↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/47

第四十六話 遺して逝く事

「……。オヤジ?」

「……。ルベ……。」

「オヤジ……!帰って、来て……!おふくろ!兄貴!オヤジが!」

 賢者の石の製造法、そして自らの命運を知ったパトロックが、約十年ぶりにローランの郊外の街であるアルベルトに帰ってきた、転移処からそのまま家まで送ってもらっていたパトロックを出迎えたのは、数奇な事にルベライトだった。

「貴方?帰って来たの?あぁ……!良かった……!」

「パトさん、やっと……。」

 ルベライトの大声に、リビングにいたクォーツとルチルもやってきて、家族は再会を果たした、十年間洗ってこそいたものの、着替えをしていなかったボロボロの服を着たパトロックは、一瞬ルベライトを見て瞳を潤ませる、ただ、それでも成さねばならぬ事がある、ルベライトには大きな役割がある、自分達には辿るべき道がある、それを伝えようか、それとも伝えずにルベライトに託すか、それをずっと悩んでいた、文献を誰かに見られない様に燃やして、アルニードに戻る最中、パトロックはずっと悩んでいた。

「クォーツ、ルチル、こっちに来てくれ。ルベ、お前は来るな。」

「オヤジ……?来るなって、どういう事?」

「来るな、それだけだ。……。何かを言い残すんだとしたら……。お前を、ずっと……。」

「……?」

「良いから来るな、ルチル、クォーツ、俺についてこい。」

「パトさん、帰ってきてそうそう……。」

「良いからいう事を聞け!」

 ルベライトを突き放す様な発言をした、それをクォーツが咎めた、パトロックは今まで聞いた事がない様な怒鳴り声で命令をした、それがこの場における全てだった。

「……。時間はない、俺達に時間は残されていない、クォーツ、ルチル、俺達に時間は残されていないんだ。」

「……。クォーツ、お父さんのいう事を聞きましょう。ルベ、待っていてね?」

「わ、わかったよ……。」

 ルチルは何かに気づいたのか、パトロックの言葉に従う様にと息子達に言い聞かせた、クォーツも、十年ぶりに聞くパトロックの怒鳴り声、しかも今まで叱られていた時とは比べ物にならない大きな声を出されて、委縮してしまっていた、ルベライトは自分が怒鳴られた経験がなかった為、驚いてリビングの方に独りで向かっていった。

 三人は工房に足を進める、パトロックが帰ってきてくれた喜びを分かち合う前に、パトロックの無事を感謝する前に、工房へと向かう。


「……。さて、何処から話したもんか。」

「パトさん、十年もどうしてたんだ?それに、せっかく帰って来たのにルベだけ……。」

「……。俺達は、ここで終わりなんだ、クォーツ。ルベに生かされてた俺達の命運は、ここで終わりなんだよ。俺が出て行った理由は、ルベの生きる意味を探す為だった、生きていい理由を探す為だった、賢者の石と言う、生命の源である魂の所在だった賢者の石で作った体、を持ったあの子が生きていていい理由、生きて行っても良い理由、それを探しに行く為に、俺はアルニードからメルンに行った。」

「生きても、良い理由?」

「ルベが、賢者の石を持った人間ではない人間が、生きても良い理由だ。……。俺は、どうしてもそれを見つけてやりたかった、ルベが、自分が生きて良いのかどうかを悩む日が来たら、それにすぐに答えられる様に、自分の在り方に悩んだ時に、道しるべになる言葉を言える様に。……。ただ、結果は違った。俺達がルベを生かしてたんじゃない、俺達がルベに生かされてたんだ。干渉を受けたルベが、それでも生き残った理由、干渉を受けてとっくのとうに死ぬはずだった俺達が、生き残った理由。それは……。それは、全てはルベを旅立たせる為だった、ルベは、あの子は、この世界だけじゃない、かつて竜神王が分け隔てたこの世界全体にとって、必要な子だったんだ。だから、俺達が生き残れていたのはルベのおかげ、ルベがいてくれたから、俺達は生き残れたんだ。」

「パトさん、待った待った、色々と説明不足が過ぎやしないか?」

「……。どうだったとしても、どう説明をしたとしても、俺達がここで終わる事は変わらない、ルベが旅立ってしまったら、俺達を守ってくれるものはない、ならせめて、俺はルベの為に最期を迎えたい。」

「貴方……。何があったの?ルベが旅立つって、何処へ?どうして?」

 説明不足も良い所だ、クォーツとルチルは目を白黒させて、何が起こって何を見てきて、何を知って何を焦っているのか、それをパトロックに問う。

 パトロックは予言書の事を告げるか悩む、どう足搔いても「ルベライトがこの世界を旅だったらお終い」なのだが、その時がすぐ近くまで来ている事、悠長に位置から説明していたらその「お終い」に間に合わないかもしれない事、そして、ルベライトに予言の事を伝えたら「覚悟が鈍ってしまうだろう」事、それらを統合して、ルチルとクォーツに予言書の事を伝える。


「……。じゃあ、俺達はどう足搔いたって死ぬって事か?その、大いなる闇ってのに、殺されるって?」

「そういう事になる、俺達がどう足搔いても、それこそ古の守護神と戦ってる相手にあらがえる訳がない、なら俺は、その干渉できない賢者の石になる事で、ルベを守りたいんだ。」

「……。世界の為に、あの子自身の為に、そういう事ね?」

「……。馬鹿々々しい話をしてるのはわかってる、母さんもクォーツもここで死ぬしかない、なんて納得できないだろうこともわかってる、でも……。それしか、方法はないんだ。」

 馬鹿々々しい話、とは二人は思わなかった、パトロックはマジで頑固一徹な人物だ、それをよく理解しているから、パトロックの言葉が本当なのだろう、それがパトロックが十年をかけて見つけ出した答えなのだろう、それは理解していた。

「ルベを……。置いて逝かないといけないのね……。」

「ルベ……。独りで、頑張っていけんのかな。」

「信じるのが俺達の役割だ、俺達の定めがここで終わるんだとしても、ルベはきっと、ちゃんとやってくれる。」

 古代におけるメルンの人間達の選択、そして現在におけるパトロック達の選択、全ては「ルベライトを巣立たせる為、ひいては世界群と呼ばれているこの世界達の為」に、ルベライトの為だけに、愛する家族の為に、そうしなければならない、それがパトロック達の定めだった。

「……。二人とも、後悔はないか?言い残した事は、ルベに何か伝えたい事は……。」

「パトさん、それは野暮ってもんだ。わかってる、それを遺す事はルベにとって重荷になっちまう、だから、良いんだ。」

「えぇ、貴方と一緒に居られて、二人のお母さんでいられて、良かったわ。」

「……。」

 パトロックは祈りを捧げる、それはかつての守護神への祈り、メルンを守っていた神であり、九代目竜神王の在り方に意義を見出した、かつて信仰されていた神への祈り。

 捧げるは命、捧げるは命運、捧げるは、家族の愛。

「神よ、この身を捧げ守護者の力足らんと。」

 三人が祈りを捧げる、体が光り出す、輝きが身を包んでいく。

「ルベ、きっと信じてるからな。」

 何も言わずに別れになる事、それを哀しむ心はあった、ただ、話してしまったら「ルベライトにとって変えられない未来」として、重荷になってしまう、どう足搔いても自分達が死ぬ事、それをルベライトに告げる事は、ルベライトの未来を濁らせてしまう結果になるだろう、それでは世界は守れない、世界群と言う大きな世界を守る為には、自分達はここで終わらなければならない。

 涙が出てくる、光の中でパトロックがルチルとクォーツを見やると、二人も泣いていた、ただ、それは後悔の涙ではなかった、悔恨の涙でもなかった。

 きっと、きっとルベライトは世界を守って見せる、その為に命を使える事、最期まで、家族の為に逝ける事、それが嬉しい、それがパトロックが最後に感じた感情だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。