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第六話 賢人機関

「はい、良いですよ。」

「はい。」

 定期健診、ルベライトは、年に二回ある定期健診に来ていた、元来子供が検診を受けるのは年に一度、それも何歳かまでなのだが、ルベライトはその出自の関係上、定期的に検診を受けていた、医者も最初は驚いていた、賢者の石には「願いを叶える」という効果がある、とは言われていた、賢人から「だからこそ使い所を考えろ」と言われていたのだが、まさか人間としての体を為す所か、剰え成長して子供として生きる様になる、そこまでは想像が出来ていなかったのだろう、パトロックに万が一のことがあるかもしれない、と言ったのは「人間として死ねるかもしれない」という事を話したのであって、「人間として成長出来るかもしれない」という可能性ではなかった、と。

 その為に、定期健診と言う都合を作って、ルベライトに関する情報を集めていた、人間とどこが違って、人間とどこが一緒で、賢者の石はどんなふうに誰の願いを叶えたのか、それを研究する為の素体として、ルベライトに定期健診をさせている、それが事実だった。

 ただ、ルベライトはその事を知らされていない、虚弱体質として生まれたから、定期的に通院して検診を受けた方がいい、と言われているだけだ、医者の目論見、あわよくば賢者の石の仕組みを暴いて、賢人に一矢報いる為の方法論を探している、などとは伝えられていない。

「接合部を見せていただいても?」

「はい。」

 ルベライトの接合部、つまり関節部は着脱が出来る、着脱した状態でも痛覚や触覚は繋がっている、と言うのがルベライトから得た情報であり、ルベライトは外した腕を「障られている」と感じると言っている、それが間違いでなければ、賢者の石で造られた体は「遠隔でも痛覚や触覚を維持できる」という事になるだろう。

 接合部は赤い色をしており、そもそも渡した時の賢者の石の色からは変化をしていた、これに関しては「地水火風」という四つの属性からなるこの世界の賢者の石、がルベライトの性質によって変質して、赤い色を司る「火」の属性に変化した、という研究結果を医者はまとめていた。

 接合部、関節部は賢者の石を丸い形に加工していて、所謂「人体模型」の関節部と同じ動き方をする形になっていた、医者は目つきを鋭くして、十年間と言う時間をそれで過ごしてきて「一切摩耗していない」という事実に衝撃を受けていた、賢者の石が特殊な鉱石だ、と言っても鉱石である事に変わりはない、という事は摩耗も劣化もするはずだ、それをしていないと言うのが、また医者からしたら驚愕なのだろう。

「はい、良いですよ。洋服を着てください、心音などは正常ですので、相変わらずですが薬は出さずに様子を見ましょう。」

「先生、俺って……、歩ける様になる可能性って、あるんですか……?」

「ふむ……。私も、賢者の石と言う鉱石でできた方を診た事がありませんので、何とも言い難い所ですが。賢者の石は、持ち主の願望を叶える石だ、と聞いた事がありますので、ルベライト君が望み続ければ、その内歩ける様になるかもしれませんね。」

「そう、ですか……。ありがとうございます、それじゃ俺、帰ります。」

「はい、また次の検診で。」

 ルベライトは車いすを自分で回して、検診室から出ていく、医者は取ったレントゲンを眺めながら、唸っていた。

「賢者の石……。」

 セレンを摘出した産科医は、同時に人体に対する研究者でもあった、その研究者が「賢者の石」という奇跡を起こす鉱石について何も知らない訳ではなかった、ただ、これだけの事を成すという結果をもたらすとは思っていなかった、それが正しい感想だろう、医者は「人間として死ねるだけの器」を用意する為に賢者の石を渡したのであって、「人間として生きて、尚且つ成長する肉体」を得られるだけの魔力を持った鉱石だとは、毛ほども思っていなかった、パトロックに行ったのはそういう意味だった、テトラマ体ではなく、人間の器として死ねる様に、と渡したのだ。

 奇跡の石、神の石、願いの石、この世界の伝承においては、所々で賢者の石に関する記載が出てくる事がある、願いを叶えるお守りの石だとか、持っていると奇跡を起こしてくれる石だとか、神がもたらした石だとか、そう言った類の伝承がいくつか残っている。

 賢人と呼ばれる上流階級、特権階級の人間にしか元来は所持と製造方法を知らされていない、何処で採掘出来て、どうやって精製して、という事は賢人しか知らない鉱石、医者になるという事は将来的に賢人になる可能性を秘めている、と言われて、医者になった時に「何かがあったら使いなさい」と言われて下賜された賢者の石、それに関して医者は懐疑的な姿勢だった、回復魔法では治せない病があるから医者がいる、魔法は万能ではない、賢人が真に万能で、魔王も勇者も必要としていないのであれば、それを成しているはずだ、それが成せないという事は、賢人は万能の才人ではない、という証左になると。

「勇者に下賜される賢者の石……。」

 人間側の特権階級である「賢人」、その賢人の議会によって選抜される「勇者」、それに相対する存在である人類の脅威の長である「魔王」、魔王の配下足る魔軍、それらには意味がある、医者はそう考えていた、そして元来はその勇者に下賜される「賢者の石」が、勇者にとってどんな意味を持つのか、どんな理由で下賜されて、どんな用途で使われているのか。

 奇跡の石が奇跡の石たる理由、それを目の当たりにしてしまった以上、それを解明したいと考えるのが研究者の性だ、その知的好奇心から逃れられないのが賢人足る素質だ、と誰かが言っていた覚えがある。

「賢人と賢者の石……。」

 厳密に言えば、賢人は施政者ではない、表に立って国を運営している大統領府があって、議会があって、それとは独立した機関として「賢人機関」というものがあり、そして賢人はそこに属して魔法の研究や勇者の選抜を行っている、という話が通説だ。

 ただ、それには裏がある、そう医者は考えていた、大統領府や議会が勇者を選抜しているのではなく、賢人機関が勇者を選抜している事、魔王と言う国家間における脅威に対して、立法府ではない一機関が決定権を持っている事、それに疑問を抱かない、は愚者の思考であるだろう、と。

 賢人と言うシステム、そしてその賢人から下賜される賢者の石、勇者の選抜理由、それらには法則性がある、と考えるのが妥当な筋だろう、と医者は考えていた、それがどういった法則性なのか、に関しては分かっていなかった、賢者の石を研究する事は表向き禁じられている、奇跡の石は奇跡のまま隠匿するべきだ、という事なのだろうと医者は思考を纏めていたが、それが正しいのかどうかもわかっていない、決定的なのは「ルベライト・セレン・カイルという、賢者の石によって成長する肉体を得た存在がいる」という事だけ、それ以外の事に関してはいまだ未知数だ。

 それらを踏まえて、医者は研究者として賢人機関に属する可能性を考えていた、暴きたいという欲求と言うよりは、解明したいという欲求が強い、そう言った人間が賢人機関には多い、といううわさは聞いていた、だから、そこに属して解明するのが一番手っ取り早いだろう、と。


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