弁解
翌朝。目が覚めると家の周辺がざわついていた。なんだ?
「おはよー!」
「おー、じいちゃんは?」
「外で喋ってるー」
外が騒がしいのはそのせいか。俺も外へ出てみたが、その場はどことなく剣呑とした雰囲気だった。
「ダンガルドさん。村の長としての貴方は尊敬していますが、それには納得しかねます!」
「なんでじゃ! カイルが誰もなし得なかったことをやったのを報告したまで。別に感謝を求めた訳じゃないが、それはそうとして、カイルが罵られるのは違うだろう!?」
じいちゃんと村の人達が言い合っていた。
「ダンガルドさんが村へ回ってくれた夜、息子がアルミラージを見つけたと言って外へ行きました。帰ってきた息子は、怪我こそありませんでしたが……優れない顔をしていたので心配したんです。やっぱり……そこの黒髪に何かされたからでは?」
聞いても話してくれないんです、と俺を睨みつける人。この人は確か……ジャイの親だったっけか。
「この……!」
「──いいよ、じいちゃん。言うだけ無駄だ。アルミラージが討伐出来た、それを周知出来たならいいよ」
俺がそう言うとほらやっぱり、だの、【従魔士】って職業だったわよね、今までアイツがけしかけてたんじゃ? なんて言葉も聞こえてくる。……そうそう、こんな感じだったわ。
「お前達、どこまで腐って……!」
「まぁ……行くよ。長居すると、じいちゃんに迷惑掛けちまう」
「カイル……」
うん、さっさと南へ行こう。まだヤマトさんは来てないけど、帰りはアニエスに頼んでみるか。
俺は中へ戻り、村を出る準備を進めていく。じいちゃんと村の人は尚も言い合っていたが、その中で一際大きな声が聞こえた。
「皆、待ってくれ! ……カイル、居るか!? 少し話す時間をくれ!!」
「……今更なんだってんだ」
視線を外へ向けると、そこには息を切らしたジャイの姿があった。
俺は支度を済まし外へ。ジャイに眼を向ける。ジャイは身体を震わせながらも、俺の方を見続けていた。
「……何か用か? 話なら手短にな」
大方昨日の件だろうが、もうここまで俺が悪いことになってるんだ。今更弁解する気は無い。じいちゃんに迷惑が掛かるのだけは嫌だから、俺がさっさと村を出ていけば済む話だ。
「すまなかった!!」
「……は?」
そう言ってジャイは頭を下げてきた。俺はいきなりの行動に、思わず声を出してしまった。
「ちょっとジャイ! あなた黒髪に頭を下げるなんて、止しなさい!」
身体を抑えようとするジャイの親を払いのけ、ジャイは頭を下げたまま話を続けていく。
「昨日は悪かった! 嘘に聞こえるかも知れないが、俺もアルミラージを倒そうとしてたんだ。物陰から近付いて、鎌を振り下ろそうとしたらいきなりお前が現れて……結果的に邪魔する形になっちまった、すまん!!」
ジャイからすれば、俺が急に現れた様に見えても……まぁ、おかしくはないか。ジャイは顔を上げて続ける。
「俺は、中央で名が広まってるお前みたいに、何か功績を上げてみたかったんだ。今……オーガキラーって称号、持ってるんだよな?」
「まぁ、な」
「なぁカイル、お前さえ良ければ……その辺の話、聞かせてくれないか?」
微笑むジャイとは正反対に、村人達、特にジャイの親が声を大きくした。
「ジャイ! いい加減にしなさいっ!! あなた、自分が何を言ってるのか分かってるの!? 自分から黒髪に近付こうなんて!! 幼い時、あなた黒髪に何をされたと思ってるの!?」
「アンタ達こそいい加減にしろよ! 黒髪だなんだって俺が言えた事じゃねぇけど、いつまでも昔の風習に囚われてんじゃねぇ! アルミラージだって、俺達に代わって倒してくれたんだ。今のコイツは! 中央で名が知れた男なんだぞ!!」
そう言うとジャイの親、そして周りにいた村人達も押し黙るしかなかった。一応討伐したのは事実だしな。しかし、こいつにこんな事言われると思ってなかった俺は、なんだかムズムズとした気持ちになった。
「……ジャイ。もし良かったら朝食でも一緒にどうだ?」
「え……」
息を荒くしていたジャイに、じいちゃんが声を掛けた。
「い、良いんですか?」
「構わんよ。カイルも朝くらい食べていけ、まだ時間はあるだろう?」
「……分かったよ」
ほら、報告は済んだ! 解散だ解散!! とじいちゃんが怒声に近い号令を掛け、村の人達は自身の家へ。ジャイの親も渋々戻っていく。ジャイは、家で一緒に朝飯を食べることになった。
「軽く作ってくるから待ってなさい」
俺とジャイに告げたじいちゃんは、調理場へ。
「……」
「……」
何喋ったらいいんだこれ……俺達は別に仲が良い訳じゃない。しばらく沈黙の時間が続いたが、ジャイの方から声を掛けてきた。
「カイル、昨日の事だけど……改めて、すまん」
「……もういいよ、済んだ話だし。とはいえあの後、結構大変だったんだぞ?」
俺がフォレイトスにまで追っていった事を伝えると、ジャイの顔はどんどん青ざめていき、椅子から降りたと思ったら床に勢いよく頭を擦り付けた。
「お、おい」
「本当にすまん!! ……よく迷わんで帰って来れたな」
「森に入りたての所で倒せたからな。ほら、土下座なんてすんな。村の人達に見られたら、じいちゃんにまで迷惑が掛かっちまうだろ」
あ、あぁ、と身体を起こすジャイ。嘘も方便だ。本当の事を話したらどうなるか分からん。カドリィ達、エルフの話はしにくいしね。
「あーその、なんだ。自分から言うのもあれだけど……オーガキラーの話が聞きたい、って言ってたな」
「あ……あぁ! 話してくれるか!? この村にお前の名が聞こえた時から気になってたんだ!」
俺が話すごとにジャイの奴、眼を輝かせて聞いてくれるもんだから、なんだか楽しくなって色々誇張して話した気がする。まぁいいか。じいちゃんも楽しそうに、鼻歌を歌いながら調理を続けていた。




