第十八話 切断
「ここが転移処か……。」
賢者の石を何個か採取しながら、転移処を探していたパトロックは、日が落ちたであろう時間帯、懐中電灯の明かりが無いと何も見えない中、転移処を発見する。
ここがきちんと使えるのであればあと一か月と少し、使えないのであればあと数日、滞在時間が変わってくる、大事な要素だ。
「使える、か……?」
アルニードで操作方法は聞いてきていた、だから使おうと思えば使えるはずだ、魔力不足なのか装置が動いていない部分がある、それに関しては「メルンに飛べない分」の魔力不足だろう、つまりは受け入れる為の受信装置が壊れている、送信装置である転移自体は出来る、そうパトロックは判断した。
「なら……。」
念の為一度使ってからもう一度来る、という事も考えはしたが、しかしそれでは時間がかかりすぎてしまう、クォーツの事を信頼していない訳ではなかったが、あまり長く家を空けてしまうのは問題だろう、と。
クォーツが上手くやってくれていれば、今頃はブロンズランスを納品している頃だろう、クォーツは不良青年ではあったが、鍛冶職人としては真面目な気質だった、それをパトロックは信じていた、ただ、それと当代である自分が長い間家を空けてしまうのは、話が変わってくるだろう、それを許してくれる程、この世界は甘くない、パトロックはそう考えを纏めて、一旦転移処を使う、という選択肢を取らなかった。
「良し、行くか。」
メルンのどこかに、大図書館と呼ばれる書物庫がある、と賢人機関の本には書かれていた、そこには「賢者の石の製造方法が書かれた本がある」、そう書かれていた。
それが本当なのであれば、それを探すのがパトロックにとっての筋の通し方だ、パトロックは人間の魂の結晶体である賢者の石から、ルベライトの肉体を生み出した、賢人機関が「奇跡の保存を」と唱える程度には、奇跡の中でも重要性の高い奇跡を起こした、それがルベライトとパトロックだ。
だからパトロックは知る権利と義務があると考えた、自分には「賢者の石の製造法」を知る権利と、知らなければならない義務がある、と。
図書館を探して、地図とにらみ合いをしながら、廃墟と化して久しいメルンを探索する、今は疲れていない、モンスターが出てきている訳でもない、だから結界石を使って休憩する理由はない、そう考えてパトロックは転移処を出た。
「……?」
地図を見ながら歩いていたパトロックは、何か気配を感じて前を向いた、人間かもしれない、モンスターかもしれない、そんな気配を感じた、気がした。
「誰か、いるのか?」
暗闇に向かって語り掛けるパトロックは、ここで後ろを向いてしまったらいけない、そう直感が警鐘を鳴らしている、と感じた。
懐中電灯を正面に向けて、その存在を確かめようとした、その時だった。
「っ……!?」
痛み、左腕に何か鋭い痛みを感じた、噛まれた、と気づくのに、一瞬だが意識が追い付かなかった。
「げへ……、ニンゲン、ニンゲン!」
「お前、モンスターか……?」
「ニンゲン!ドク!オレサマノ、ドク!」
「ドク……、毒か!?」
片言の言葉を喋っている、明確に「闇の側に属する人間の形をした何か」に噛みつかれた、その人間がいう言葉に従うのであれば、何某かの毒を噛んだ際に注入された、それが正しい判断だろう。
そして、パトロックには毒を治す手段はない、解毒剤があるわけでも、解毒魔法を使える訳でもない。
「っ……!」
強烈な痛みを左腕から感じる、パトロックの本能が告げている、これは全身に回った瞬間、死に至る毒だと、痛みの中で、思考が鈍っていく様な、そして思考が鋭くなっていく様な、そんな感覚の中で、致死毒の中で痛みを伴う毒、の止め方について、何か本で読んだ事が無かったか、こういった場合にどういう選択肢を取るべきか、それが頭の中を駆け巡る。
「……、やるしか……、ないか……!」
それは一種の賭け、もう毒が全身に回り始めていたら意味がない、そして、それをした所で失血死をしたら意味がない、ただ、やって死ぬかやらずに死ぬか、であれば、それをして生き残る可能性があるのなら、それをしなければここで死ぬだけだ。
「……!」
噛んできた人間は、パトロックが死ぬのを待っているのだろうか、それとも違う意図があるのだろうか、少し離れた場所でパトロックを見ていた、それに注力できる程、パトロックは痛みに対して耐性がなかった。
毒が回らない様に、バッグの中からロープを出して左腕に巻きつけて、舌を嚙まない様に、首に巻いていたタオルを噛んで、脂汗をかきながら、剣を右手で掴んで、構えた。
「ふー……、ふー……!」
自分で自分を傷つけるなど馬鹿々々しい事だ、自傷行為と言うのは、愚か者がする事だ、パトロックは父トルマリンから、そう教わっていた。
刹那、ルチルの顔が、クォーツの顔が、そしてルベライトの顔が、脳裏によぎる。
迷っている場合ではない、迷っていたら死ぬだけだ、痛みを伴う致死性の毒で、死んでしまうだけだ。
ならば、可能性に賭けるしかない、可能性が一割でも残っているのなら、パトロックは生きて帰らなければならない理由がある、まだ死ねない理由がある、こんな場所で死んでしまって、全てを投げうつ事は出来ない理由がある。
「……!」
バチバチと火花が散る様な、そんな感覚、パトロックは、己の左肘に向かって、剣を降り下ろした。
渾身の一撃、一撃で切断しなければ、いたずらに痛みが増えるだけ、それをわかっていたパトロックは、躊躇わなかった。
「っ……!!!」
痛み、気絶してしまいそうなほどの痛み、ただ、今気絶してしまったら、目の前の人間のような何かに別の場所に毒を注入されて死ぬだけだろう。
「くれてやる……!」
タオルを離して、切断した左腕を投げる、人間のような何かは、それを口でキャッチして、そして姿を消した。
人間だったのか、それともモンスターだったのか、人間の残滓だったのか、それに関しては考察の余地を出ないが、今はそれどころではない。
カランカラン、と剣を捨てて、左腕を縛っていたロープを必死になって口で引っ張って、右手を使ってタオルで止血していく、パトロックが持っていた止血に関する知識を総動員して、一刻も早く止血をして生き延びる確率を増やさなければ、それだけを頭の中において、痛みを忘れる為に痛みに意識を集中しない様にして、パトロックは止血を済ませる。
「はぁ……、はぁ……、はぁ……。」
何とか止血出来たはずだ、パトロックの意識はそこで途切れた。
痛みに耐えきれずに失神した、パトロックは、止血して生き残る可能性、を一瞬だけ考えて、ポケットの中に入れてあった結界石を何とか発動して、意識を手放した。




