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第五話 鍛冶職人

「あれ、兄さんは?」

「クォーツならお父さんと工房よ?」

「そっか。」

 自分と違い後継者として育てられているクォーツ、パトロックにとっては、後継者は絶対的に必要な存在で、銃を鍛造しているガンスミスがいるのに対して、パトロックはルベライト達が暮らしている国「ローラン」唯一の鍛冶職人だ、鍛冶職人がいなければ武器は作れない、「勇者」と呼ばれる「魔王」を打ち倒さんとする人間達にとって、パトロックやガンスミスは生命線だ、パトロックの様に「勇者の特性に合わせて武器を作る」という技術は一子相伝の技で、パトロックも魔王サイドから命を狙われた事があるのだとか、そんな話を聞いた事がある、その息子であるクォーツは、後継者として鍛えられている、当たり前の話だ。

 ルベライトは後継者足り得ない、そもそも自分の足で立つ事すら出来ないルベライトが、鍛冶仕事を出来る道理がない、それに関してはルベライト本人もわかっていた、わかっていたが、クォーツの事を羨む事もある、それは事実だろう。

「ルべ、お散歩でも行きましょうか?」

「良いの?」

「えぇ、外の空気を吸うって言うのは、大切でしょう?お父さんもクォーツも、今日は引き籠って修行するって言っていたしね。」

「ありがとう、母さん。」

 ルチルは車いすを押して、ルベライトを外に連れ出す。

 親子らしい事、をしてあげないといけないと義務感に駆られていたパトロックと違って、ルチルは自然体でルベライトに関わっていた為、別段反抗期でもつんけんしたり突き放されたりしない、夫婦での違いはそこにあった。


「いい天気ね。」

「雨季じゃないからね。」

「そうねぇ。」

 ルベライト達が暮らしている「ローラン」という国は、一年間のうち二か月程度「雨季」があり、それ以外の時期は基本的に雨が降らない、そう言った風土の国だ、ルベライトはテレビで「雪」という北国で降るという冷たい氷を見た事はあったものの、実際にそれを見た事はない、ローランと言う国自体が南部にある国とされていて、温度が高い時期が長く続く、と言うのもあり、寒いと感じるのはごく稀な事だ。

 逆に、北部の国「アルド」では、一年のうち半分は雪が降っていて、という話だった、ルベライトがテレビを介して知った情報ではあったが、テレビと言う文明が発達したこの世界においては、それは情報源としては確かなものだろう。

「あのさ、母さん。」

「何かしら?」

「……。俺ってさ……。」

「……?」

 ルベライトは、元来内向的な性格の持ち主で、いつも何かを考えこんでしまう、それが性格であり性質だった、クォーツが快活で大胆な性格をしているのが羨ましい、ある意味無鉄砲で、何も考えていないようで考えている、というクォーツの性格に憧れていた、それがルベライトの心境だった。

「俺ってさ……。邪魔、じゃないのかな。」

「……。何を言っているの、ルべ。貴方は私達にとって大切な子供、体が弱かったとしても、歩けないんだとしても、何だったとしても、私達の愛する子供なのよ?」

 ルベライト達の住まい、工房の併設された大きな一軒家は、街の外側にあった、街の外側、ローランの首都である「ルベル」からほど近い街「アルベルト」の郊外、近所に買い物に行くのには少々大変な程度、車があれば移動は簡単だが、車が無いと少し移動が不便な程度、の場所に、カイル邸は建てられていた。

 「世界が別たれた」と言われている二万年前から、ずっとカイル家は勇者への餞別として武器を作り続けていた家系だ、とパトロックは歴史書にも近い家系図を持っていた、二万年間、世代としては千世代続いたカイルの家系、を継ぐのがクォーツの役割で、それをしなければ勇者は戦えない、先代の勇者の武器を譲り受ければいいのでは?と言われてしまいそうなものだが、勇者にはそれぞれ「武器の適正」と「属性の適正」の二つがある、地水火風の四つの属性と、片手剣、両手剣、槍、投的槍、鎌などと言った無数に存在する武器の特性を合わせなければならない、この世界が二万年間、魔王が現れて、勇者が倒して、また時代の魔王が現れて、という事を繰り返している、そんな中で、まだ扱える範囲での継承、が出来るケースは稀だった、多くの武器は次代の魔王によって破壊されてしまったり、盗賊によって盗まれて闇市に流れてしまったり、または豪族が権力を誇示する為に買い取って、リビングや玄関に飾ったり、という事をしてしまっていた為、鍛冶職人は欠かさず必要だった、いつの時代かは分担していたと言われている鍛冶職人の家系だったのだが、現在においてはカイル家しか残されていない、多くの鍛冶職人の家系は廃れてしまった、十家あったとされる鍛冶職人の家系の、カイル家以外の最後の一家が暖簾を卸してしまったのは、千年ほど前の話になる。

 パトロックはそんな鍛冶職人の最期の当代として、次世代にクォーツを育てていた、クォーツもそれを分かっていたから、鍛冶仕事に関してだけは真面目に取り組んでいた。

「兄さんは、だって……。」

「……。跡を継ぐだとか、継げないだとか、体が弱いだとか、強いだとか、そんな事は私達には関係がないのよ、ルべ。私達は、貴方が生まれてきてくれただけで良かった。奇形嚢腫として産まれてしまったあなたが、体を得てこうして生きてくれているだけで、私は嬉しかったのよ。」

「……。そっか。」

 ルチルは、車いすを押していた手を離して、後ろからルベライトの頬を撫でる、鉱石の体とは思えないその質感に、最初は驚いた、ルチルは最初困惑していた、賢者の石と言う鉱石で体を作った、とパトロックに言われていた為、肌の色がどうであったとしても、体の感触は堅いのだろうと覚悟をしていた、ただ、ルベライトに初めて触った時、ぷにぷにの柔らかい頬があって、それに驚いた覚えがあった。

 勿論の事、ルベライトの体には「関節の継ぎ目」がある、と言うべきか、関節までは完璧に隠せなかった、と言うのが正解と言うべきか、関節が文字通り「外れる」外す事が出来る、それをしたからなんだ、という訳でもないのだが、ルベライトは関節ごとに自分の体をバラバラにすることさえ出来る、ただそれ以外、それ以外の質感だったり皮膚の感触だったりは、人間と同じそれだ。

 だから、対外的にはルベライトは「手術をした事があって、その縫い目が残っている」と周囲には誤認させていた、賢人だけが扱って良いとされている賢者の石を使った、という事実は、それを渡してきた医者にとっても、パトロック達にとっても、危険な情報だからだ。

「……。俺……。」

「大丈夫、きっと大丈夫よ、ルべ。」

「母さん……。」

 自分は人間足り得ない、自分は人体足り得ない、鉱石の体をもって生まれてきた自分は、人間ではない何かだ、という意識があったルベライトは、積極的に友達を作らなくなってしまった、それを知らされるまでは快活だったルベライトの性格は、それを知ったのを皮切りに、とても内向的な性格へと変化してしまった。

 ルチルもパトロックも、いつかは知らなければならない事だ、とは考えていた、ただ、伝える時期を間違えてしまったのかもしれない、とは思っていた、特にルチルは、快活で友達が多かったルベライトに安心していた為、それをしなくなって、元々いた友達とも遊ばなくなってしまったルベライトに、心を痛めていた。

 ただ、それは仕方のない事なのかも知れなかった、賢者の石という特異性のある鉱石を使っている、賢人が持っているか、下賜された富豪や権威のある人間しか扱ってはいけない「幻の鉱石」を扱っているのだから、それを隠さなければならない事も、隠し事を続けて生きていくくらいなら、最初から誰ともかかわらなければいい、という思考に陥ってしまった事、それは仕方のない関連性を持つ事柄なのかもしれない、ルチルはそう感じていた。

「さ、帰ってご飯にしましょうか。お父さん達も、そろそろ工房から出てくる頃でしょうしね。」

 パトロックに倣って、クォーツも工房に一度はいると何日も水分だけで過ごす事が多くなってきた、その分が喰い意地に発展してしまっていて、それで食べる事を我慢出来ない、というサイクルが出来上がってしまっている、ルチルの見立てではそうだった、だから、クォーツに強く言う事が出来なかった、それをしてしまったら、次代の鍛冶職人として警鐘をしようとしているクォーツにとって、酷な事を言っていることになってしまうのだろう、と。

 家に戻りながら、ルチルは食卓に何を配膳しようか、冷蔵庫の中には何が残っていて、何が作れたか、献立をどうしようか、そんな事を考えていた。

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