表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
餌付けされた護衛令嬢は、冷酷侯爵の溺愛に気づかない〜美味しいご飯が専属契約の条件って最高です!〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

41/42

41.二人でなら②

 決闘の場所は中庭ではなく、屋敷の裏手にある広場だった。この広場の奥には森が広がっており、ミリーはよくマテウスと修行でこもったのを懐かしく思う。


(この広場は中庭と違って広いから動きやすいけど……)


 ミリーはちらりと隣のアルフィーを見た。

 実戦経験のないアルフィーにとって、この広さは仇となるかもしれない。


(マテウスお兄様相手なら、最初から祝福(ギフト)を行使していかないと……)


 ミリーはそのためにお腹をいっぱいにしてきていた。


「では、始めます」


 マテウスの合図でアルフィーが剣を構えた。


「ミリー、指示を出してくれ」

「はいっ! ――!?」


 ミリーが祝福(ギフト)を行使するより早く、マテウスが先制攻撃を仕掛けてきた。トップスピードでアルフィーに迫ると、剣を振り下ろす。


「くっ……!」


 間一髪のところでミリーがマテウスの攻撃を受け止め、広場には刃がこすれる金属音が響いた。


(ダメっ……力だと押し負けるっ……)


 マテウスの上からの攻撃に、ミリーは全ての力を腕に集めて耐えているが、このままでは後ろにいるアルフィーごと吹っ飛ばされてしまう。このスピードにアルフィーがついていけないのは当然だ。いきなり力の差を見せつけてきたマテウスに、ミリーがどうすべきか考えていると、後ろにいたアルフィーが前に飛び出した。


「ミリー、すまない! ありがとう!」


 アルフィーはマテウスの横に回ると剣を振り下ろした。


(ああ……侯爵様は本当ならもうわたしなんて必要ないのに……)


 アルフィーは剣の腕こそマテウスに劣るかもしれないが、頭脳の面では勝っている。こうして咄嗟に動けるのも、きちんと鍛錬を続けていたからだ。だからもう、ミリーの護衛なんて必要ないのかもしれない。


(それでも、わたしを必要だと言ってくださった侯爵様の期待に応えたい……!)


 ミリーは祝福(ギフト)を行使すると、叫んだ。


「侯爵様、後ろに跳ねます!」


 次のマテウスの動きは読めている。ミリーの指示に、アルフィーは剣筋をずらした。


(あっ……ダメっ!)


 マテウスの次の次の動きを読んだミリーは、アルフィーの前に出ると、マテウスの剣を受け止めた。


「きゃあっ!」

「ミリー!」


 吹っ飛ばされそうになった身体をアルフィーが抱きとめてくれる。


「どれだけ時間がかかってもいいですよ? 私に一撃入れられますかね?」


 マテウスは余裕の表情で立ち止まると、剣を構え直した。次を打ってこないのは、ハンデのつもりだろうか。

 ミリーはアルフィーにこっそり耳打ちした。


「侯爵様……わたしの指示はお兄様も聞いています」

「あのやろう……」


 それだけ言えばアルフィーにも伝わった。やっぱり侯爵様は頭が回るなと思っていると、今度はアルフィーがミリーに耳打ちしてきた。


「…………!? それだと、侯爵様が混乱しませんか?」


 アルフィーの告げてきた作戦にミリーは驚愕した。


「きちんとタイミングを決めておけば大丈夫だ。それなら勝機もあるだろう?」


 そう言って笑ったアルフィーは、勝利を確信している顔だ。

 ミリーはアルフィーを守れる権利を、この戦いで終わらせたくはない。ぎゅっと唇を結ぶと、短く頷いた。

 この間の短い作戦時間にもマテウスは攻撃をしてこなかった。どうやら最初に仕掛けてきただけで、あとは受けの姿勢のようだ。剣で肩をトントンと叩き、こちらの出方を窺っている。


「よし、行こう」

「はい!」


 アルフィーが剣を構え、マテウスに向かって走り出せば、ミリーも付き従う。


「侯爵様! 右からの右下です!」

「おう!」


 アルフィーが攻撃を仕掛ければ、マテウスは次の次の動きでそれを防いだ。


(やっぱりお兄様は、わたしの能力を逆手に取っているわ)


 ミリーは先回りして、アルフィーの身体を抱えてマテウスから離した。


「次、右とみせかけて左です!」


 アルフィーは体勢を立て直すと、ミリーの指示通りまた剣を振り下ろす。しかしまたマテウスの剣によって阻まれてしまった。

 マテウスはミリーの指示を聞き、その逆の動きを瞬時にしてみせていた。ミリーの能力を知り、身体能力に長けたマテウスだからこそできる芸当だ。

 アルフィーの動きよりも先回りして動かれるのだから、敵うはずがない。ハンデを与えてもなおこの余裕の動きは、さすが騎士団長だ。


(でもっ……!)


 ミリーは何度かそれを繰り返したあと、アルフィーの合図を確認して叫んだ。


「侯爵様、後ろです!」


 ミリーの指示にマテウスがいち早く反応する。アルフィーはそのタイミングを待っていた。

 ミリーの指示とは逆の、正面――今は背後に変わったマテウスに向かって剣を振り下ろした。


「――っ、しまった!」


 気づいたマテウスが振り向きざまに剣で受け止めようとして、ミリーがそれを阻止する。アルフィーの剣は誰にも邪魔されることなく、マテウスの肩へと振り下ろされた。


「――やった……」


 アルフィーの剣がマテウスの肩をかすった。シャツが切れて肌が露わになっている。


「やった、ミリー!」

「侯爵様、すごいです!」


 剣を下ろしたアルフィーは、年相応な顔で喜び、ミリーを見た。その笑顔にミリーも嬉しくなる。


「はあ……今のはアルフィーの作戦ですね? まっすぐなミリーには考えつかない作戦だ」

「はい! 侯爵様はすごいんです!」


 頭をかきながら、マテウスが観念した顔で言った。嬉しそうにミリーが近寄れば、優しく頭を撫でてくれる。


「ミリーも能力を行使しながら、上手くアルフィーを守れていたね」


 尊敬する兄に褒められれば、ミリーの顔も緩む。えへへと笑えばぎゅっと抱きしめられた。


「おい!?」


 なぜか慌てた声のアルフィーに顔を向ければ、マテウスはミリーを抱きしめたまま言った。


「約束は約束です。ミリーをあなたの護衛として認めましょう」

「抱きしめながら言っても説得力がねえなあ?」


 アルフィーが呆れた声で言えば、マテウスはミリーに頬ずりをしてくる。


「ミリーを送り出したとしても、可愛い妹であることに変わりはありませんので」

「お兄様……ありがとうございます!」


 アルフィーがわなわなと震えているが、もちろんミリーは気づかない。ジーンとしながらマテウスを見た。


「アルフィーならミリーの能力を活かして上手く立ち回れそうだね。二人ならきっと大丈夫だ」

「……はい!」


 ――二人でなら乗り越えられる。

 アルフィーが言った言葉を、マテウスは認めてくれたようだ。

 ミリーはとびきりの笑顔でアルフィーに振り返る。アルフィーは目を大きく見開き、顔を赤くさせた。そしてミリーへと手を差し出す。


「ミリー、これからもよろしく」

「はいっ!」


 ミリーはマテウスの腕から離れると、アルフィーの手を取った。


「ずっと侯爵様をお守りしますね!」

「あ~、ミリー、その……」


 繋いだ手を両手で包み込めば、アルフィーが言いごもる。ミリーが首を傾げれば、アルフィーは熱っぽい目でミリーを見つめて言った。


「ミリーだけは僕のこと、アルって呼んでいいよ……」


 シエンナだけに許されていたと思っていたその呼び方を、ミリーは許された。胸の奥がくすぐったくなって、叫びだしたい衝動に駆られる。


(本物の婚約者でもないのに、いいのかな?)


 そう思っても、ミリーは自身の欲望に抗えない。


「アル……様?」


 口にしてみれば、なんだか多幸感に包まれた。

 気恥ずかしくなってアルフィーをちらりと上目遣いで見上げれば、彼は真っ赤になって固まっている。どうやらアルフィーも照れているようだ。


(あれ……アル様、可愛い……?)


 今までとは違う感情がミリーの中に生まれる。それがなんなのか確かめたくて、ミリーはもう一度名前を呼んでみた。


「アル、様……」

「ミリー……」


 ミリーはアルフィーから包んでいた手を握り返され、ドキンと胸が跳ねた。けしてお腹が空いたわけではない。


「ミリー、僕はっ……」


 アルフィーが何か言いかけたところで、大きな影が二人の間に落ちた。


「ミリー、お腹が空いただろう? 屋敷に戻ろう。ああ、アル(、、)も今日は泊まっていってください」


 にこやかに笑うマテウスに、ミリーは連れ出される。取り残されたアルフィーが、後ろから震える声で叫んだ。


「〜っ、お前にその呼び方を許した覚えはない!」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ