第八話 奇跡の保存
「ルべ、だいぶ歩ける様になってきたな。」
「兄ちゃん……。うん、俺、頑張れてるかな。」
「そりゃ、頑張れてるだろうよ?じゃなかったら、パトさんがあんなに喜ばねぇって。」
「そっか、それなら良かった。」
ルベライトが歩く様になってから半年、ルベライトはスロープの力を借りずとも歩ける程度になっていた、と言ってもまだ家の中だけ、外出する際には車いすで移動をするのだが、家の中限定で歩く事を許されていた、本当ならば運動をしてもっと歩ける様になりたい、それが今のルべライトの望みなのだが、過保護気味なパトロックがそれをまだ赦していない、それが現状だった。
そんなパトロックは現在、勇者の関係者に呼ばれて外出中だった、という事だけを知らされていたクォーツは、パトロックが修行に使っても良いと言っていた鉱石や金属を使って、武器を鍛造する修行に明け暮れていた、今はその休憩に家に戻ってきたところだった。
「兄ちゃんみたいに、俺も槌を使える様になるかな?」
「どうだろうな?ルべは体が弱いのは確かなんだ、パトさんが生きてる内は、許してくれないかもしれないな。」
「そっか……、そうだよね……。」
「まあ、暗い顔するなって!もしかしたら、俺達を超える鍛冶職人になるかもしれないぞ?賢者の石って言うのがどんな鉱石なのか、ってのはパトさんも教えてくれないし、そもそもパトさんも知らないって言ってたし、何が出来るかはわかんねぇけどさ、もしかしたら、俺とパトさんを超えるだけの鍛冶職人になれるだけの力があるかももしれねぇだろ?」
暗い顔をするルベライト、生来の気質として「根暗」だったルベライトは、今でも内向的な面を見せる事が多い、賢者の石で体が出来ている、という話をパトロックにされる前までは、その「内向的」だった部分よりも子供らしい部分の方が強く出ていたが、ルベライトの生来の気質としては「内向的で人見知り」と言うのが正しいだろう。
クォーツは逆に活発で外交的な青年で、現在十七歳であるクォーツは、修行以外では少し悪ぶっていたりもして、夜になると「不良仲間」と一緒にどこかに行く、と言うのが定番化していた。
パトロックが時折吸っている紙巻きたばこも、クォーツは隠れて吸っていて、パトロックもルチルもその事に気づていたが、クォーツの不良青年ぶりは今に始まった話ではない、と黙認をしている形を取っていた。
「兄ちゃんはさ、遊びに行って疲れたりしないの?」
「ん?そうさなぁ、息抜きって何事においても大事だと思ってるからな。ルべだってそのうちわかってくる日が来るかもしれねぇぞ?俺だって、後継者としてまじめにやんねぇといけねぇのはわかってるけどよ、それと遊んじゃいけねぇって言うのは、ちょっと違うだろ?」
「……。そうだね、確かに……。」
「だから、ルべも友達を作った方がいいぞ?楽しいし、なんかあった時には頼れるし、何よりそこからじゃねぇと貰えねぇ何かがる、と思ってるからな、俺は。」
「そっか。」
クォーツはそれだけ言うと、工房に戻る。
鍛冶職人として一人前にならなければならない、それはわかっているのだろう、勇者に武器を鍛造できる存在は自分達の一族以外には「ガンスミス」と呼ばれる銃を扱っている武器職人しかいない、それをサボって出来なくなってしまったとなっては、千代において続いているカイル家の歴史に汚点を残す事になる、その重圧からもクォーツは修行だけは真面目に取り組んでいた。
パトロックもルチルもそれをよくわかっているから、普段の不良青年ぶりだったり、日常生活における不具合に関しては、怒りこそすれど黙認している、それが現状だろう。
「……。賢者の石の奇跡で、人間を生み出したとな?」
「そうなるのか?俺は肉体を作っただけなんだがな。」
賢人機関、ローランはルベルの中央部にある巨大な建物、賢人達が集う議会の主催地、賢人機関の議会に、パトロックは呼び出されていた、その理由は至極簡単な事、ルベライトの肉体を賢者の石で生み出した事、についてだ。
パトロックからしたら、別段隠していた訳でもないのに、今まで十二年間何も言われてこなかった事に驚きだったのだが、賢人機関がルベライトの事を知ったのは最近だ、と認識していた、それ以来賢人機関から参考人招致を依頼されていた、ただ勇者の為の武器作りで忙しかったから、それに応えてこなかっただけ、何も後ろめたい事がなければ、隠す事もない、とパトロックは考えていた。
「賢者の石の奇跡の保存を……。」
「それは困る、俺の息子に何かされたとあったら、俺は千代続いたカイル家の歴史を畳むだけの用意をする、それは間違いない。息子は生きてる、実験動物でもなければ、魔道具でもない。人間だ、人間として生きている、それで十分じゃないか。……。もしもあんた方が賢者の石の奇跡の在り方を調べたいのなら、それは何もルべの体を調べる必要もないだろうよ。あの石は奇跡を起こした、神の落とし物、奇跡の石、その言葉の通りに、俺達家族の願いを、あの子自身の生きたいっていう願いを叶えてくれた、それだけだ。」
賢人機関が求めている事は、賢者の石の奇跡の保存と保管。
そしてパトロックが求めているのは、我が子の幸せと安寧。
それが危ぶまれるのであれば千代続いたカイルの家系を畳む、つまりは「勇者にとっての生命線である武器を作る家系としての役割をパトロックの代で終わらせる」と言っている、それが賢人機関にとってどれだけ重要な事か、どれだけ危険な事か、パトロックはそれを分かっていて交渉材料にしていた。
それを交渉のテーブルに持ち込まれた以上、賢人機関は一定の熟慮をしなければならない、それをパトロックは「解って」いるのだ。
事実、議会はざわついていた、パトロックという「魔王に対するカウンターの一部として組み込まれている武器職人」が、それを辞めてという事を言っているのだから、それは大陸や国家の破滅にも繋がってしまう、それ位には、パトロックが生み出す武器は重要な立ち位置にあった、それがわからないほどに、賢人機関も伊達に賢人を名乗っている訳ではない、議会はパトロックの言葉を飲む以外に選択肢が無かった。
「議会は代償を求める、奇跡の再現性を……。」
「それは、俺に人間の体を生み出せって言う事か?それとも、ルべとまったく同じ状態の構築をしろって言う事か?」
「その様子では、賢者の石の在り方を知らんと見える、小僧。良いだろう、賢者の石の製造方法と、その在り方を閲覧する事を許可する、その果てに熟考すると良い、自分が何を以てして人間を生み出したのかをな。」
「そりゃ有難い話だ。」
賢人機関の長、議長が話を取りまとめて、パトロックに一冊の本を渡した。
パトロックは、十二年間疑問に思い続けていた「賢者の石の製造方法」を知るいい機会だ、とそれを笑って、その本をもって家へと戻っていった。




