未熟者故に
──中央都市、大衆酒場。
「よう、浮かない顔してるな」
「……ふふ、アミカさんの方こそ」
「ちょーっとばかし、な。隣いいか?」
どうぞ、と促され、アミカはセラの隣へ腰掛けた。
「それにしても珍しいじゃねぇか。いつも楽しそうに飲んでる奴が。何があったのか聞いてもいいか?」
「あぁ……なんてことはない。自分の未熟さを痛感しただけなんだ」
セラはアミカへ、変異種のオーガによる冒険者達の被害、その時の状況を話した。
「そいつは……酷かったな。過去にあったか分からない位の被害だ、と知り合いには聞いたぜ。死者自体は少なかったみたいだが」
「私は、アメルさんと担当を共にしていたんだ。私が未熟なのは分かっている、アメルさんも医療班ではないから、いわば半人前。それを踏まえ医療班として二人で一人前という風に捉えていたんだが……未熟なのは私だけだった。今回医療班としての、アメルさんの貢献度は計り知れないよ」
重症患者もあっという間にだ。そう言ってセラは持っていた酒を一気に飲み干した。
「……嬢ちゃんのスキルを見たんだな。あれは、反則級だ。外傷のみらしいが完全回復の上、後遺症は無し。俺も一度受けたんだが、気力も回復する気がするな。あんなスキル、見たことねぇ。知ってる奴がいれば、喉から手が出るくらい欲しくなっちまうだろうよ。おまけに、水の巫女候補ときたもんだ」
「私は、個人スキルすら発現できていない。どうすれば、あんな凄い力を……」
「まぁ、嬢ちゃんは嬢ちゃん。お前はお前だ。個人スキルの発現も、医療班の技術だってこれから上がっていくさ」
アミカはセラの肩をポンポンと叩いた。
「それは……慰めているつもりかい?」
「な、なってなかったか?」
アミカが動揺したことに、セラは口を押さえて笑顔を見せた。
「アミカさんは、女性の扱い方が下手だね」
「おいおい、そりゃどういうこった?」
尚も笑っているセラに釣られ、アミカも自然と笑っていた。
「……ありがとうアミカさん。おかげで気が楽になったよ。そうだ、アミカさんの方はどうだったんだい? パーティーメンバーにはなれたんだろう?」
スキルの常時発動も可能にしていたんだし、というセラ。その言葉に、笑っていたアミカは表情を曇らせていく。
「それがな……駄目だった」
「な……っ!? カイル君が断ったというのか?」
「いや違う。メンバーの一人に条件を出されてな」
そう言ってアミカは、それまでの経緯を話した。セラは眼を丸くすることしか出来なかった。
「実力は、どうなんだろうな。カイルと丸いのが融合した時、くらいはあるんじゃねぇか?」
「そんな……それではあまりに厳しすぎる……」
──いまや中央では知らない者はいない程の知名度、オーガキラーという称号を持つカイル君。確か、パーティーはB級へ昇格、カイル君自身もC級へ昇格しているはずだ。称号に実力が追いついている形になった彼と、実力が近いと思われる人に一撃を入れる……なんて。それではまるで、入ってくるなと言っている様なものじゃないか!
それでも……上へ行く人の考えは、そもそも私みたいな一般人とはかけ離れているのかもしれない。
「ほんとだよ、カイルといいその仲間といい、あいつら化物だわ」
アミカは淡々と告げる。セラは俯き、視線を空の器へと落とした。
「やはり、私達では……」
──身の丈以上のことを、望んではいけないのだろうか。今よりもっと、高みへ行くことを。
「──ま、その分気合も入るってもんだよな!」
「え……」
セラは顔を上げ、アミカを見つめた。
「いや、そりゃ勿論最初は諦めかけたぜ? なんせ、条件を達成する未来が見えねぇんだ。だけどよ、自分の力を使いこなせばって言ってくれたのはセラ、お前じゃねぇか」
「!!」
「俺は、諦めねぇ。格上だろうがなんだろうが上等だ! 食らいついてみせる。向こうが根負けする位にな!」
「……強いな、貴方は」
ガッツポーズを見せるアミカへ、セラは眼を細めた。
「よしっ、と。じゃあ行くわ」
「え? 飲みに来たのではないのか?」
「いや、今からリベンジだ。場所が少し遠くてな、明るい内に行かなきゃなんだわ。正直なところ勝算は無いが、前より耐えて対策を練らないといけん。ここへ寄ったのは、なんとなくお前がいるかもって思ってな」
「なっ!?」
じゃあな、と笑顔でアミカは酒場を後にした。
「……なんだぁ、冷やかしか? 一杯くらい頼んでいけってんだ、ったく。お、セラさん、器が空だな、追加するかい?」
「いや、今日はこれで。会計をお願いします」
店員に追加の声を掛けられるが、セラは首を振った。
「珍しいな。顔も赤いし、調子でも悪いのかい?」
「少し、火照ったみたいです。今日は寮の方で勉強しようかと」
「ギルドの医療班は勤勉だねぇ、休みの日だってのに」
会計を済まし店を出るセラに、店員はまたいつでも! と声を掛けていた。
──私も、諦めたくない。医療班として技術を高め、冒険者の、そしてアミカさんの役に立ちたい。叶うことなら……アミカさんの怪我は全て、私が癒してあげたい。
「……ふ、今のままではまだまだ絵空事、か。さて! 頑張らないとな」
そう思うセラの脳裏に何かが流れたが、セラは気付くこと無くギルドの寮へと戻っていった。




