


 そして何かを呟いて……これは────詠唱っ!?


「……アミカさん。これはまだ、上手く制御が出来ないんです。しっかりと受け止めて下さい、お願いします」


「おいおい、冗談だろ……?」


 今から何をしても間に合わねぇ! 俺は大盾に入るよう身をかがめて、衝撃に備えた。


「──アルテミス」


 嬢ちゃんの声が聞こえ、辺りが光ったと思った瞬間、俺の意識は飛んだ。


 ──眼を覚ました時、俺はベッドに横たわっていた。顔を動かすと、側で私服のセラが心配そうにこちらを見つめており、ここがギルドの医療室だということ。それと同時に、嬢ちゃんにやられたことが分かってしまった。


「っ! アミカさん! 私だ、分かるか!?」


「……畜生」


 セラが仲間の医療班を呼ぶ中、俺は顔を腕で隠し、悔しさを呟くことしか出来なかった。

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