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第三十五話 鉱石の声と性質

「ルベ、ルチさんの様子はどうだ?」

「最近はご飯も食べられるようになって来たし、そろそろお風呂にも入れるんじゃないかな、って先生は言ってたよ。」

「そか、そりゃ良かった。パトさんが戻って来た時、ルチさんがあんな様子じゃ倒れちまうだろうからな。」

「そうだね。」

 ルベライトが十五歳、クォーツが二十一歳になった、雨季を超えた頃。

 クォーツは、時折ルチルの様子を気に掛けながら、ルベライトに仕込みをしていた。

 まだ勇者に武器を作る段階ではなかったクォーツだったが、次の勇者はもう選抜されている、アルドの冬季である今の時期に、丁度旅立っていった、という話を聞いていた、クォーツと同い年な青年であるソーラルは、友柄を引き連れてアルドに向かった、そんな話を聞いていた、だからまだパトロックが渡した武器の持ち主が旅立っているだけで、まだ自分の造った武器は必要とされていない、と言うのはわかっていた、ただ勇者の命は儚い、一年程前に、先代の勇者であるアルベルトが亡くなった、メルンという都市にすらたどり着けなかった勇者の落第者、として扱われていて、勇者の扱いが雑だというべきか、頼っていて、守ってもらっているのにもかかわらず、勇者を貶すその神経がわからない、とルベライトとクォーツは話をしていた。

 ある意味、アルニードにおいては勇者様と神聖視されていたり、賢人機関や元老院にとっては必要不可欠な存在である勇者や供回り、そして自分達補佐役なのだが、基本的にローランの人間は対岸の火事を見ているだけ、テレビで魔王とモンスターの進軍を眺めて、リビングで「ああ怖い」と言っているだけで、実際にその脅威を知ろうとしなければ、モンスターに襲われたら勇者や戦える存在に助けてもらって当たり前、、そしてその存在は差別して良い対象だ、そんな矛盾をはらんだ感情、それがローランにおける勇者や戦士、魔法使いの扱いだ。

 「世界を守ったら当たり前」「途中で戦士死したら落第者」「敗戦して戻って来たら恥知らず」という、どう足搔いた所でローランでは勇者は歓迎されない、凱旋すら許されない、例え世界を守ったとしても、それを讃えるどころか「魔王を殺した化け物」として扱わられる、クォーツはそんなこの国の在り方に不満を持っていた、自分達が忌避されるからではない、勇者やアルニードの住人達が、命懸けで自分達を守ってくれているのにもかかわらず、茶の間の話題感覚で蔑視する、その感情がわからない、ある意味ではかつての不良仲間達は「そんな大人達に対するアンチテーゼ」的な存在であり、だからこそ仲間として悪さをしていた、そんな事を思い出す。

「ルベ、鉱石の声はなんて言ってる?」

「えっとね、こっちの鉱石は槍が適性がありそうで、こっちは剣に適性があるって。」

「そか、ならルベが作ってみるのが良いかもな。」

「俺が?でも俺、まだブロンズソードだって何回かしか作った事ないんだよ?」

「実戦経験は積んでおいた方が良いだろ?それに、ルベにしか聞こえない声があるって事は、もしかしたら俺達カイル家の中で一番の鍛冶職人になる可能性だってあるんだ。」

 鉱石の加工、鉱石はたたいて伸ばすというよりは、形を加工する、所謂「削り」が主だった作業だ、採掘された大きな鉱石を、割って削って武器の形に整える、その補助的な部分として、金属を使った柄だとか、持ちてだとか、そう言った意味合いでの金属の加工がある、それがカイル家の武器の鍛造の仕方だ。

 ルベライトの名前の揺らいであるルビーだったり、クォーツの名前の由来である石英、つまり水晶だったり、そう言った鉱石を鋭く固い刃にして、それを支える金属部分を錬成して、それらを合体させて武器を鍛造する、ルビーは火属性、石英、つまり水晶は属性に振り分けられない、と言う特徴があったり、サファイアは水属性、トパーズは土属性、翡翠は風属性と、勇者が基本的には「光属性がメイン」であり「副次的な属性として地水火風の属性に類する」、その副次的な属性に合わせて鉱石を変えている、それが勇者達への武器の鍛造の仕方だ。

「まずは柄と芯になる金属をたたく所からだな。」

「わかった。」

 鉱石は基本的に刃だったり宝玉の類として、攻撃に直結する部分を司る、この世界においては「鉱石は金属より硬い」が基本知識であり、金属が靭性だったり粘性があったりするのに対して、鉱石は間違った力加減をして砕いたり、削りすぎてしまった瞬間に「クズ石」となってその力を発揮出来なくなってしまう、どの鉱石がどの属性に属していて、そしてどの程度の硬度を持っていて、という事を見極められなければ、鍛冶職人は務まらない。

 それをルベライトに教える為に、クォーツは最初に水晶を渡そうと考えていた、何色にでも染まる、何の属性にでもなれる水晶であれば、ある程度はルベライトの技量でも形にはなるだろう、と。

 ルベライトは、金属を炉に放り込んで、溶ける寸前までもって行って、形を保っている間に引き抜いて、トルマリンの形見である槌で叩いて、伸ばして、また炉に放り込んで、叩いて、それを繰り返して強度を増していく、それがカイル家における伝統技法であり、別の世界では「日本刀」という、ルベライトが持っている脇差とその周囲に類する武器を鍛造する為の技法だ、この世界においては数万年前からずっと継承されてきた技法だが、別の世界では千年と少しの、ある意味では若い技法である世界もある、のだとか、そんな話だ。

「水は飲めよ?俺とはパトさんと違って、ルベはまだそのあたり訓練してねぇんだから。」

「うん、わかった。」

 ルベライトは、鉱石から聞こえてくる声に耳を傾けながら、基本となる武器の柄や持ちて、芯を鍛造していく、鉱石から聞こえる声は様々で、声の大きさから内容までまったく違う、「武器になりたい」と願う鉱石があれば「装飾品として飾り立てられたい」と言う鉱石がある、鉱石に意志が宿っているのか、ならば鉱石は生きているのか、と問われたら、ルベライトもそれは違うと答えるだろう、ただ、聞こえてくる声はある、確実にある、それだけはルベライトの中では真実だった、カイル家の歴史の中で何人かいたとされている「妖精憑き」にも似た何か、に魅せられていたルベライトは、鉱石の声に従って武器の鍛造を進めていく。


「ふー……。」

「兄ちゃん、もうドラゴン・キッスを吸うのすっかり慣れたんだね。父さんと同じみたいだ。」

「そだな、パトさんに憧れて吸い始めたんだから、そりゃ似てくるのも間違いじゃねぇかもしれねぇな。」

「兄ちゃんは父さんに憧れてるの?」

「ん、そりゃな。カイル家千代目当主、なんて響きがまずかっこいいだろ?千代目って言う歴史の中で、一番か二番か、って言われてるくらいには鍛冶職人としての腕前が高い、とも言われてるだろ?人望もある、人間としても良い人だ、憧れるっちゃ憧れる、嫉妬するっちゃ嫉妬するな。そう言うルベはどうなんだ?反抗期、はとっくに抜けたんだろ?」

 クォーツがパトロックの真似をしながら煙草を吸っている姿を見つつ、水を飲んで休憩していたルベライトは、ふと疑問をこぼした、だけだったはずなのだが、クォーツからしたら、話題の種になる様な事柄だったらしい。

 パトロックに憧れる、それは父として、鍛冶職人として、という話だろう、現在のパトロックの事を心配しているというよりは信じているのも、パトロックは責任感が強い漢だ、という事を分かっているから、いつの日かか帰ってきてくれる、と信じている、という意味合いが強かった。

 ルベライトが「パトロックは自分達より優先するべき何かを見つけてしまったから」と考えているのも間違いではないだろう、と言うより、実際には「ルベライトが生きていていい理由を探しに行っている」訳なのだから、そこに関しては家族の為にと言っても差し支えはない、そういう意味ではクォーツの方がルベライトよりもパトロックの事を理解している、信頼している、その証左になるだろう。

 と言っても、パトロックが失踪してからもうすぐ三年が経つ、片腕を失ったという話を受け取ってから連絡の一本も来ない、その状況下でパトロックを信頼しろ、と言うのも酷だろう、クォーツはそう考えていたから、ルベライトにその話をしなかった。

「俺は……。母さんをおいて、何処かに行ってしまった父さんが……。」

「許せないか?」

「……。どうなんだろう。信じられないって言うのかな、父さんはずっと、母さんのことが大好きだって言ってたから、置いていくっていうのが信じられなかったし、母さんは体が弱っちゃってるんだし……。許す許さないじゃなくて、どうしてなんだろう?って。」

「どうして、か。……。パトさんは真面目な人だ、それはルベも良く知ってる事だろうな、勿論ルチさんだって、その事は俺達以上に知ってるはずだ。パトさんは途中で何かを放り出す様な人じゃねぇ、パトさんは何かを投げ出して逃げる様な人じゃねぇ。だから、何か大きな理由があると思ってんだ。俺達には言えなかった何か、アルニードのある方だから、アルドに行かなきゃならねぇ理由があって、それで俺達を置いていったんだろう、ってな。」

「大きな、理由……。」

 それが何なのか、に関してはクォーツもわかっていない、クォーツとしても「希望的観測」や信じているからこその信頼としてこの言葉を話しているだけで、実際にどうなのかはわからない、それが苦々し気な笑みに現れている。

 ルベライトは眉間にしわを寄せて、瞳をうろうろさせながら考える、パトロックがそこまでしてしたい事は何か、確かにパトロックは頑固一徹で真面目な父だ、だからこそ失踪した理由がまったくわからないのだが、ルチルでさえ置いていった事、それには大きな理由がある、クォーツはそう考えていた、そうでなければ、あのまじめを絵にかいたパトロックが失踪する理由がない、と。

 ルベライトは考える、クォーツの為にパンを焼いてベーコンエッグを作りながら、必死になって考える、パトロックがそうした理由を、パトロックが自分達の元からいなくなるという選択をした理由を、わからないなりに考えようとしていた。

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