第十話 転移処
「パトさん、どこ行っちまったんだろうな……。」
「さぁ……、父さん、何も言ってなかったし……。」
パトロックが失踪してから、と言うべきか、ルチルだけが旅に出た事を知っていて、息子二人はパトロックが失踪したと思っていて、という事になってから一週間、クォーツは今までの修行の成果を振るわなければ、と言って武器を鍛造する傍ら、ルベライトにそのイロハを教えていた、まだ半人前な自分が何を教えられるか、と自問自答したりもしたのだが、パトロックが帰ってこない以上はどうしようもない、こうしている今にも「勇者」達は武器を必要としている、それがこの世界の理だ。
クォーツは、パトロックほどの技量があるわけではない、パトロックの跡を継げる程鍛錬を重ねていたわけでもない、だから悪戦苦闘は眼に見えていた、ただ、それでも「誰かがやらなければならない事」として、賢明に役割を果たそうとしいてた、その顔に不良青年の面影はなく、頑固一徹と言った風貌だったパトロックの表情そっくりな顔をして武器の鍛造に励んでいた、その中でルベライトに教鞭をとる、と言うのは、クォーツからしたら重責だっただろう、ただ、それも「継承」していかなければならない事、こうしてパトロックがいなくなってしまった以上、クォーツに万が一の事があったら、継いでいける存在はルベライトしかない。
だから、体が弱いとしても、まだ万全の状態ではなったのだとしても、ルベライトには鍛冶のイロハを覚えてもら分ければならない、そういう事なのだろう。
「ルべ、そうじゃない、こうだ。」
「わかった、兄ちゃん。」
ルベライトもそれがわかっていたから、体が弱いだとかそう言った言葉を使わずに、クォーツの指南を受けていた、それして自分が「保険」にならなければ、パトロックがかつて語っていた「魔王」によって世界が滅ぼされてしまう、そのカウンターとしてカイル家は存続してきた、それは聞き飽きたほどに聞いてきた事だ、嫌でも真面目になるのだろう。
虚弱体質だったはずのルベライトが、ルチルに心配されているなりにではあるが、一日を工房の中で過ごせるレベルになってきている、それはクォーツにとっては有難い誤算だった、と言えるだろう。
「ルべ、こっちやってもらって良いか?」
「うん、わかった。」
武器を鍛造するのにも、数日から数週間はかかる、それを使用者の「魔力適性」と「武器種適性」に合わせて鍛造する、その技術はすぐに身につく事柄ではない、それを分かっていたから、ルベライトもクォーツも、真剣に取り組んでいた。
パトロックが戻って来るまでの代理なのかもしれない、自分達は代理人でしかないのかもしれない、それを理解したうえで、二人は鍛造に注力していた。
「北の国に行きたい。」
「アルドに用事かい?でもあの国は、殆どを魔王に支配されちまって……。」
「良い、それでも行きたい。」
転移処、という、転移魔法を専門に扱っている移動場所、に来ていたパトロックは、糖分の食料などの準備を終えて北の国アルドに向かう為の依頼をしていた、依頼料に関しては問題ない、カイル家の財産は一代で使い切れる程少なくはない、だから「元来勇者が賢人機関の依頼を受けて使う」場所である転移処、移動手段としては高級な類になる転移処を使っても、家族への負担は少ないだろう、と考えた結果パトロックは転移処を使う判断をした。
転移処の主は、勇者でもない武器を持っているわけでもないパトロックが北の国に行く理由がわからない、という顔をしていたが、転移処は金で動くのが定石だ、それが自殺志願だろうと、破滅願望だろうと、金を積まれれば転移を発動する、それが転移処のやり方だ。
「北の国ね、何処が良いかね?」
「最南端で頼む、流石に北部の魔王の根城に行くつもりはない。」
「そうかい、じゃ、ポットに乗ってくんな。」
転移魔法は元来は賢人にしか使えない魔法として歴史が残っている、ただ、それを民間人でも使える様にしたのが、現在パトロックが乗り込もうとしている「ポット」だった。
使用者の魔力と転移処の装置の魔力を使って、使用者を既定の座標に飛ばす、それが転移魔法の扱い方で、転移処の主も「転移した先の安全確保」が出来ない場合は使ってはいけない、という協定があった、転移処と言うのは各都市に一軒は存在するのだが、そのすべての転移処の主達の中での協定、が「転移先の安全」を確保した状態でなければ使ってはいけない、というルールだ。
今回のケースで言えば「アルドの最南端」はまだ人間が管轄している区域、アルドの前線地域から少し離れた場所だ、だから転移処の主もそこに転移させて問題ないと判断した、これがアルドの北部、魔王の居城に転移したいなどと言われてしまったら、転移処の総意として断るしか選択肢はなかった、それをパトロックは理解していた、だから勇者がアルドに転移する際に赴くアルドの最南端である前線区域「アルニード」に向かうことにしていた。
そこが完全に安全なのか、と問われると「転移処」を設置出来る程度には安全な場所、として知られているアルニードは、北の国アルドの中でも重要な防衛拠点として知られていた、ある意味、そこが陥落していた場合、すぐに情報が伝達されるはずだ、という信頼を籠めて、という意味合いでもある。
「それじゃ、行くぜ?」
「分かった。」
転移を発動する、パトロックは転移と言う魔法がどんな魔法なのかを聞いた事はあっても使用した事はなかった、ぐにゃりと視界が歪む感覚、体が魔力の塊になって、再構築されて飛ばされていく感覚、それらを感じながら、パトロックは転移先であるアルニードへと飛ばされていった。




