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餌付けされた護衛令嬢は、冷酷侯爵の溺愛に気づかない〜美味しいご飯が専属契約の条件って最高です!〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!


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37.誰が僕を守るんだ

「まさか侯爵のほうから一人のこのこ来てくれるなんてな! 作戦変更だ。お前には囮になってもらう」


 窓の外から室内へ視線を向ければ、ケイレブは手に魔道具を持っていた。


(また魔道具……! 侯爵邸が襲撃されたときと違うものだわ)


 身構えるミリーに、ケイレブはバカにしたような顔で笑う。


「お前みたいな脳筋にはわからないだろう? これは、一瞬にして爆発を起こす魔道具だ」


 ケイレブはまたしてもぺらぺらと説明をしてくれた。


「それだと、あなたも巻き沿いを食らうのではないですか?」

「さすが脳筋は安直だな。逃げ道を用意してあるに決まっているだろう」


 ふふんと鼻を鳴らして、ケイレブは懐中時計型の魔道具を取り出した。


(近距離での転移魔道具……とういうことは、爆発規模は外に及ばないくらいでしょうか)


 ミリーは王太子であるルークがその魔道具を所持しているのを見たことがある。


(それにしても……転移魔道具まで……どうしてディータ伯爵令息が? キースから融通してもらっているのでしょうか? でも……)


 キース公国は黒幕のオサール伯爵と繋がっている可能性が高い。そして、キースは魔石をラヴェン王国へ輸出すると同時に魔道具の輸入も行っている。


(それでも、キース公でさえ手にするのは難しい魔道具だわ)


 転移魔道具は希少な物で、主に要人のために使われている。それを目の前のケイレブが持っていることに、ミリーは疑問を抱いた。


(そんなことより……)


 ミリーは窓から身を乗り出すと、アルフィーに向かって叫んだ。


「侯爵様! 屋敷に入ってはダメです! 罠です!」

「ミリー!? そこにいたのか!」


 叫んだミリーにアルフィーが気づくも、ミリーはケイレブに拘束されてしまった。


(身体が痺れているせいか、反応できない……っ)


 ケイレブは窓の外からは見えない横の位置で、ミリーの手を後ろ手に捻りあげている。


「侯爵に助けてと言え」


 ひそひそとミリーに命令をしながら、ケイレブはナイフを突きつけてきた。ミリーは目線だけケイレブに向けると、きっぱり告げる。


「できません」

「なっ!? 侯爵をこの部屋に誘い出せば、お前だけは一緒に連れ出してやってもいいんだぞ!?」


 焦ったケイレブが提案してきたが、ミリーは首を横に振った。


「このっ……!」


 ミリーの手首を捻り上げたまま、ケイレブは窓に向かって叫んだ。


「おい! こいつの命が惜しければ、今すぐこの部屋に来い!」

「ディータ……! こんなことをして、お前の家がどうなっても知らないぞ!」


 アルフィーはケイレブの仕業だとわかっていたかのような口ぶりだ。そもそもどうしてこの場所がわかったのだろう。ミリーが疑問に思っていると、ケイレブが手の拘束を強めた。どうやら苛立っているようだ。


「お前が死ねば証拠なんてどうにでもなるんだよ」


 ブツブツと呟くように吐き捨てたケイレブを横目で見る。


(あの魔道具自体が爆発するのではなく、起爆装置……? この部屋に侯爵様を招こうとこだわるのは、この部屋に爆発物があるからだわ)


 それならなおさらアルフィーをここに来させるわけにはいかない。ミリーは窓枠に足をかけた。


「おい!? 何してる!」


 ミリーはケイレブへと振り返ると、毅然とした態度で告げた。


「護衛対象を危険に晒すくらいなら、死んだほうがマシです」


 その顔は、いつものぽやぽやとした表情ではない。覚悟を決めたミリーの目は鋭くケイレブを見据えていた。


「……っ、!」


 ケイレブが怯んで拘束する手を緩めた隙に、ミリーはもう片方の足を窓枠にかけて上に乗った。


(身体が痺れて受け身もまともに取れそうにない……この高さだと、死ぬかもしれない……それでも)


 ミリーが躊躇いなく飛び降りようと下を見れば、アルフィーの姿が見えない。


(侯爵様!?)


 アルフィーの無事を確認してからでないと、行動に移せない。ミリーが焦りを見せたそのとき、部屋の扉が勢いよく開いた。


「ミリー! 君がいなくなったら、その後は誰が僕を守るんだ! 間違いなく僕は殺されるぞ!? 今だけを凌ごうとするな!」

(侯爵様!!)


 振り返ったミリーの目には、にたりと笑うケイレブが、胸元から魔道具を取り出しているところが映る。

 ミリーは瞬時に祝福(ギフト)を発動させた。

 ミリーの祝福(ギフト)は、相手の行動を予測すること。それにより相手よりも早く動いて対処できるのだ。

 本来ならケイレブの動きくらい、鍛えているミリーには祝福(ギフト)を使わなくても制圧できる。しかし、今は二重の毒に侵されて身体が思うように動かない。


(祝福(ギフト)はすごく体力を消耗しますけど、それでも踏ん張らないと! ここで倒れてしまったら侯爵様を守る人がいなくなる!)


 アルフィーの言葉がミリーを叱咤していた。ぐっと足に力をこめて、素早く動く。

 ミリーはケイレブの動きを読んで、起爆装置である魔道具を起動させられる前に奪い取った。


「うっ……」


 まだ痺れの残る身体ではたとえ早く行動を読めても、やはり身体がついていかない。ミリーは魔道具を手にしたところで、ふらついてしまった。


「あ!? くそっ……」


 ミリーに魔道具を奪われたことをケイレブが遅れて気づく。今度は胸元から懐中時計型の魔道具を取り出した。


(逃げられる……!)


 ここで逃げれてしまっては、どうせ言い逃れされてしまうのだろう。ケイレブを現行犯で捕まえなければ意味がないのだ。

 ミリーが手を伸ばそうとした瞬間、ケイレブの懐中時計が目の前で真っ二つに切り裂かれた。


「こう、しゃく、さま?」


 ケイレブの目の前には剣を構えるアルフィーが立っている。どうやらアルフィーが魔道具を切り捨てたようだ。


「ミリー、一人で戦ってるんじゃないんだ。頼りないかもしれないが、僕を頼れ」


 そう言ってミリーを見る青い目は力強く、出会ったときのような影は一切なかった。

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