黒いアルミラージ討伐.3
ちょっと長いです。
「村の作物を食べた後なら、川にいるかも」
そう言ってカドリィ、他に何人かいた狩人衆と共に川へ向かった。
到着すると──見つけた、黒いアルミラージだ。月に照らされたその姿は、耳を立てながら水を飲んでいる。
俺が近付こうとすると、カドリィに制止された。
「待ってカイル。アイツ耳立ててるでしょ? 周りの音を聞いてるみたいでさ、この辺が警戒しない範囲らしいの。それ以上中に入ると反応されちゃう」
なるほど。川は視界が開けてるから、アルミラージからすれば索敵も逃走もしやすいって事だな。狩人衆と称してる位だし、カドリィ達の腕は相当なもののはずだ。
「カドリィ、弓が気づかれなかったことは?」
「無いよ、川でも森でも全部避けられてる。追いかけるにも、私達じゃ追いつけないし」
「──じゃあ、こんなのはどうだ?」
俺はカドリィへある作戦を提案した。
「……確かに、カイルがいる今なら出来るかも。こちらからもお願いしていい?」
「勿論」
そう言うと、カドリィが手振りで他の狩人へ指示を出したみたいだ。その人達は何も言わず、その場から姿を消していく。
「一定の方角から撃つように指示したよ、タイミングはカイルに任せるね」
「分かった」
後でね、そう言ってカドリィも音を出さず姿を消した。凄ぇ、どこに行ったのか分からないわ。
アルミラージは余程喉が乾いていたのか、水を飲み続けていた。あの図体だ、水分もかなり欲しいんだろう。時間にも余裕がありそうだ。
俺は鬼斬を抜き、刀身に魔力を流していく。光の筋を確認し、ライムに声を掛けた。
「……よし。ライム、いいか?」
(おー!)
俺が手を上げると、すぐにシュッという音が。カドリィ達が矢を放ち、アルミラージはその音にピクッと耳を動かす。顔を上げ矢の飛んできた方向を見つめていた。
俺はアルミラージの後方に構えている。矢は俺から見て正面、その左側から飛んできた。右側は川だ。アルミラージが飛び跳ねたタイミングで俺も駆ける。
「やっぱそっちに行くよなぁ!」
アルミラージが跳ねたのは、左側。矢の軌道から逃げるように飛んでいた。川へ飛び込んだらどうしようと考えていたが、その時はその時。むしろ、可能性は低いと見ていた。この清流は結構深い所もあるはずだ、足を取られたくないだろうしな。
飛び跳ねた先へ一瞬で辿り着いた俺は、鬼斬を振り下ろす。
一刀両断レベル、確かな手応えはあった……が、アルミラージは宙で身体を捻り、攻撃を躱そうとしていた。
「……マジかよ」
攻撃自体は当たったが、一振りで絶命させられなかった。歪な切り傷を身体に残している。ま、魔物にそんな動きが出来るのか!? そんなの、今まで見たこともないぞ!
「やったねカイル! 凄い凄い!!」
「あ、あぁ。なんとかね」
カドリィ達も姿を現し、俺の所へ。逃げようとしていたアルミラージは、そのまま動かなくなった。
「じゃあカイル、族長には私から伝えておくね。持っていくのはそれだけでいいの?」
お肉は? と聞いてくるカドリィ。
「いや、これだけでいいかな。証拠になればいいしね」
「そっか」
俺がもらったのは、角。通常のアルミラージと違う黒い角は、討伐した証拠になりそうだ。肉は……ちょっと黒いからね、おっかないよね。
カドリィには森の端まで案内してもらった。ここから村も見えている。
「じゃあ、行くね。あんまり、外の人に姿を見せる訳にもいかなくてさ」
その辺はエルフだもんな。見たい人はごまんと居そうだ。中には悪巧みをする人だっているかも知れない。
「ありがとう、おかげで助かったよ」
「こちらこそだよ。……あーあ、アメルが先じゃなければ、私がいったんだけどなぁ」
「? なんの話?」
「んーん! なんでもないよ、アメルによろしくっ!」
またね、そう言って姿を消したカドリィ。アルミラージ討伐は、一段落したでいいんだよな? 今になって、まだ他にいるとか勘弁だからな? 俺が戻ると、やはりというかじいちゃんが一番驚いていた。
「カイルお前……まさか、本当に倒してくるとは……それ、偽物じゃないよな?」
「当たり前だろ、ほら」
じいちゃんに証拠の角を渡す。それをまじまじと見つめるじいちゃん。
「確かに……あのアルミラージの角だ、間違いない」
どうだ、俺だってやれるんだぞ。
「にしては遅かったね?」
「ぐっ」
じいちゃんにドヤ顔をしていたら、アニエスから言葉が飛んできた。なに意地悪な顔してるのさ。
「まぁ……遅くなったけど、怪我とかはしてないし良いことにしておいて」
「こりゃ、村の者に朝一番に知らせないとだな。カイル、お手柄だ!」
俺の背中を叩くじいちゃん。バシンと良い音が鳴り響く。
「痛ってぇ!」
「んん……なによ、うるさいわね……もう朝なのぉ?」
そう言って起き上がったのはリリ。気持ちよさそうに寝てたなぁおい。アニエスがさて、と言ってその場から立ち上がった。
「主様も、無事役目を果たし帰還した。我々は一度おいとましよう、丁度リリも起きたことだしね。イッカクもおいで」
「え、どこ行くの?」
「一度拠点へ戻る。水入らずで話したいこともあるだろう、朝にまた来るよ」
「え? いやよ、私はここで──」
ではの、と告げてアニエスは皆を連れここから転移していった。
「カイル、アニエスさん……って、実はもの凄い方なんじゃないのか? どうやって仲間になったんだ?」
「色々あってね……折角だし、その辺も話そうか」
時間はある。それから俺は、一度は帰ろうとしたこと、ライムが友達、そして仲間になってくれたこと。アメル、リリ、アプサラスやアニエス、イッカクが仲間になってくれた経緯を順に話していく。じいちゃんは、嬉しそうに相槌を打ってくれた。
「そいつは凄いな」
「だろ? それに今は城下に家まで建ったんだぜ? 信じられる? 未だに夢みたいだよ。いやまぁ、それもアニエスのおかげなんだけどさ……って、かなり話し込んじまったな」
時刻は分からないが、うち以外家の灯りが消えていた。
「……濃密な時間を過ごせていたんだな、安心したぞ。よし、段々寝るか」
そう言ってじいちゃんは灯りを消した。布団に入ると、ほんのりと甘い花の香りがした。な、なんかソワソワする。どっこいしょ、とじいちゃんも布団に潜ってきた。布団がある場所は大きめに取ってあるんだけど、じいちゃんがそもそもデカい。男二人では、どこか手狭に感じた。
「カイルお前……あの中に嫁さん候補はおるのか?」
「は!?」
「いや、いるなら早めに捕まえておけ、って話なだけだ。皆お前を好いてくれてるみたいだしな。アニエスさんはお前を包んでくれるような方だし、アメルさんは献身的な感じだったな。リリさんといったか、あの人にするなら振り回されるのは覚悟しておけ。だが男なら、それすらも楽しむ余裕をだな」
「じ、じいちゃんストップ! 話が飛躍しすぎだ!」
俺が結婚なんてのは早過ぎる話だ。じいちゃんも豪快に笑うだけで、それ以上は何も言わなかった。
村の周りは静かだ。会話が無くなったこの空間に、虫の鳴き声が心地よく響く。
「カイル……本当に、大きくなったな」
じいちゃんが不意にそんな事言うもんだから、今までの色んな思いが溢れて泣きそうになってしまう。
「じ、じいちゃんもさ! 今度中央に来てくれよ! 俺達の拠点、ほんとに凄ぇんだ!」
「あぁ……そうだな」
俺が慌てて返した言葉を茶化すでもなく、じいちゃんは優しく受け止めてくれた。




