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第三話 産声

「ほれ、腕が出来たぞ?」

 パトロックが工房に籠って、碌に食事もとらずにいる状態になってから一週間半、パトロックは体の雛形を完成させようとしていた、そこに骨が入って、そこに内臓が入って、という人体構造を、医者に持ち帰らされた医学解剖書を元に作り上げていた、後はテトラマ体の膜を破いて、内臓を填め込めば「肉体」が出来上がるという所だった、ただ、どうしても鉱石である事は隠せそうになかった、色とりどりな鉱石からなる賢者の石、それを元に造った人工の肉体なのだから、それは当たり前と言えば当たり前だが、鉱石の紋様がそのまま残ってしまっている体、を与えて、この子は本当に幸せなのだろうか、と一瞬パトロックは踏みとどまる。

 この子供は、この赤ん坊は生まれたがっている、テトラマ体から脱して肉体を得たいと思っている、それはテレパスでよくわかっている、ただ、肉体を与えたとしてこのカラフルとも言えてしまう鉱石の体、と言うのは、生きていくうえでディスアドバンテージになってしまわないか、将来的にこの子が死んでしまいたくなるきっかけになってしまうのではないだろうか、今は肉体を欲していても、将来として肉体がなければ良かった、となってしまわないだろうか、そんな不安が頭の中をよぎった、そんな感覚なのだろう。

「本当に、良いのか?」

 テレパスで確認する、カラフルな鉱石でできた雛型を眺めながら、生まれ来る子に確認をする、念押しをする、将来において、それが悲しい結末を産んでしまわない様に、念入に。

「良いんだな?人間と同じ形をしていても、人間になれるかどうかはわからないんだぞ?」

 人間のカタチをしていても、人間になれるかどうかはわからない、化け物として扱われてしまうかもしれない、もしかしたら、パトロックは門外漢だが「魔道具」と呼ばれる類の道具として扱われてしまうかもしれない、それを理解したうえで、この子はその雛形に内臓をいれるのか、それともこのまま死んでいくのか、それを選ばせなければならな伊、その何と酷な話か。

 ただ、この赤子は、生まれ来る子は、それでも生きたいと願っている、パトロックはテレパスを通じてそう受け取った、パトロックの願望がにじみ出ただけだったのかもしれない、そして、この雛型に入れたからといって、肉体を必ず得られるとは限らない、その場で死んでしまうかもしれない、生きていけるのかどうか、成長できるかどうかの保証もない、それでも良い、と。

「……。わかった、填め込むぞ。痛かったら言えよ?」

 そのテレパスを感じ取ったパトロックは、いよいよテトラマ体である袋、膜にメスを入れて、中の羊水を排出させる、生々しい匂い、臓器が空気にさらされる、どくんド君と脈打っている臓器や、髪の毛や歯、骨や筋繊維と言った諸々が、袋の中から摘出される。

「……。」

 パトロックは、その中から必要なパーツを優しく取って、肉体足り得る賢者の石に填め込んでいく、筋繊維などは填め込まなくても問題はないと判断し、内臓にしぼってパーツを填め込んでいく。

「心臓か……。」

 最後の一つ、心臓がドクンドクンと鳴動しているのを確認すると、それを填め込んで、上から蓋をする様に賢者の石をかぶせて、蒸着させる。

「……。だめ、か……?」

 何とか赤子のカタチを成したそれは、心臓の脈動こそすれど、動く気配を見せない。

 そもそもがちぐはぐな色の鉱石を赤子のカタチに仕立て上げただけ、と言われてもおかしくはないだろう。

「ちくしょう……、ちくしょう……!」

 パトロックは大粒の涙をこぼす、基本的に温度の高い工房の中で、汗すらかいてすぐに蒸発してしまう高温な工房の中で、パトロックは涙を流す。

 赤子の体を抱きしめて、ちぐはぐな色合いの鉱石の塊を抱きしめて、涙を流し続ける。

 ぽつり。

 赤子の体に、パトロックの涙が一粒だけ落ちた。

「……?」

 輝き、パトロックは何が起こっているのか分からなかった、ただ、賢者の石が発光を始めて、眩い光を放ち、パトロックは目をつむる他無かった、その程度には光の密度が高い輝きを、赤子の体は放った。

 おぎゃあ!おぎゃあ!

「……。……!」

 産声、赤子が一週間と三日前に上げるはずだった、産声が聞こえた。

 それはパトロックだけに聞こえていたテレパスではなかった、確かに、脳ではなく耳がそれを聞いていた。

「これ、は……?」

 赤子に目を落とすと、継ぎ目、腕や足の関節に継ぎ目こそあれど、人間の肌の色をした赤子を、パトロックは抱いていた。

 小さな小さな未熟児、二千グラム程度の未熟児、しかし、先程の様な色とりどりな賢者の石の色合いではなく、人間として遜色のない肌の色をした赤子、をパトロックは抱いていた、その赤子は、まるで今産まれたかの様に、産声を上げていた。


「ルチル!」

「あなた?」

「やったぞ!この子は!ちゃんと、ちゃんと……!」

「もしかして……、この子が……?」

 家事仕事をしていたルチルの所に、パトロックが怒鳴り声の様な声を上げながら駆け寄った。

 ルチルは、赤子の声に気づいた、赤子が泣いている、パトロックが、小さな小さな赤子を抱いている、それだけで、何が起こったのか、奇跡のような何かが起こった事、に気づいた。

「あなた……、あぁ、私の赤ちゃん……!」

 パトロックから赤子を受け取ったルチルは、大粒の涙をこぼしながら、赤子の産声を聞いた、こころに刻みつけていた、聞けないと思っていた、この子は産まれてはいけなかった子なのだ、と思っていたルチルは、我が子を抱きしめて泣いていた。

「ルチル、この子に名前をつけてやってくれ。この子は、祝福されるべき子だ。」

「えぇ……、えぇ……!」

 泣きじゃくるルチルを見ていて、パトロックも涙を流している、クォーツは今はいない、友達と遊んでくると言って出かけていた、ただ、帰ってきたらびっくりするのだろう。

「……。ルベライト、この子の名前はルベライト。」

「ルベライト、か。良い名前だ、きっと、この子にふさわしい祝福だ。」

 その赤子の名はルベライト、ルビーの様な鉱石の子、人間のような人間、ルベライト・セレン・カイルは、産声を上げた。

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