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第十五話 ルチル

「まったく、モンスターってのは悍ましいな。」

 山岳地帯を抜けて、魔王の居城に少しだけ近づいた、滅んでしまった都市にやってきていたパトロック、パトロックのお目当ての賢者の石は、何処にあるのだろうか、何処から先にあって、何処まで自分がいけるのだろうか、そんな事を考える。

 山岳地帯ならまだ、木の実を食べたり動物を狩ったりして、という事が出来たのかもしれないが、ここは滅んだ都市、魔王がその勢力を増すにあたって、一番最初に滅んだと言われている、都市の残骸だ。

 ここに人間はいないだろう、ここに生物は居られないだろう、勇者達にとっては、一つの通過点に過ぎないであろうこの都市メルンは、魔王が現れた数万前、一番の前線区域して、城塞都市と言われていた、美しい都市だった、と歴史には記されていた、ただ、その面影もなくなって久しい、城塞都市と言われていた所以である城塞は崩れ落ちて、残骸であるこの都市は残骸にしつくされた、都市が滅んだ時に、全ての住人は殺されてしまったのだとか、そんな話だった。

 そんな場所に用事がある人間がいるとしたら、魔王の居城に向かう勇者か、余程物好きな研究者科、それとも賢者の石を採取する事を許されている一族か、程度だろう、人間の気配はしない、人間がいる痕跡がない、生ける者の気配、と言うのがしないこの都市は、曇天の重苦しい空気に包まれていて、歴史書によると「魔王に滅ぼされてから一度も日が差していない」んだとか、そんな話だった、パトロックがかつてテレビで見た、異世界における「天気予報」という、雲の配置や「気象衛星」と呼ばれる、宇宙に飛ばした何かで天気を予測する、という事が出来る程に、この世界は科学的に発展しているわけではない、ただ、その分魔法文明が発達していて、テレビは賢人機関が許した範囲では異世界の事を報道していたり、衛星こそないものの、電波塔がそこいらに立っていて、全国に放送をしている、その放送の中でも、この国メルンは一度も天気がいい日が無かった、観測を始めて数十年数百年が経った、という話だが、その中で曇天か雨かどちらかの天気にしかならない、そんな場所だと。

 そんな滅んだ都市の残骸であるメルンに、パトロックは何の用事があって来たのか、と問われると、どうやらまだ機能が残っている転移処があるのだ、という「噂」を聞いていた、他の場所からメルンに転移する事はもう出来ないが、メルンから転移処を使ってアルニードに戻る事は出来る、それをかつての勇者から聞いた事があった、それが十年前の話、実際にその勇者は魔王に敗走して、命からがらメルンまで戻ってきて、そしてその転移処からアルニードに戻って、そしてローランに戻ってきた、という話だったはずだ、とパトロックは覚えていた、だから、万が一の事を考えて、メルンの転移処の場所を探しに来ていた。

 食料は後一週間分も持っていたらいい方だ、万が一その転移処が見つからなかったり、壊れて使えなかった場合は、自力で帰らなければならない、そうなった場合は「あと一週間」が限度だ。

 だから、あと一週間で賢者の石の在り方を見つけられなければ、何も収穫がなく帰る事になる、転移処が起動していた場合あと一か月と一週間、どちらにしろ、あまり時間は残されていないだろう。

「……、入るか。」

 澱んだ空気、怨嗟の声が聞こえてきそうなメルンの空気、滅ぼされて数千年が経ったとと言う、しかし怨讐の残っているとされている都市の残骸、そこにパトロックは踏み行っていった。


「あなた……。」

 パトロックが出ていってから三週間と少し、ルチルは毎日祈りを捧げていた、普段は不信仰な類と言うべきか、「勇者の末裔として虐げられてきた」人種であるルチルは、神を信じている方ではなかった、勇者の末裔として、千年ほど前に一度魔王を倒した勇者の一族の末裔として、「魔王を完全消滅させられなかった汚名」を着せられ続けてきた一族であるルチルは、神の不証明に立っている側の人間だった。

 そんなルチルが、神に祈っている、パトロックの無事を、何があったのだとしても、パトロックが無事に帰ってきてくれる事を、神に祈っていた。

 ルチルは特別な力を持っているわけでない、回復魔法が使える神官でなければ、攻撃的な魔法を扱う魔法使いでもなければ、結界術に長けている結界師でもない。

 勇者の末裔、というだけで、別段強い何かをもって生まれたわけでもない、むしろ、勇者の末裔として虐げられて生きてきた分、強かではあるが体は少し虚弱な類だった。

 そんなルチルが神に祈りを捧げている、という光景は異様だった、パトロックが信心深いタイプで、食事と朝晩に祈りを捧げているのに対して、ルチルは合わせる形として食事の際に祈りを捧げているだけだった、「先祖に勇者がいる」だけで虐げられ続けてきた一族の末裔として、ぽとロックと結婚した頃にはそれを言う人間はいなくなっていた、ルチルの一族はまだ「虐げられている」が、ルチル本人は「勇者の鍛冶職人の末裔を産んだ」という点において、迫害を逃れる様になっていた。

 ただ、それが理由でパトロックと結婚したわけではない、幼少の折、郊外にあるこの邸宅の近くの公園で独り遊んでいた時に、「勇者の血が混じった何をするかわからない奴」として虐められていた時に、二個年上だったパトロックがそれを助けてくれた、本当に小さい頃の話、まだパトロックがカイル家を継ぐだとか、そう言った話になってくる前の話だ。

 ルチルは、幼少からずっと虐げられてきた自分をどうして助けたの科?自分は勇者の血が残っている危険分子と言われているのに、とパトロックに問うた、パトロックの答えは「お前が勇者の末裔だろうと何だろうと、いじめる奴はだめだ、勇者って言うのは、俺達一族にとっては大切な仲間だから、って言うのもあるけどな。」だった。

 その時、幼心にルチルは恋をした、恋をして、パトロックによく会いに行く様になった、パトロックはパトロックで「勇者の武器を鍛造する一族の末裔」として遠巻きにされていたのだが、二人は共通点を見つけてすぐに仲良くなった、それがパトロックが七歳、ルチルが五歳の頃、二十何年か、そろそろ三十年前の話だ。

 仲睦まじい夫婦としても有名だったパトロックとルチルは、偶然幼少の頃に出会い、そしてそのまま付き合い、パトロックの父トルマリンが亡くなる寸前に結婚をして、そしてクォーツを授かるに至った、それに関してはルチルも納得している、「勇者の為の武器を鍛造し続ける定めにある一族」に嫁入りした事、に関しては分かっている、地水火風の属性の中で、勇者の特権と呼ばれている「光」に属する一族だったルチルと、「火属性」に位置するパトロックは相性が良かった、これが魔王の側に存在する「闇」に属する人間だった場合、こうは上手くはいかなかっただろう、それ位には、この世界においては属性の愛称と言うのは大切だった。

「あなた……。」

 属性による性格の推移、からするに、火属性のパトロックは情熱的で激情型、光に属するルチルは根っからの正義漢、その二人から産まれたクォーツとルベライトが火属性に産まれてきてくれてよかった、とルチルはずっと思っていた、光属性に生まれてしまったら、否応なく勇者の卵と言う位置づけにされてしまう、それ位には光属性は特異な属性だった。

 もしかしたら、パトロックにはその光が秘められていたのかもしれない、ルベライトの体を生み出した時点で、何某かの奇跡を起こした、起こしてしまったパトロックは、後天的に光属性になり、そしてその正義感で今家を出ていってしまったのかもしれない、と。

「神よ、どうか……。」

 パトロックに加護を、それだけがルチルの祈りだった、それだけだった、何かを見つけてほしい訳ではない、ただ、無事でいてほしい、無事帰ってきてほしい、その為の加護を、どうか、と。

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