第十七話 不良仲間とクォーツ
「お、クォーツ弟じゃん!クォーツは?最近電話しても出ねぇし、遊びにもこねぇし、詰まんねぇんだよなぁ!」
「にいちゃ……、アニキは今、オヤジの代わりを……。」
「オヤジの代わり?ってこたぁあの頑固おやじ、とうとうくたばったかぁ?」
「……。違う……。父さんは、きっと……。」
「ま、何でもいいわ、あいつ付き合い悪くなったんなら、詰まんねぇし切るだけだしなぁ。じゃぁなぁクォーツ弟!まぁ、せいぜい鍛冶仕事とやらに精を出してくれや!」
ルベライトが運動がてら近所を歩いていると、クォーツの不良仲間に絡まれる、クォーツの悪い部分を煮詰めたような仲間は、あっさりと真面目にパトロックの跡を継ごうとしているクォーツを切った、悲しい事実だが、そういう関係値だったのだろう。
「……。父さん……。」
パトロックが失踪してから一か月、今はクォーツは練習用のブロンズソードを作っている、それ位完璧に仕上げなければ、本番の勇者の武器を鍛造出来ないから、といって、実戦で通用しそうな程の切れ味のブロンズソードを作ろうとしていた。
「兄ちゃん……、兄ちゃんの、友達にあったよ……。」
「ん、そか。あいつらなんか言ってたか?詰まんねぇとか言ってたか?」
「……。うん、詰まんないから、切るだけだって。」
「……。昔の俺だったら、ショックだったんだろうな。パトさんに真剣に教えてもらってる事、いつも馬鹿にされててさ。世界を守る為に必要だ、って言っても、あいつらからしたら対岸の火事って言うのか?関係ないみたいな感じでよ、俺達には関係ねぇから楽しくやろうぜ!って言葉が、ちょっと心地よかったんだ。でも、今は違う、パトさんがいなくなっちまった以上、俺が何とかするしかない、ルベに任せて逃げるなんていう事を、俺は出来ない、パトさんがどうしていなくなっちまったのか、なんで俺達に何も言わずに行っちまったのか、それはわからねぇ。でも、俺は継がなきゃならない、いつの日か、ルベが一人前になって、俺と一緒に槌を振るってくれる様になるまで、カイル家を守らなきゃならない。ルチさんが望んだから、パトさんにそうしろって言われたから、じゃない、俺自身が、そうしなきゃならないと思ったからだ。」
「兄ちゃん……。」
ルベライトが運動から戻って、クォーツが丁度水分を取りにリビングに来ていたのを見て、話すかどうかを悩んでから、クォーツの友達に言われた事、をクォーツに告げた。
クォーツは、いつかはそうなる運命だった、と認識していた、非行少年として不良仲間とやいのやいのするのは嫌いではなかったが、結果としてパトロックの跡を継がなければならない事はわかっていた、そこまでの関係値が心地良かったので有って、生涯を共にする仲間ではなかったのだ、と。
ルベライトは、自分が跡を継げる立場だったら、クォーツはそんな事を諦めなくて良かったのかもしれない、不良青年として、楽しく生きられた未来があったのかもしれない、と目を潤ませる、ただ、クォーツからしたら「最初から決まっていた事」であって、それが今来ただけだ、という話の様子だ。
「ルベ、だいぶ筋肉ついてきたな。そろそろ槌を振るって見るか?って言っても、いきなり本番っていう訳にもいかないから、最初は鉄を打つのが良いか。」
「良いのかな?父さんには、やるなって怒られそうだけど……。」
「パトさんは過保護だからな、ルベの生まれた時のことを考えると、それもわからなくはないけどさ、もうルベも十二歳になるんだ、独りで歩ける、散歩ならもうスロープもいらない、だから大丈夫だ、きっとな。」
「……。俺、やってみる。父さんが帰って来た時、怒られたとしても……。でも、兄ちゃんだけに全部させるの、俺は嫌だ。」
ルベライトがスロープを必要としなくなったのは、つい四か月ほど前の話、今では体力をつける為に外を歩いている、パトロックには反対されていたが、ルチルとクォーツが「いつまでもパトロックが面倒を見られるわけでもないんだから」と説得して、工房に入る事は基本的に禁止していたが、薪を運ぶ程度、の手伝いは許していた、クォーツはその事を昔は「ずるい」と良く思っていた、と思い出す、クォーツが七歳、ルベライトが二歳の頃、クォーツはもうパトロックの弟子として活動を開始していた、だから、甘やかされているルベライトが少し羨ましく、憎たらしいと。
ただ、それも今では理由を知っている、ルベライトがテトラマ体として産まれた事も、鉱石の体を得て活動をしていた事も、所謂未熟児のような状態から成長していた為に、筋力量が少なく、車いすでの生活を余儀なくされていた事、それらに対して納得していた、だからこそ、現在のルベライトに出来る事をして欲しい、させてあげたい、兄として、弟に嫉妬の目を向けているのはみっともない、と切り替えていた、それが十三歳ごろの事、現在十六歳のクォーツとしては、早熟な類だったのだろう8。
「じゃあ、これ持ってみ。」
「これ?父さんのと違うね。」
「そうだな、トルマリンじいさんが使ってた奴らしい。俺のはその先代のトパーズおおじいさんの形見だ。」
「そうなんだ、じゃあ、皆形見を使ってるの?」
「そういう事になるかな、パトさんはトパーズじいさんの先代から受け継いだ槌を使ってる、って言う話だったな。」
トルマリン、祖父には会った事が無かったルベライトとクォーツだったが、トルマリンの話はよく聞いていた、登山家で、登山中にモンスターに襲われて転落死してしまったのだと、パトロックが悲し気な顔をしていたのを覚えている、そのトルマリンの形見の槌は、ルベライトには少し重たいかもしれない、とクォーツは考えていたが、しかしやるといった以上はやってもらわないと困る、と考えを切り替えて、トルマリンの使っていた槌をルベライトに渡す。
「……。そんなに重たくないんだね、槌って。もっと重たいんだと思ってた、父さんがずっと持つなって言ってたから、でも……。トルマリンおじいちゃんの槌っていう事は、父さんからしたら大切な形見だもんね、そう簡単には触れって……。」
「槌を継ぐっていう事は、想いを継ぐっていう事だ、それがカイル家の教訓だからな。千代続いてきたこの家の歴史の中で、どれだけの継承があったのか、って言うのも興味はあるな。ただ、今はそう言ってる場合じゃない、パトさんがいない以上、俺達が何とかするしかないんだ。……。俺達じゃ力不足かも知れない、そうだろうさ。パトさんと同じレベルになるには、もっともっと修行をしなきゃならない、それはルベにとっても、俺にとっても、厳しい道なんだろうさ。でもな、ルベ。パトさんが俺達を置いて行ったのは、きっと俺達ならやってのけるって、そう信じてくれたからだと思わないか?……。俺に何かあったら、千代続いたカイル家の歴史を終わらせる覚悟がある、そう言ってたパトさんが、それをしないで出ていったって事は、俺達を信じてくれたんじゃないか、ってさ。」
「兄ちゃん……。うん、俺も頑張る、兄ちゃんと一緒に、父さんの跡を継げる様に。」
「そうだ、その意気だ。さ、俺も片手間になっちまうけど、パトさんに習った全てをルベに教える、今までみたいに甘くは出来ないぞ?良いな?」
「……。うん。」
兄弟は、世界を守る為に武器を作る、その大変さを理解していた、クォーツは己独りではまだ出来ないだろうと、ルベライトは、これから覚えなければならない事が沢山あるだろう、と。
ただ、それでも絆を信じていた、二人は、家族は、絆を信じていた。
神に祈っていたルチルは、クォーツとルベライトの会話を少し聞いて、パトロックに安心して探し物をしていらっしゃいと願った、ただ、無事で帰ってこれます様に、また家族が、どたばたとしたあの喧騒が、きっと帰ってきます様に、と。




