第十一話 探し物
「……。それじゃ、賢者の石が採掘出来るのは北部の方だけ、って事か……。」
「賢人様から話は聞いとるよ、なんでも、賢者の石の奇跡で人間の肉体を生み出したんだとか?そうじゃな、儂らに賢者の石の製造法は知らされておらん、ただ、北部の魔王の居城に近づく程、賢者の石は良質なものが採取できる、それは確かじゃな。」
アルニードに飛んだパトロックを迎えたのは、長老と呼ばれる存在だった、その長老の家に招かれて、賢者の石が何処で採掘されているのか、を訪ねた所、長老は「採掘」ではなく「採取」と言った、その意味がわからない様な、わかっている様な、パトロックの頭の中はそんな考えで満たされていた。
賢者の石は採掘されるものではなく、採取されるもの、という言葉に引っ掛かりを覚えたパトロックは、賢人機関から渡された書物との関連値、関係性と理論を合わせていく。
「兎にも角にも、北部に行かんことには賢者の石は採取出来ん、そして北部に近づくという事は、魔王の居城に近づくという事になるかのぅ。あまり勧める事は出来んな。おんしは、武器を持っとらんだろう?」
「……。それでも俺は、行かなきゃならない。」
「なら、剣を持つと良いな。儂のおさがりでよければ、剣を一本くれてやろう。」
長老は、その赤い瞳でパトロックを値踏みしていたが、何か強い意志を感じる、と考えたのか、自分がモンスターと戦っていた時に使っていたという剣をパトロックに渡してきた。
万が一の時の自決用、のナイフしか持ってきていなかったパトロックからしたら、それは僥倖とも言える一本だ。
「……。これ、俺のオヤジが……。」
「そうか、おんしの名はパトロックと言うのじゃったな。パトロック・カリナート・カイル。カイル家の跡継ぎがそんな名前じゃった、と誰かが言っておったのぅ、この剣を鍛造したのは、おんしの父君じゃよ。」
パトロックの父、トルマリン・ガルダニア・カイル、先代続くカイル家の中での、先代の長の名前、それがトルマリンだった。
トルマリンはもうなくなって久しい、パトロックがカイル家を継いだのが二十年ほど前、まだ十代だった頃で、その頃に「魔王の手下であるモンスター」による襲撃を受けて、トルマリンは亡くなっている、ただ、パトロックはトルマリンの造る武器をよく覚えていた、それを基に武器を鍛造しているのだから、忘れられる事も無いだろう。
トルマリンの武器は「グリップ」、つまり握りが特徴的な武器が多かった、パトロックは仕入れた事がない材質の革で握りの部分の保護を行っていおり、それを入手出来ていたのは、トルマリンだけだったのだとか。
「感謝する、ご老体。」
「なぁに、儂が勇者として生き残ったのは、偏におんしの父君のおかげじゃからな。父君はなくなって久しいのじゃろうが、こうしておんしと出会ったのは何か意味があったんじゃろう。儂ももう、老骨に鞭打っても剣をふるう事は出来ん、じゃから、おんしに渡すが一番の礼じゃろうかて。」
「……。」
剣を振る、という事はしたこと自体はあった、というよりは、トルマリンの教育の影響で、作った武器は一度は振るう、がパトロックの中での決まり事だった、火属性に位置するカイル家の人間として、火属性以外の武器を振るう事は基本的に危険ではあったが、しかしそれでも、振るわなければそれがどんな武器かわからない、というトルマリンの言葉に従って、鍛造した武器は一度は振るっていた、だから剣の振るい方は知っている、巧みに操れるのか?と問われると否と答えるだろうが、ある程度のモンスターと交戦する程度、であれば問題はないだろう、と。
長老に挨拶をして、パトロックは旅に出た、それは賢者の石の意味を探す旅、自分が命と同等の存在を生み出した「奇跡」を起こした、賢者の石の在り方を探す旅だった。
「兄ちゃん、こっちで良いの?」
「あぁ、頼んだ。」
パトロックが何処にいるのか、どうしているのか、どうして失踪まがいな事をして、ルチルだけに旅に出る事を告げて出ていったのか、ならばどうしてクォーツやルベライトには告げなかったのか、それを各々が考えながら、クォーツは武器を鍛造していて、ルベライトはその手伝いをしていた。
パトロックほど完成された武器を鍛造出来るのか?と聞かれてしまったら、クォーツはまだまだ自分はその高みに至っていないと答えるだろうが、それでも武器を鍛造する存在は必要だった、勇者に渡す武器を鍛造出来るのは、カイル家の人間か、それとも隣町に住んでいるというガンスミスか、どちらかだけだ。
直近でも武器を必要とされていた、勇者の育て役の老人、がパトロックを求めてやってきたのだが、取り合えず誤魔化して、クォーツが急いで鍛造を引き継ぐ、という形をとっていた、ルベライトはその手伝いをして、現在を過ごしている。
「パトさん……。」
クォーツは、ルベライトの事を詳しくは知らされていなかった、賢者の石と言う鉱石で体を作っている、と言った事は聞いていたが、そんな事を出来る鉱石が存在する理由も、存在して良い理由も知らなかった、パトロックはその「存在して良い理由」を探しに行ってしまったのだが、それも知らされていない、クォーツは「壊滅的に情報不足」だと感じていた。
一方のルベライトは、何処かでそれを分かっていた気がしていた、直感だが、パトロックが失踪まがいな事をして旅に出た理由は「賢者の石」にあるだろう、となんとなく察しがついていた。
別段何か情報の差異が有るわけではない、ルベライトとクォーツで、与えられている情報の優劣が有るわけではない、ただなんとなく「ルベライトは分かっていて、クォーツは理解していない事がある」と考えていた。
それを告げている訳ではない、それが確証めいた何かでもなければ、ただの予感に過ぎないのだから、とルベライトはその可能性を告げていなかったが、パトロックがいなくなってしまった理由には、自分が関わっていると感じている、それが現状だ。
「ルべ、そっちの鉱石取ってくれ。」
「うん。」
表向きは二人ともわかっていない状態、ルチルが何かを知っている可能性はあるが、けれども確定事項は何もない状態、が続いていた、ルベライトはなんとなく、その状態が正しいと感じていた、直感でしかないのだが、そう感じていた。
兎にも角にも、パトロックが帰ってこない以上は、クォーツかルベライトが武器を鍛造する他ない、クォーツはそれ以上の事を考えていなかった、とにかく自分が何とかしなければ、自分がしっかりして「カイル家の歴史」を継承していかなければ、その一心で動ていた。




