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第二十一話 アルニードに戻ってきて

「ふぅ……。」

 何とか歩いて転移処まで戻ってきたパトロックは、アルニードの転移処の店主に言われた様に、魔力を籠めてアルニードへの転移をしようとする。

 道中何かに襲われなくてよかった、取り合えずの所、転移に足る魔力は残っている、そもそもパトロックは魔力を有しているが発散する手段を持たない、煙草を吸うにしてもライターで吸うタイプなパトロックは、「魔法に対する知識」は持っていたが、行使した事はなかった、神官が使う回復魔法は、神に仕える神官しか発動が出来ないと言われているが、基本的に人間は魔力を持って産まれる、パトロックの家系であるカイル家が基本的に火属性の魔力を持って産まれる様に、魔力は基本的に誰でも持ち合わせているものだ。

 ただ、それを発露する手段、所謂魔法に関しては天性の才能だったり、後天的な習得をしなければ使う事は出来ない、ごく稀に産まれた時から魔法を発露する人間、も存在するらしい、というよりはルベライトがテレパスと言う魔法に似た何かを使っていたのだから、それに関しては「生まれもって魔法を扱える存在」はいるのだろうが、基本的には賢人機関の末端が開催している「学校」において、発露の方法を習う、と言うのがこの世界における魔法体系だ。

 「発露」と「所持」の違いについては、パトロックも習った事があった、人間がその魂に持っていて、発露の時を待っているのが魔力で、実際にそれを習熟して、魂に籠っている魔力を放つのが魔法だ、と誰かが言っていた覚えがある、確かあれは、パトロックが勇者の武器を作り始めてすぐ、勇者の供回りをする事になった、老齢の魔法使いの言葉だった、とパトロックはうっすらとした記憶で覚えていた。

「良し……。もって、くれよ……?」

 出血は幾分か止まっている、止血剤が血液に回って、出血部をある程度凝固させている、だから失血死する事はないはずだ、ただ、パトロックが色々な事に造詣が深いと言っても、それは知識ベースでの話、所謂座学での話だ、実戦経験から覚えた話でもなければ、実際に経験してきた訳でもない。

 転移処のポッドに乗って、魔力を練って転移を発動する、何とかなる、何とかなってくれと祈りながら、それを発動した。

 視界がぐにゃりと曲がる、眩暈がしている様な、麻薬を使用して幻覚を見ている様な、そんな平衡感覚の欠如に陥る。

 ポッドが光った、アルニードに向かってパトロックは魔力分子に分解され、そして再構築されるべく、飛んでいった。


「……。間に合った、のか……?」

「おまんか、メルンから転移の受信が来たもんじゃから、誰か勇者か何かが来たのかと思うたわ。……。おまん、左腕をどうした?」

「……。人間みたいな、何かに毒を喰らった、だから切った。じゃないと、俺は生き延びれなかった、そうじゃないかって。」

「……。とにかく、今は病院に行くが良いて、救急車両を用意しよう。」

 アルニードの転移処、に戻ってきたと理解したパトロックは、アルニードの転移処の店主に迎えられて、そして救急車両の世話になる事になった。

 パトロックは気づいていなかった、というよりは「自分の顔を鏡を使わず水面にも映さずに見ろ」という方がおかしいのだろうが、パトロックの顔は血の気が引いていて、今にも失血死しそうな程、青白くなっていた、パトロックが日焼けをしているタイプな為に、一般の人間だったら見逃してしまいそうだが、転移処の店主の老人は、幾人もの勇者を見届けてきた、中には命からがらメルンから帰って来た者もいた、そんな勇者達と今のパトロックは似ている、だからこそ、迷わずに救急車両を手配した。

「俺は……、生き延びた、のか……。」

「……。ほれ、応急処置をしてやろう、おまんが死んだら、目覚めが悪いからのぅ、毒を喰らった、のじゃな?毒を入れてきたは、何だったかのぅ?」

「人間、見た目は、人間だった……。ただ、闇に属する、者だった……。俺は、あんな人間を、見た事がない……。」

 処置台にフラフラと歩きながら、パトロックは毒を注入してきた存在の事を、転移処の店主は知っているのだろう科、そんな事を再び朦朧としてきた頭の中で考える、安心してしまったのだろう、体に力が入らない、ただ、大男であるパトロックが今ここで倒れたら、転移処の店主の様な老人では運べないだろう、そうやって意識を持たせていた、何とかではあるが、朦朧している意識の中で、せめて処置台まで歩かなければ、と足をゆっくりと進めている。

「人間、闇に与する者、かのぅ。人語を話しておらんかったか?そやつは。」

「カタコト、だったけど、話してたな……。」

「なら、闇に与する者じゃな。人間でありながら魔王に与した者、メルンの裏切者の成れの果て、と儂らの中では呼ばれている者じゃ。ただ、奴らは護符を持っていれば近寄ってこれんはずじゃったがのぅ、おまん、護符を持っていかんかったのか?」

「護符……?結界石、じゃなくてか……?」

「なんと、メルンに行くに護符をもっとらんかったとはな。これは喰われていたとて仕方がないじゃろう、腕一本で済んだのは運が良かった、ととらえるが良いじゃろう。」

 パトロックは、そろそろ意識を失ってしまいそうだ、何故か毒の痛みが無いと言っても、解毒が出来ているのかどうかは分かっていない、解毒できていなかった場合、万が一のことがあればここから死ぬ、という事もあるのかもしれない、そんな事を考えながら「闇に与する者」と呼ばれているらしいあの人間のような何か、は人間だった事を知る、パトロックは疑問を解消しなければ動けないタイプだ、次にメルンに赴く際には、その護符を入手する必要もあるだろう、そんな事を考えながら、そろそろいよいよもって意識が途切れ途切れになってきた、と足をもつれさせている。

「ここに寝転がるがよい、解毒も応急手当なら可能じゃからの。」

「たす……、かる……。」

 処置台まで何とか辿り着いたパトロックは、倒れる様にそこに寝転がり、意識を飛ばした。

「やれやれ……。カイル家と言うのは、無謀者の集まりじゃのぅ、まったくもって、度し難い。」

 転移処の店主は、かつてはパトロックの祖父、トパーズとは悪友だった、そんな記憶を持っていた。

 転移処の店主として、ローランからここアルニードに引っ越してきてからは、トパーズが子供をなした、その子供の名前がトルマリンだ、という電話を寄こしてきたきり、眼っきりと会わなくなってしまった、お互いに忙しくて、碌に連絡も取らなくなってしまった、ただ、パトロックを見ていると、そんなトパーズの事を思い出す、と。

 トパーズも知識に造詣が深く、そして探求心が強い類だった、それが受け継がれているのであれば、パトロックがここに来た事、も必然的な事だといえるだろう、店主は解毒薬の注射を持ってきて「闇に与する者」の毒を解毒するそれを、パトロックの右腕の動脈に打ち込んで、失ってしまったまだ出血をしている、ぞんざいな止血作業をされていた左腕を包帯と三角巾を使って止血していく、救急車両が来るまでもう少しかかる、それまでに死んでくれるなよ、と考えながら、てきぱきとそれをこなしていく、それも転移処の店主として、出来なければならない事柄の一つだった、知識と経験としてやってきた事、と言うのが、パトロックにとって幸運だったのだろう。

 止血を終えて、解毒剤を注入し終えて、救急車両のサイレンが聞こえてくるのを待つ、それまでに息絶えてしまったら、パトロックの命運はそこまで、そこで生き延びるのだとしたら、パトロックの運命はまだ続くのだろう、そんな事を考えながら、救急車両を待っていた。

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