第十四話 クォーツ
「パトさん、どうしちまったんだよ……。」
パトロックが家を出て一週間弱、クォーツはパトロックの代理として武器を鍛造していたが、まだまだ半人前だと自認していた為、焦っていた。
現在勇者はアルドにいるはずで、今は勇者を選別する時期ではない、ということ自体は知っていた、ただ、それでも勇者の卵である戦士達に武器を鍛造し続けなければならない、それをしていい権限があるのは自分達の一族だけだ、とクォーツは聞いていた為、半人前だからと手を止める訳にはいかなかったのだろう。
「権限があるのは」文字通りカイル家の人間だけだ、あとは銃を専門に扱っているガンスミスの家系があり、その家系とカイル家、の二つの家系が、勇者の武器を生み出している、それが現状だ。
だから、手を止めるわけにはいかない、パトロックも言っていた、いつの日かは半人前では居られなくなる時期が来る、いつの日か己を一人前と認識しなければやっていけなくなる日が来る、と。
「兄ちゃん、薪持ってきたよ。」
「ありがとな、ルベ。」
ルベライトが薪を持ってきて、それを炉にくべて金属を熱していく、鉱石を主だった主原料として使っているパトロック達だったが、時折金属を使った武器も鍛造はしていた、そう言った注文が勇者の選別後に勇者を育てる、所謂「育成者」から依頼される事があったからだ。
今回育成者から依頼されていたのは「金属製の槍」であり、それを鍛造する為の雛型をクォーツは倉庫から取り出してきて、溶かした金属、銅を流し込んでいく。
「ブロンズランス」と呼ばれるそれは、育成者が未来の勇者へと技術を教える際に最初に渡す、「勇者の卵」に向けた武器だ、その程度の武器であればカイル家の人間でなくとも作れるには作れるのだが、この国ローランにおいては、基本的にカイル家の人間が造り続けていた、それは武器と勇者の卵との信頼値を上げる為の儀式めいた何かである、とパトロックは言っていて、クォーツもルベライトも教わっていた、将来的に勇者になる為に生きる者達、が武器との親和性を高める為に、同じ武器職人であるカイル家に依頼しているのだ、と。
ブロンズソード、オークの弓、ブロンズランス、革のグローブ、そのあたりが基本的に勇者の武器の雛形になる武器で、その中でカイル家はブロンズソードとブロンズランスを設計する雛型を持っていた、オークの弓と革のグローブ、に関しては勇者というよりは勇者の同行者である魔法使いや神官、結界師が使う事がおおく、時折だが「体術」に特化した勇者が現れる、その際には「グローブ」の武器を作る事もある、とカイル家の歴史書には書かれていた、なんでも拳の部分に鉱石を使用して、強度と攻撃力を高めるのだとか、そう言った話だったとクォーツは記憶していた。
「パトさん……。」
パトロックが失踪した理由、を考えるクォーツは、その理由がルベライトにあるとは一切考えていなかった、何かを知っているかもしれないルチルも何も言っていない、という事は、パトロックは誰にも何も告げずに失踪してしまった事になる。
しかし、クォーツの知る父パトロックは、無責任な人間ではなかった、勇者の鍛冶職人という重大な役割を放棄して、どこかに失踪してしまう様な無責任な人間ではなかった、という事は、よほど重要な何かがあって、パトロックは行方をくらました、そう考えるのが筋だろう。
ルベライトがどう思っているのか、ルチルがどう思っているのか、それに関してはわからない、今の自分はカイル家当主代理、普段のお調子者でヤンキーな一面など見せている場合ではない、一秒でも早くパトロックと同じ高み、鍛冶職人として一人前にならなければならない、そう感じていた。
「……。」
銅を型に流し込んで、そこから武器の切れ味に持っていく為に叩いて、砥いで、を繰り返す、そうする事で靭性と耐久性が上がっていく、それは鉄であろうと銅であろうと変わらない、ブロンズランスだからと言って、手を抜いていい理由にはならない。
クォーツは雑念を払いながら、鍛造に集中する、どうすればパトロックと同じ場所にたどり着けるか、ならば自分には何が足りなくて、何が必要なのか、それを己に問いかけながら、銅を打つ。
「ふー……。」
「おや、クォーツ坊ちゃん!パトロックさんはいないのかい?」
「あぁ、そうだな。パトさんはどっか行っちまった、だから俺が代理って話だ。」
「パトロックさんが何処かに……?そう言えば、転移処の店主が何か言ってたような……。」
「転移処?って事は、外国に……?」
勇者の育成者の老人が、出来上がったブロンズランスを取りに来た、勇者の卵である青年も一緒に居て、この青年が次代の勇者として選抜されるのか、とクォーツは半ば気の毒に感じていた。
年齢としては二十歳にもなっていない、ある意味ではクォーツが十七歳なのに対して、それと同等かひとつふたつ下かの年齢、の青年は、快活な緑色の瞳をしていて、勇者の卵として選ば柄れた事を「誇り」に思っていそうだ、という感触だった。
「君がパトロックさんの息子さん?」
「あぁ、クォーツだ。」
「武器、作ってくれてありがとう!」
随分と純粋な青年だ、そうクォーツが感じる程度には、純朴そうな青年がブロンズランスを庭の鍛錬場で振るって、それをクォーツはつぶさに眺めて、これから先その勇者の卵に作るべき槍、の形を確認する、これに関してはパトロックに言われて何度も見て来たことだ、小さい頃から、勇者の卵が選抜される度にパトロックの傍でそれを見て、どの勇者にどの持ちてのサイズだったり、グリップの素材だったり、そう言った何かが必要なのか、何が必要で何が不必要なのか、それを見極める「観察眼」はパトロック譲りで持っていた。
「そうだ、ルベー!」
「ルベ?」
「弟だ、俺の跡を継いだり、手伝ったりしてもらうかもしれないから、ルベにもあんたが武器を振るってるところを見てもらわないといけないと思ってな。」
「弟君がいるの?」
「ま、そうだな。」
クォーツがルベライトを呼んで、その間に青年と話をする。
育成役の老人は、パトロックの代わりが務まるだけの武器をクォーツが作っているか、を確認していて、集中してブロンズランスを眺めていた。
「兄ちゃん、呼んだ?」
「あぁ、こいつが次の勇者候補らしい。だから、ルベもこいつに何が必要で、何が足りないかを見る眼が無いといけないな。俺に何かがあった場合、万が一だったとしても、ルベに継いでもらわないといけなくなるんだ。だから、観察眼は今のうちに持っておいた方がいい。」
「兄ちゃんが父さんみたいに……。ううん、何でもない。何を見ればいいの?俺、今までは父さんに怒られてたから、そういう事一切触れてないよ?」
「グリップの握り方、武器の振るい方、重心の運び方、そう言う諸々だな。詳しい話はまた今度する。」
ルベライトは、万が一があった場合をクォーツが考えている事に驚いていた、普段はお茶らけていて、不良青年だったクォーツが、ここまで性格を変えて真剣になる、というのが信じられなかったのだろう。
ただ、パトロックが失踪してしまった以上、そうなる可能性はゼロではない、何かがクォーツの身に起こって、何かがあった場合、継げるのはルベライトしかいない、それは理解していた。
だから、クォーツの真剣さに流されて、ではなく、真剣にクォーツの話に耳を傾けていた。




