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第十三話 山間

「やれやれまったく、進まんもんだな。」

 結界石は十個仕入れて、残り八個、二個使って少しだけ進んできた、そんな感覚がパトロックの中にはあった。

 トルマリンが鍛造した片手剣は切れ味がとても良く、引退して十何年経った武器、とは思えない程に強かった、それを巧みに扱って、パトロックは少しずつ歩を進めていた。

 道中何人か人間にも出会ったが、基本的にはパトロックより強い人間しかいない、パトロックが後方支援に特化した人間である、という事を除いても、基本的な戦闘の経験値の違い、を感じていた。

 パトロックは武器を振るったこと自体はある、大概の武器は扱える程度には熟達した知識と経験を持っている、ただ実戦経験は皆無だ、その違いが、この国アルドの、アルニードから出た場所に暮らしている者達との違いだ。

 アルニードの全員がパトロックの家系、つまりカイル家の武器を持っている訳ではない、他にも武器を鍛造する人間がいないわけではない、ただ「勇者の行使に耐えうる武器」を鍛造出来るのがカイル家の人間だけ、という話だ。

 カイル家に生まれた者は、基本的に火属性に属する、その中でも「勇者の武器」を生み出せるだけの力を持っている、と言うのがカイル家の人間達、つまりパトロックの先祖達だ。

 それ以外の人間は、基本的にアルニードで鍛造された武器を使って活動をしている、モンスターを相手する程度であれば、それでも十分な活躍をできるのだろう。

「……。」

 今は山岳沿いを歩いている、身を隠す場所には困らない、と考えたパトロックは、結界石の消費を抑える為に、山岳の岩陰に隠れて食事をしていた。

 食料的には持って二か月、我慢すれば三か月程度は持つだろう、という量の干し肉を仕入れていたが、知らない土地、しかもモンスターが蔓延っている大地で我慢をして、腹が減って力が出ずに倒される、という馬鹿げた話にはなりたくない、とパトロックは考えていた、つまり、行きかえり合わせて二か月、進める期間は一か月と見た方が良いのだろうと。

 一か月でどこまで進めるか、そして賢者の石の在り方に何処まで近づけるか、それはこの国「アルド」の北部にある、とパトロックは半ば確信をしていた、パトロックの勘が囁いている、アルニードの人間の中で、ある特別な一族だけが採取を許されているという賢者の石、その意味を、在り方を、意義を、確かめなければならない、賢者の石と言う鉱石でルベライトの体を作った以上、それを知る権利と義務がパトロックにはある、と。

「山登りなんて、何時ぶりかねぇ。」

 山岳を隠れつつ登りながら、パトロックはかつての事を思い出していた、父トルマリンは山岳の登山が好きで、勇者に武器を作る傍らで、良く山登りをしていた、それに付き合った事もあった、パトロックがカイル家を継いだのが約十六年前、ルチルと付き合っていて、そろそろ結婚でも、と話をしていた頃に、トルマリンが山岳でモンスターに襲われて落下死をしてしまった、という報告を聞いて、慌ててルチルと籍を入れて、子を成した、そして産まれたのがクォーツだ。

 クォーツには悪い事をしたと思っている、というのがパトロックの中にある考えだ、カイル家を継がないという事は、勇者が魔王に立ち向かう手段を失ってしまうのと同義だ、カイル家以外の人間にそれが務まるのか、と問われたら、今現状では務まらない、が正解だ、だからクォーツには、パトロックに万が一が起こった際には、カイル家を継いでもらうか、それとも世界の滅びにつき合わせるか、どちらかになってしまう、根は優しいクォーツの事だ、世界の滅亡などと言う方向を選んだりはしないだろう、つまりはクォーツの未来は「産まれた時から決まっている」決定事項だ、それをパトロックは申し訳ないと感じていた。

 トルマリンもかつて言っていた、パトロックには決められた未来しか用意できなかった、魔王と勇者の戦いが終わってくれさえすれば、カイル家を終わらせても問題はなかったのだが、それには至らなかった、と。

「ふー……。」

 紙巻きたばこを吸いながら、家に遺してきた三人の事を想う。

 パトロックは今、己の我儘で動いている、勇者への武器を作る前に、賢者の石の在り方を知らなければ、と動いている、それ自体は賢人機関の想定内だろう、クォーツが魔王に対抗し得る武器を鍛造出来る直前まで来ている、つまりはパトロックではなくとも問題がない、という所まで来ている、それを分かっていて、書物を渡してきたのだろう。

「……。」

 賢者の石の在り方、人間の魂に似通った鉱石、北の国アルドの北部で採取される、特別な鉱石。

 パトロックが得ていた知識はそれだけだ、ただ、それだけで十分な程度には、パトロックは賢かった。

 ともすれば、賢人機関の末端が務まる程度には賢かったパトロックが、わざわざ現地に行ってその在り方を確認しようとしている意味、それも、賢人機関からすれば想定内の行動なのだろう、とパトロックは考えていた、でなければ、パトロックの数倍数十倍の知識を持っている賢人機関の人間が、嗾ける様な事をするはずがない、と。

「……。」

 ルベライトは、産まれてきてはいけなかった子供なのか、それとも。

 祝福はあっていいはずだ、福音に包まれていいはずだ、そう信じて疑わなかったからこそ、パトロックはルベライトの「体」を作るに至った、純粋な願いだったからこそ、それを成し得た。

 ただ、それは同時に呪いでもあったのだろう、ルベライトが虚弱体質である理由、賢者の石が成長をするにあたって、ルベライトを虚弱体質にした理由は、呪いなのだろう。

 パトロックの祈り、願いを叶えた賢者の石、それが代償を求めたのだとしたら、それはあながち間違いではないだろう。

 ルベライトが現在どうしているか、工房に入ってクォーツの手伝いが出来る程度、に成長している事を、パトロックは知らない、まだスロープが必要で、歩くのに精いっぱいだ、とパトロックは誤認している。

「ルベ……。」

 ルベライトが急速に成長している意味、そしてそもそもが「鉱物と言う無機物で造られたはずの肉体が進化している」理由、それをパトロックは探しに来ていた。

 納得のいく答えが出るのかどうか、それとも結果として何もわからずに戻る事になってしまうのか。

 パトロックには未来は視えない、賢人機関の中には未来視を出来る人間もいる、らしいが、それをパトロックにいちいち教える程、賢人機関はお人よしでも無いだろう。

 ならば探すしかない、己が手で探し出すしかない、賢者の石の在り方、意味を、どうしてそんなものが生み出されるのか、ならばあの医者がそれをパトロックに渡してきた意味は、なんだったのだろうか、と。

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