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餌付けされた護衛令嬢は、冷酷侯爵の溺愛に気づかない〜美味しいご飯が専属契約の条件って最高です!〜  作者: 海空里和@電子書籍2冊発売中!


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20.パーティー

「パーティーへ出席することにしたから」


 数日後の夕食時、食堂へやって来たアルフィーからレイは招待状を渡された。アルフィーの反対側の手は、当然のようにミリーと繋がれている。


「外出されるので!?」


 ミリーのことはもう慣れたが、アルフィーの発言には驚いた。席についたアルフィーは、隣に立つミリーへ視線を向けてから口の端を上げ、レイを見上げる。


「ソワイエ伯爵家にも赴いたのだから、いまさらだろう?」


 レイは招待状に目を落とし、神妙な顔でアルフィーを見た。


「それはそうですが……パーティーともなると……」

「王太子派による集まりなのに、ロカール侯爵家の僕が出席しないわけにはいかないだろう」

「しかし……だからこそ危険では……」

「もちろん王太子殿下も顔を出される。それに伴い厳重な警備が騎士団によってなされるのはお前も知っているだろう」


 アルフィーの言葉にレイの眉間にはシワが寄った。

 レイの脳裏にアルフィーの乗った馬車が襲われ、自分は何もできなかったあの日がよみがえる。


「今は専属護衛がいるから大丈夫だ。そうだろ?」


 アルフィーは握りしめていた手の先にいるミリーを振り返って笑った。その顔に悲壮感はない。


「はい! お任せください!」

「うん」

(アルフィー様はもう未来を向いて歩かれているのだな)


 笑い合う二人を見れば、レイの恐怖心も薄まった。

 そう、昔とは違う。今はミリーがいる――そのことがなぜかとても心強く感じる。


「かしこまりました。手配しておきます」


 アルフィーはレイに頷くと、嬉しそうに笑うミリーの手を引いていつものように膝へ乗せた。


「ミリー、パーティーで君は僕の婚約者ということにするからね?」

「どうしてですか?」


 アルフィーはミリーへと顔を近付けると、するりと彼女の髪を梳いた。はたから見ればいちゃつく婚約者たちだが、もちろんミリーは目をぱちくりとさせて首を傾げている。


「そのほうが一番近くで僕を守りやすいだろう? どこに刺客が潜んでいるかもわからない。敵を油断させるためにはそうしておくのが一番なんだよ」

「さすがです、侯爵様!」

(絶対に違う……ミリー様を婚約者として大々的にお披露目するつもりだ……)


 前向きになった主人に感動したばかりだというのに、レイは呆れた目をアルフィーへと向けた。


(まあ……ミリー様の周りを固めるためだとしても、活動的になるのは良しとしましょう。……しかし、この調子でミリー様と結婚に持ち込めるのは何年かかるのやら)


 レイがそんなことを考えていると、リゼが食事を運んできた。


「アルフィー様、ミリー様の装いはどうされますか?」


 リゼの問いにミリーは困った顔をした。


「騎士服というわけにはいけませんよね……?」

「当たり前です!」

「ミリー、君は僕を密かに護衛するんだから、婚約者の装いをして欺かないと」

「そうですよね……」


 アルフィーのもっともらしい言葉に、ミリーはうーんと唸った。


「あ! ルーク様に贈っていただいたドレスが丁度いいかもしれません」

「は!?」


 ミリーの言葉に、レイは彼女がドレスを持参していなかったことを思い出した。そのため王太子からドレスが送られてきたことも。そのドレスは火事を免れ、この屋敷で保管されている。王太子から贈られたものを焼失させるわけにはいかないと、使用人の一人が避難させていたのだ。

 アルフィーももちろんそのことを知っていたはずだが、ミリーがずっと騎士服だったため失念していたようだ。口を開けて固まっている。


「そういえばアルフィー様はミリー様のドレス姿をご覧になっておりませんね。それはそれは可憐で……」


 そのドレスでミリーを着飾ったのはリゼだ。レイも目にしている。確かにあの姿は可憐だったなと思っていると。


「ダメだ!」


 アルフィーが拗ねた顔で声をあげた。


「僕の婚約者なんだから、王太子から贈られたドレスを着るなんてダメに決まっているだろう!」

「でもドレスはそれしか……あ、実家から送ってもらえば」


 やはりミリーは色恋事には疎いらしい。アルフィーが怒る理由にも気づかず、もごもごとドレスの心配をしている。アルフィーはそんなミリーを見て溜息をつきながら言った。


「僕が用意するから」

「え? でも」


 この話はこれで終わりだと言わんばかりに、アルフィーはミリーの口にスプーンを押し込んだ。ミリーを黙らせるには食事が一番だろうとこの場の誰もが知っている。

 レイがミリーに視線を向ければ、彼女は口をもごもごとさせながら顔を輝かせていた。いきなりスプーンを口に突っ込まれたのに、強メンタルである。


「今日も美味しいです!」

「そう、良かった」


 アルフィーは何事もなかったかのようににっこりと笑うと、今度はフォークに肉を刺してミリーに差し出した。


「ほら、これも美味しいんじゃない? 毒見してみて。まあ、パーティのことは僕に任せておいて」

「はいっ……!」


 美味しい食事でミリーを夢中にさせ、さらっと返事をもぎとる。


(さすがです、アルフィー様)


 自分の思い通りに事を運ぶ能力に、アルフィーが名ばかりの侯爵ではないと思い知らされる。だからこそアルフィーは第二王子派に危険視され、命を狙われるのだ。

 レイが二人のやり取りを見ていると、いつの間にかリゼの隣には料理長が立っていた。


「ミリー様、すっかり餌付けされてんなあ。俺としては嬉しいんだが……複雑な気持ちだよ」

「アルフィー様もミリー様の扱い方をわかってきたようですね。上手く話を持っていかれました」


 リゼは意気込んでいるようだ。ふんすと鼻を鳴らして両腕でガッツポーズをしてみせる。


「アルフィー様のご指示のもと、ミリー様を着飾るのは私の役目ですね! 腕が鳴ります!」

「ははは、リゼもすっかりミリー様に夢中だな」

「当然です! ミリー様はアルフィー様の救世主なんてすから!」


 笑い合う二人を見ながらレイはふと思った。あの二人、やたら仲が良いなと。


   * * *


「きゃ〜! ミリー様、素敵です!」


 あれから数日後、今日はいよいよパーティ当日だ。

 リゼはミリーを着飾り終えて、感嘆の声を漏らした。

 青色のドレスはアルフィーの瞳と同じ色で、余計な飾りはついていない。シンプルだが上質な絹でできており、侯爵家の婚約者に相応しい上品なドレスだ。裾はミリーの要望が反映されており、足さばきがしやすく動きやすいデザインらしい。

 栗色の髪はハーフアップに編みあげられ、花の飾りが散らしてある。リゼ渾身の力作だ。


「すごく動きやすいですね。さすが侯爵様です!」

「ええ、そこですか?」


 しかしミリーにとって一番気になるのはそこらしい。せっかく可愛いのに、とリゼが残念な目でミリーを見ればニコニコとした笑顔が返ってきた。

 

「ドレスでも動けるよう鍛錬をしてきたので、侯爵様のことはお任せください!」

(天使のように愛らしいのに、脳筋なのが残念だわ)


 ミリーは任務のことしか頭にないらしい。リゼが溜息をついていると、部屋の扉がノックされた。


「侯爵様ですね」


 リゼが扉へ向かう前に、ミリーがその方向を見て微笑む。


(これが愛のなせる技だったらいいのに)


 もちろんそんなことではない。ミリーの護衛としての能力に、リゼは頼もしいやら残念やらな気持ちになった。


「…………!!」


 リゼが扉を開ければ、アルフィーはその場で一瞬にして固まった。

 アルフィーも正装をしており、金糸や銀糸で刺繍されたジャケットにパンツ姿、白いタイにはガーネットのピンが留まっている。


「侯爵様! いつもの落ち着いた感じも素敵ですが、華やかな装いも素敵ですね!」

「んあっ!?」


 ミリーがアルフィーのもとへ駆け寄れば、目の前の主人は変な声をあげた。


「やっぱり侯爵様ほどの綺麗な男性はいないです!」

「〜〜っ、君なあ……」


 キラキラとした瞳で褒め称えるミリーに、アルフィーの顔がどんどん赤くなっていく。


(ミリー様はこういう方だったわね)


 空気を呼んだリゼは、すすすと部屋の端に移動する。


「ミ、ミリーも綺麗だっ……」

「ありがとうございます」


 ようやく吐き出したアルフィーの言葉にミリーはニコニコしている。悲しいかな、やはり主人の想いはミリーには伝わらない。


「ああもう……。ほらこれ」

「これは?」


 リゼが見守る先では、アルフィーがミリーの首にネックレスをかけていた。

 ネックレスには小ぶりのブラックダイヤがぶら下がっている。ちなみにブラックダイヤは非常に希少なため、なかなか市場に出回っていない代物である。


(まあ……いったい、おいくらするのかしら?)


 リゼは驚きを顔には出さずに静観する。アルフィーの目的はリゼじゃなくともわかる。わからないのはミリーくらいなものだ。


「君は無防備すぎるから虫除けだよ」

「! ドレスでも訓練をして来ましたので、護衛はできますよ?」


 やはりミリーにアルフィーの意図は伝わらない。それどころか護衛の心配をされていると思ったらしい。

 しゅんとなりかけたミリーにアルフィーが慌てて説明する。


「あー、ごめん。ミリーの護衛の腕は信じてるから。そうじゃなくて……ミリーは社交の場に表立って出るのは慣れていないだろう?」

「確かに護衛として裏方ばかりでした」

「うん。だからね、その……お守りだよ」


 アルフィーが覗き込めば、ミリーは笑顔になった。


「侯爵様……ありがとうございます!」


 空気に徹していたリゼは思わずツッコんだ。


「お守り? アルフィー様の婚約者だと周囲へ完璧にわからせるための牽制ですよね?」

「うるさいぞ、リゼ」


 リゼとアルフィーのやり取りにもちろんミリーは気づかない。


「侯爵様……護衛の私にまで気を遣ってくださって、やっぱり優しい!」


 アルフィーの髪の色まで身に付けさせられたのに、ミリーは感動してアルフィーを仰ぎ見ている。

 これはツッコんではいけないやつだと、リゼはそっと目を閉じて見ないふりをした。

沢山のお話の中からお読みいただきありがとうございます!少しでも面白いと感じていただけたら、↓評価☆☆☆☆☆を押して応援していただけると励みになりますm(_ _)m

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