第三十一話 声
「ルベがもう十四歳だなんて、お母さんびっくりしちゃうわ……?でも、いつも頑張ってくれてありがとう、お母さんがしっかりしないといけないのに……。」
「母さんは体の事を第一に考えないと、俺がそうだったんだし、自分の事を第一に考えて、それで病気を治さないと、父さんが帰って来た時に、母さんの事見て悲しんじゃうよ。」
「……。そうね、ありがとう、ルベ。」
クォーツの誕生日から半年、雨季を超えた暑い時期にルベライトの誕生日はあった、教で十四歳になるルベライトは、何かを望むでもなく、普段通りにルチルを看護して、クォーツの為に食事を作っていた、相変わらず簡単な料理しか出来なかったルベライトだったが、それで満足だと家族が言っていた為に、そこで料理の腕前が止まっていた。
「ルベ、ちょっとこっち来い。」
「兄ちゃん?わかった。」
ルベライトがルチルの食べた食器を片づける為に一階に降りてシンクに食器を置いたタイミングで、工房にいたクォーツがやってきてルベライトを工房の方に誘う。
「誕生日プレゼント、って言うのにはちょっと生々しいか?」
「これって……、片手剣?」
「ま、脇差って言うやつだな。片手剣とは違う、別の世界でいう所の日本?って言う国に伝わる伝統技法の武器だ、って書いてあったな。練習がてらつくってみたは良いんだけど、俺の分とちょっと余ったから、ルベに上げようと思ってな。」
「……。ありがとう、兄ちゃん。」
「そっちは魔力を吸って強くなったり、こっちは血液を吸って強くなったり、でもまぁ俺達が前線に出る事なんてねぇんだろうから、素振りするか何かに使ってくれや。ルベの魔力ってのがどれ位なのか、って言うのは俺達にゃわからねぇけどさ、なんとなくだぞ?なんとなく、カイル家の歴史の中で一番魔力が高いのがルベなんじゃねぇか、俺はそう思ってんだ。パトさんでも、トルマリンじいさんでも、歴代でも、俺でもねぇ、ルベが一番魔力に優れてるんじゃねぇか、って。」
クォーツから渡されたのは、鈍色に光る刀が二本、この世界における主流武器である片手剣ではなく、片刃の湾曲した出で立ちの武器、他世界において「日本刀」と呼ばれている武器だった。
何故クォーツがそれを鍛造したのか、と問われると、カイル家にはあらゆる世界体系の武器が記された書物が所蔵されている、武器に限定した話、そして近接武器であれば、鍛造方法が記載されている、という大きな書物、がカイル家に代々伝わる書物だ。
その中に記載されている中で、自分が作った事がないかつルベライトが扱えそうな武器、と言うのを考えた際、クォーツの目に留まったのがこの脇差だった。
魔力と血液を吸収する事で強くなる、という部分に関してはこの世界における魔法体系に寄せているが、形や技法としては他世界の技術だ、という意味で、この武器を鍛造して、そしてルベライトに渡す、それがクォーツが考えた誕生日プレゼントだった、という話になってくるのだろう。
「持ってみてくれよ、握りの感じとか、そういうの調整すっから。」
「えっと、うん。」
ベルトをしている腰に鞘を納めて、扱いがわからないなりに引き抜いて、握ってみるルベライト。
グリップの感覚がどうと言われても、ルベライトは今まで武器を握った事がない、パトロックにきつく言われていて、クォーツも無意識に完成品には触らせていなかった為に、カイル家の人間としてはおかしい程度には遅い、十四歳という年齢で武器を初めて握る、それがルベライトだった。
「どうなんだろう?ちょっと重たいけど、両手で持てば握れそうだし……。」
「それを片手で扱える様になるのが目標だな。脇差ってのは、太刀って言うのの補佐として使う事が多いらしいからな、その太刀を扱える様になるか、それとも脇差を極めるか、どっちかだ。」
「……。ありがとう、兄ちゃん。」
クォーツはクォーツなりに、今のルベライトでも握れる程度の武器を選んだつもりだったのだが、思ったよりもルベライトにしっくりくる形になった様子だ。
ルベライトは、両手で脇差を握って振ってみる、そこまで重いとは感じない、普段クォーツの手伝いで運んでいる鉱石や金属の方が重たい、そう感じる。
「そだ、例の聞こえてくる声ってのは、どうなった?」
「え?うーんとね、やっぱりここにいると聞こえてくるんだ。金属からは聞こえてこないんだけど、なんだか鉱石に話しかけられてるみたいな感じ、なのかな?」
「鉱石の声、か……。どっかで聞いた事がある気がするんだよなぁ……。カイル家の歴史の中で、そう言う特異体質の持ち主がいた、だったか?パトさんが昔歴史を教えて来た時に、なんか言ってた覚えがなくはないんだよな。そんで、なんて言ってるんだ?」
「えっとね、加工されるのならこう加工されたい、武器になるならこれになりたい、そんな感じかな?」
ルベライトが聞いている声、クォーツが「妖精憑き」かもしれないと考えていた声、の正体を、ルベライトはなんとなく理解し始めていた、鉱石に宿る意志、と言うのが眉唾なのかそれとも実在するのか、は一旦別口で考えるとして、クォーツは鉱石から声を聴いている、というルベライトの言葉は、一定数信頼に値すると考えていた、太古の歴史において、カイル家には物質と会話をする者がいた、鉱石や金属と言った「武器に加工する為の素材」と対話をする者達がいた、という希少的な人物が存在した、とパトロックから聞いた事があった、ならばルベライトがそれに該当してもおかしくはない、カイル家と言う「鍛造」に特化した一族なのだから、それが出来たとしてもおかしくはない、そう考えた。
武器の鍛造の為に鉱石や金属と向き合う、素材である物質には祈りを捧げてから加工をする、それがカイル家の家訓の一つでもあった、クォーツでさえ、加工する前の素材には一瞬ではあるが祈りを捧げる、パトロックは信心深い為にもっと真剣に祈りを捧げていたが、信仰心の薄いクォーツでさえ、カイル家の歴史と家訓としてそれを守っていた、それが必要な事だとわかっていたからだ。
その素材である鉱石から声が聞こえる、というルベライトは、もしかしたら自分達を超える鍛冶職人へと成長していくかもしれない、クォーツはパッと考え、そしてある意味で嫉妬した、体が弱く歩く事すら出来なかったルベライトが、今では歩ける様になって、素材を運ぶ程度の筋力を持ち合わせ、そして可能性として「先祖にいたとされる偉大な鍛冶職人」と同じ、素材から声を聴きとれるだけの能力を持ち合わせている、その事に一瞬だけ嫉妬した、そして、その可能性があり、その未来があるのであれば、ルベライトを育てるのが自分の役割だろう、いつの日かそれが叶うのか、それとも順当にクォーツが跡を継ぐのか、については不明瞭だが、しかしクォーツは「潰してはならない才能だ」とルベライトの事を認識した、潰してはならない才能、蓋をしてはいけない先天的な才能、それがルベライトにはあるのだ、パトロックには怒られてしまいそうだ、「体の弱いルベを工房に入れるなんて馬鹿者!」と怒られてしまいそうだが、それよりもこの才能を潰してはならない、そんな事を考えながら、少しだけ乾いた笑い声を上げた。




