第十二話 結界石
「ここが、前線だって言われたって、信じるぞ!」
パトロックは、アルドの最南端である前線区域アルニードを出てすぐ、ここが前線区域と言われている所以を知った、長老をはじめとして、アルドの住人達は基本的に戦える、モンスターと戦う術を持っている、自分達ローランの人間がそれをいかに享受していて、その恩恵にあずかっているのか、という事を、パトロックは身をもって実感していた。
と言うのも、モンスター、獣種と呼ばれる四つ足歩行のモンスターから、亜人種と呼ばれる二足歩行のモンスターから、枚挙の暇がない程に、モンスターと戦闘を繰り返して、それを当たり前にこなしているアルドの住人達がいたのだ。
モンスター自体は見た事があった、ブラウン管テレビ、なんでも賢人達の手によって異世界他世界の映像まで見られる、という話だったテレビに、時折クルーがアルドの様子を映していて、それを見てモンスターと言う生態に興味を持ったパトロックは、図書館に行ってはモンスターの生態を調べていた、の前からモンスターを倒す為の武器である自分達が鍛造する勇者の武器がどう使われていて、どういったモンスターを相手にしていて、それを知らずに武器を鍛造するのは危険だ、というカイル家の家訓もあって、パトロックは一般人からすればモンスターに対する知識が豊富な方だった、ただ、それと実際に交戦して倒して、という事をした事はなかった、パトロックはあくまで後方支援が主だった役割であって、前線に立って戦うのは勇者やその供回りの役割だった。
それがどうした事か、賢者の石の在り方を知る為と言って、前線に立っている、しかも先代の鍛冶職人であるトルマリンの武器を使って、それを誰が予想出来たのだろうか。
「こなくそ!」
なかなか進まない道、モンスターの蔓延る大地、というだけあって、人間に会う確率よりもモンスターに会う確率の方が高い、現在勇者は選抜されて、という話は知っていた、その勇者の武器を作ったのがパトロックなのだから、知っていて当然だが、その勇者がどうなったのか、という疑問を抱いてしまう程に、モンスターの勢いは強かった。
まだルチルやクォーツ、ルベライトを連れてこなかっただけ賢明だった、とパトロックは感じていた、もしやするにクォーツは戦力足り得たのかもしれないが、ルベライトが前線で戦えるとは思っていない、ルチルも回復魔法などが使えるわけではない、だから、独りで来て正解だ、と。
まだアルニードからそこまでは慣れていないにもかかわらず、パトロックは消耗して休憩をしていた、休憩用の「結界石」には限りがある、これを使ってから十時間程度は、モンスター除けの結界として機能する、という魔力を籠める事で発動する石、結界師という専門職の人間がいて、その結界師が数日間魔力を籠める事で初めて機能する石、をパトロックは十個仕入れていた、十個、つまりは百時間の休憩、それが限度だ、それを分かっていたから、出来るだけ使いたくなかった、と言うのが本音だろう、だがしかし現実は厳しい、魔王の居城に近づけば近づく程にモンスターは強くなる、アルニード付近でさえパトロックでは苦戦するレベル、なのだから、出来るだけ戦わない選択を取った方が良いのだろう。
「ふー……。」
結界石を一つ消費して、魔力で生み出した焚火に干し肉をかざして、少し温めて食べていたパトロック、これが勇者の普段やっている事なのか、これが勇者達が直面している現実なのか、それを実感して、消耗にうんざりしていた。
「勇者ってのは、凄いんだな……。」
勇者の力を見間違えていたわけではない、パトロックは勇者の力を過小評価していたわけでも、知らないわけでもなかった、ただ、実戦投入されるだけの勇者、と言うのがどれだけ強く、強靭な心の持ち主なのか、という事を改めて実感した、と言うのが正しい所だろう、パトロックは入念なタイプだ、勇者が実際に剣や槍、弓と言った「パトロックが鍛造した武器」を振るっている所をつぶさに見学して、そしてそれを次の鍛造に生かしていた、だから全く勇者の実力を知らないのか、と問われると知っている方に近い、が正しいのだろうが、これまでとは思わなかった、それが現実だろう。
勇者の仲間には結界師が加わる事も多い、という話は聞いた事があった、勇者を筆頭として攻撃役の「魔法使い」、回復魔法に長けた「神官」、結界術の専門職である「結界師」の四人パーティーが基本だ、という話は聞いた事があった、ただ今はそれをしてくれる仲間はいない、そもそも鍛冶職人であるパトロックが魔窯を募った所で、集まらない、それがパトロックの中の所感だ。
「ふー……。」
今頃、子供達はどうしているのだろうか、ルチルは自分がこうして旅に出た事を説明したのだろうか、クォーツはうまくやっているのだろうか、ルベライトは体を壊したりしていないだろうか、そんな事が頭の中をめぐっていく、パトロックにとっての日常は、今となっては非日常だ、自分からその非日常に飛び込んだと言えば飛び込んだのだが、賢者の石の在り方を探しに行く、それは仕方のない事だったのかもしれない、とも考える。
賢者の石は魂を持っている、魂の鳴動を以て願いを叶える鉱石だ、賢人から下賜された書物には、そう書かれている。
ならば、魂の元になった場所があるはずだ、魂の元になった何かがあるはずだ、パトロックの結論はそこにあった。
ルベライトを構築するだけ「人体を構築しうるだけ」の魂の鳴動、それがどこからやってきて、どうして賢者の石と言う形を成しているのか、構築している理由と、その存在意義を問う、それは当たり前の話だ、とパトロックは考えていた、それを考えない人間は愚者だ、ならば自分が愚者として見なかった事にして生きていく事も出来ただろう、ただ、パトロックはそこまで「愚か」にはなれなかった、アルドで採取されると言う賢者の石、魂を宿す鉱石、一般には流通せず、賢人や医者の中でしか扱われていない「特別な鉱石」がどうして出来上がるのか、どうしてこの地で採掘、採取されるのか、それを確かめなければならないという使命感にかられていた、パトロックを突き動かしていたのは、偏に使命感と知的好奇心だった。
「ルベ……。」
ルベライトは、どうして生まれてきたのか。
この世界において奇形嚢腫、テトラマ体と言うのは「医学的走られている事」ではあるが「一般的に教養として知られている単語の意味」ではない、パトロックは博識な方だった、小さい頃から鍛冶仕事をトルマリンに教わる傍ら、図書館に通っては本を読んで知識を得ているタイプだった、医学書も読んだ事がある程度、には書物に造詣が深い、そんなパトロックでさえ、奇形嚢腫と言うのは知らなかった単語で、知らなかった状態だった。
そうして生まれてきた意味、奇形嚢腫として産まれて、賢者の石を医者から受け取って肉体を造った意味、それらは繋がっている、どこか大きな流れとして繋がっている、そうパトロックは推測を立てていた。
「……。」
時計を確認する、結界石を発動してから一時間が経過した、ここから先はモンスターも強くなってくるだろう、出来るだけ戦わない方向性で、隠密を心がけていかなければ、賢者の石にたどり着く前に息絶えてしまう、そんな予感がしていた、パトロックは、生きて帰らなければならない、賢者の石の在り方を知って、生きて帰らなければならない、と志を正した。




