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第四十五話 予言と真実と未来

「長かった、な。」

 議事堂を探索し始めて二年間が経った、二年経過した夏季、ルベライトが二十一歳になる頃、パトロックはお目当ての文献を探し出した。

 それは議事堂の中でも小さな個室の中にあった、執務室と呼ばれている千人いる議員達のうちの一人、が使っていたのだろう執務室の中、にその本はあった。

「これが、賢者の石の製造法を……。」

 古代アルド語で、賢者の石の製造と運用について、と書かれたその本を読むのには、少々執務室は暗い、片手しかないのだから、片手で懐中電灯をもって片手で本を読む、という事は出来ない。

 一旦アルニードに戻ってから読んだ方が良いのだろうか、しかし約十年間と言う機関を掛けて探し出した本を、アルニードまで我慢できる程、パトロックはこらえ性がある方ではなかった、もう自分も四十歳を超えている、それを改めて考えた時、あと何年生きてどれ位の時間を過ごせるのかがわからない、そうである以上は一刻も早くこの書物を解読して読まなければ、パトロックはそう考え焦りを見せていた。

 幸いな事に現在時刻は昼の一時、執務室がやや暗いだけで、外は日の明かりが照っている時間だ、今のうちに議事堂を出て、さっさと文献を解読すれば、夜までには読み終わるだろう、パトロックはそう思案して、議事堂を出て行った。


「……。」

 古代アルド語、に関しては翻訳は慣れている、というよりは古代メルン語に該当する本なのだが、古代アルド語の訛りが入った文献、が古代メルン語だ、詳しい訛りまではわからずとも、古代アルド語を理解していれば基本的に読める、それが古代メルン語の文献だ。

「賢者の石の製造法は……。」

 どうしてここメルンで賢者の石が採取されるのか、パトロックも実際に採取して思った事、人間の魂であろう事自体はわかっていたが、ならば人間の魂が凝固して、物質となる理由は、何か。

「大いなる、闇と……、竜神王、の戦い……?」

 賢者の石の製造法を記す、と書いてあはずなのに、古の神話の話が飛び出してきた、古の神話、この世界がこの世界として成立する前に、世界全体を守護していたとされる「竜神王」と、その竜神王と戦っていたとされている「大いなる闇」、その戦いの事がどうしてこの文献には記されているのだろうか、羊皮紙の装丁であるこの古書は、どうしてその部分に言及しているのだろうか。

「賢者の石、その肉体……。」

 賢者の石の製造法、の前に、前置きとしてなのかどうなのかはわからないが、賢者の石の肉体を持つ者、という項目があった。

 かつてにも賢者の石の肉体を持った者が存在したのだろうか?とパトロックは疑問を持ちながら、次の文章に目を向けて、その目を見開いた。

 「賢者の石の肉体を持つ者、ルベライト・セレン・カイルへと向けて」と書かれたその文章は、他に同姓同名の人間が存在した、という過去がなかったのであれば、自分の息子であるルベライトへと向けられた言葉だ、そう解釈してもおかしくはないだろう。

「どうして、ルベの名前が……?」

 この羊皮紙の書物は、メルンが壊滅する前に書かれた文献のはずだ、ならば軽く見積もっても数千年前、下手をすれば世界分割前に書かれた書物、と捉えても差し支えはないだろう、その書物にルベライトの名前が書かれている理由、それを知る為にも、パトロックは解読を進めていく。

「……。賢者の石……、干渉できない……、大いなる闇……。」

 賢者の石には、竜神王の敵対者である大いなる闇は「干渉」が出来ない、「干渉」と言うのは、つまり運命に対する干渉が出来ない、だから大いなる闇は自分にとって都合の悪い存在となり得るルベライトを、違う形で消そうとした、それが奇形嚢腫として産まれたルベライトの正体であり、ルベライトは未来において「大いなる闇にとっての脅威足り得る存在」と予言されていた、だから大いなる闇はルベライトの運命に干渉をして、肉体を与えない事でその脅威を取り除こうとした。

 そこには不完全性があった、大いなる闇にとって計算外になるであろう事、それが「ルベライトは多くの魂と共鳴する術を持っていて、その為に賢者の石を肉体として受肉出来る未来がある」という事だった、この予言をした者がいて、そしてこの予言を隠す為に「j賢者の石の製造法」であるこの書物にその記述を遺した、大いなる闇にとっての不都合である「賢者の石」と「ルベライトの存在を予言した者」を消す為に、九代目竜神王によって封じられた大いなる闇は「メルンと言う国を魔王の手腕によって滅ぼさせた」、賢者の石とは詰まるところ、「世界を守らんとする意志の象徴」であり、「世界を守る為に犠牲となった人間達」の魂が物質化した物、全てはルベライトを守る為、大いなる闇に対するこの世界の回答「大いなる闇に対するカウンターたる守護者」として、ルベライトを守る為、そしてルベライトが肉体をもって産まれてくる事が出来る様に、その為だけに「多くの人間が賢者の石として魂を輪廻に還さず残留する道」を選んだ、この書物は、未来の予言書として消されてしまわない様に、ある占い師に枷を掛けて封印した、と。

「占い師……、あの時の……。」

 ならば、この文献はパトロックに遺された文献だったのだろう、賢人機関の人間がパトロックに自由行動を許していた意味、がようやく合点がいった、と腑に落ちる、予言が残っている事を知っていたとしても、古の賢人が掛けた封印、と言うのを賢人機関の人間は解けなかったのだろう、だから「いつか現れるであろうい賢者の石をもった人間」が現れるのを待っていた、その為に遺された手掛かりであった「カイル家の末裔」と言う情報程度は持っていたのだろう、だから、カイル家が唯一勇者への武器の鍛造を許されていル、という事にして「カイル家から賢者の石の肉体を持つ者が産まれる事を待っていた」それが賢人機関の思惑だったのだろう。

 予言されていた事、この予言書にどこまでの情報が載っていて、そしてこれからルベライトがどうするべきなのか、「世界にとっての守護者」とは、勇者の事ではなくルベライト個人の事をさす、と書いてあるこの文献の意味は、そして、これから 自分達が成すべき、最期にルベライトに遺せる愛情の形は。

 自分達の定め、自分の定め、パトロックは、己の命運の終わりを知った、文献に記されている事が本当なのであれば、ルベライトは旅立たねばならない、鍛冶職人として、守護者として、勇者を超えた「世界を守る者」として、パトロックとルチル、クォーツの元を離れなければならない、そして「賢者の石の肉体を持つルベライト」の近くにいたからこそ守られていた自分達は、ルベライトが旅立った瞬間に「大いなる闇」によって運命を歪められて、ルベライトの足を引っ張ってしまう存在になりかねない、その時の為に「人間の魂を賢者の石に変える方法」が記されていた、わざわざ魔王に殺される必要はない、メルンの住人達の様に、蹂躙と覚悟の末にならなけばならないわけでもない、ただ、一つだけ胸に抱いて、それを実行すれば己の魂を賢者の石に変貌させる事が出来る、その方法が巻末に書かれていた、「愛すべき者を守る為に」と書かれたその巻末の文章は、パトロックに向けられた言葉だった、いずれ生まれ来る賢者の石の肉体をもった青年「ルベライト」の為に、その家族が出来る最期の手段を遺す、と書かれていたそれを、パトロックは選ばなければならないのだろう。

「ルベ……。」

 涙が流れてくる、ルベライトの生きていい理由を探しに来たはずが、ルベライトには自分達は到底及ばない大きな定めの中にいる、という回答が用意されていた事、そして、それを遂行する為には旅立たねばならない事、さらに言えば、それをした直後に「自分達はどう足搔いても殺される、それがルベライトの為になるか、それとも足を引っ張る形になるか」のどちらかしか顛末は用意されていない、という事、悲しみと誇り、ルベライトはやっていけるだろうか、旅立って、仲間を見つけられるだろうか、大きすぎる定めの中の勤めを、ちゃんと果たせるのだろうか、家族との別れは、ルベライトの心に大きな傷を残すことになってしまうのではないだろうか、そんな事を考えて、涙が止まらないパトロックがいた。

「俺は、誇らしいよ、ルベ……。」

 大きすぎる役割なのかもしれない、大きすぎる定めなのかもしれない、ただ、ルベライトが生まれてきた意味、あの時ルベライトが「それでも産まれたい」と願った事の意義、それを知って、パトロックは泣きながら笑った、誇らしいと、自分の息子が世界の守護者である事が、誇らしいと。

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