第七十話 私一人で
* *【リルメス視点】* *
「どこよここ!!」
「……お腹の中かな?」
いきなり砂に沈んだと思ったらここどこよ!
……まぁ一番最初に目につくのはあの触手ね。
「ほんといきなりよね……」
触手はくねくねしてて、あたしたちを完全に獲物だと思ってるかのように近づいてくる。でも……あたしたちそんな弱くないから。
「破浄……!」
あたしが魔法を放つ前にフリィが大剣で触手を斬り裂いちゃったわ。ふ、ふん……さすがフリィね。
「これで一応大丈夫かな……?」
「どうせここはお腹の中よ。そこら辺を斬りつければあたしたちを吐き出すんじゃないかしら?」
フリィにあたしはそう言ったら、早速大剣を足元に突き刺そうとしたんだけど──
ガキン!!
「!? 硬い……というよりは拒絶された?」
「ど、どういうこと?」
拒絶? 物理攻撃が効かないなんて霊族じゃないんだから……!
「……リルメスちゃんの魔法ならいけるかな?」
「任せなさい、ぶち破ってやるわ!」
やっぱりこうなったらあたしの出番ね。
「蒼鳥よ、その群青極めし一部を、
我へと授けたまえ……! 水蒼刺!」
あたしは杖の先から青色の槍に似た水魔法を放って、
全力で足元を攻撃したわ。なのに……
「な、なんで効かないのよ!!」
なんでよ!! 魔法も物理もダメならなによ!!
「どういうこと……?」
「も〜っ! あたしの見せ場が台無しよ……」
イライラするわね……せっかくの見せ場が!
っ……で、でもこれどうするのよ?
物理もダメで魔法もダメ……ってなったらどうしようもないじゃない! 抜け出せないってことなの?
「フリィ、なにか作戦はあるかしら」
「ないよ」
「そうよね」
「ごめん」
「なんで謝るのよ」
はぁ……イライラしてもダメね。この状況じゃあたしたちじゃ無力。威力の高い魔法なんて放ったらフリィまで巻き込んじゃうし……詰みね。
「グラバとケルエタが助けに来るまで待機ね。
あたしたちじゃどうしようもできないわ」
ここ、多分あたしたちを呑み込んだ砂の魔族のお腹の中だと思うけど、あの触手以外危険なものもないし、滞在するだけなら問題ないわね。
まあ、そんなこんなで五分くらい経った時に、
あたしに異変が起きたわ。
「……」
「リルメスちゃん?」
……? なんでフリィがボヤけて見えるの?
それになんか……ふわふわする。
「フリィ……?」
「リルメスちゃん!」
あれ、身体が動かな……
「リルメスちゃん!!」
* *【フリィア視点】* *
「どうしよう、どうしよう!!」
リルメスちゃんが倒れちゃった……おでこに手を当てたらすっごく熱かったし……なんで?
『魔法使いは剣士より他の魔力に弱いんですよ。
なにせ自身の魔力を常に最優先で生きてますから、
体内に違う魔力が入り込むと倒れてしまう』
ケルエタさんはそう言ってたけど……もしかして。
「嘘っ……」
私はリルメスちゃんの上の服を脱がして、身体を見たら背中に紫の模様が広がってた。小さい刺し傷があって……そこを中心にして広がってる。
「ど、どうしよう」
多分落ちてきた時に刺されたんだ。
さっき斬った触手……多分あれの先端は毒付き、
そっから魔力を流し込まれたのかな……
「……とりあえず服は着せておかなきゃ」
脱がせたけど着直させて……どうしよう。
だってこのままじゃいつ出られるかわからないし、
もしかしたら……もしかしたらリルメスちゃんが。
「……っ、魔剣化」
私は大剣に青い炎を纏わせて壁に近づく。
物理も魔法もダメなら……高火力で無理矢理にでも。
「はぁっ!!」
ズザッ。
入った! 剣が突き刺さっ……!!
私が少し喜んだ瞬間、一気に辺りが明るくなって剣が突き刺さったところから、私とリルメスちゃんは外に放り出された。
見た感じ結構高いところに出ちゃったらしくて、
大剣から手を離して両手から炎を放出。
その力でリルメスちゃんまで飛んでいって、
どうにか身体を掴むことに成功したら、片手から大量の炎を放出して着地。
って思ってたんだけど……
「うあっ!」
リルメスちゃんを庇う状態で砂に結構な勢いで落下しちゃった。背中が痛いけど生きてるし動ける……
「っふ、はぁ……はぁ」
怖かった……上手くいって良かった。
それより……私たちを呑み込んでた暴野は?
「……なにあれ」
私は少し先に見え始めた大きな竜に困惑した。
見たことない竜……身体中に丸い球体が付いてる。
「リルメスちゃんは……起きないよね。
……私一人でやらなきゃ」
私は立ち上がって大剣を取りに走って、
またリルメスちゃんの元に戻ってくる。
竜族……最低でも等級は英級以上。
私があの竜を倒し切れる可能性は低い……
格上……でも勝たなきゃリルメスちゃんが死ぬ。
あの竜、身体中に砂の球体が付いてて、ちょっとだけ球体が動いてる……透明になったりならなかったりしてるし……もしかして特殊個体……?
あんな竜、本でも見たことない。
「!」
竜は全然動いてなかったのにいきなり口元から、
水の光線みたいなのを放ってきた。
「っぐ」
腕をちょっと掠めたけど軽傷、リルメスちゃんを守りながら戦うのは難しいし、相手は知力なし。
なら、あえて私がリルメスちゃんから離れる。
暑いけどローブを脱いでリルメスちゃんに被したら、
私は袖のない動きやすい服装に変わる。
魔剣化もしてるし服だって戦うのに最適。
これで歯が立たなきゃそこまで……
「私一人であいつを倒す」
勝ってやる。勝って生きるんだ。
私は竜がもう一度あの水の光線を放つ前に走り出し、大剣に一気に炎を纏わせる。青い炎を刃の方に溜めて……一気に放てば──
「っ!」
青い炎の斬撃が出る。
それを竜に向けて放ったら、身体についてる大量の砂の球体が触手みたいなのを大量に伸ばして、斬撃を防いじゃった。
「うそっ……」
斬撃をあんな簡単に……
「っあぁ!?」
左腕が貫かれた……!
何に……!?
「ぅく……」
水の針……見えなかった。
違う……砂の中から出てきたんだ。
砂に吸収されないほど魔力が多い水の針、
左腕が熱い……一手間違えた。
私が体勢を立て直した瞬間、
またあの水の光線が放たれた。
横に跳んで避けても、次は地中から水の針が飛んでくる。それを避けたってまた同じことの繰り返し。
加えて──
「んぐっ!」
あの砂の球体から伸びてる触手……!
私のところまで伸びてきてお腹を殴ってきた。
衝撃が強くてよろけた隙に、水の光線が飛んでくる。
「っひ!」
間一髪避けられたけど、今に直撃してたら身体に穴が空いて死んでた……強い、強すぎるよこんなの……!
「はぁ……はぁ……」
でも……勝たなきゃ。考えなきゃ、考えなきゃ!
あの竜に勝つにはどうすればいいか……
「……やってやる」
私は走り出した。大剣を肩に担いで走って触手を避けながら足場にして跳び続け、水の光線も掠めながら避け続けて、地上からどんどん離れていく。
そしたら竜に一気に近づけた。
ここなら大剣が入る……!!
「はぁああっ!!」
私が全力で振り下ろした大剣は青い斬撃を纏っていて、竜の身体に入る前に砂の球体を切り裂き、大量の青い液体が飛び散りながらも、竜の身体に剣が届いた!
大量の触手が私を殴り始める。
意識が途絶えた瞬間死ぬ、でも……!
一撃くらいは入れたいのっ!!
私は大剣を差し込んで全体重をかけて下に切り裂き、竜に出血させることに成功した。
ただ、殴られすぎた。私は血を吐きながらも急いで距離を取るために走って、さっきと同じところまで戻る。
でも、忘れてた。地上にいればあれがくる。
「うぁああっ!」
水の針、それが私の右の太ももを突き刺して、
動けなくなった隙に触手が腹部に高速で迫ってきて殴りつけてきた。
「っふぐ……う」
砂の上に倒れる私、太陽が眩しいし暑い。
太ももを刺されたんだ……血が止まらない。
このままいけば確実に死ぬ……
死ぬ……? 死ぬなんて……嫌だ。
嫌だ嫌だ! まだ死にたくない!!
「っぐ……あっ」
痛い、痛いけど歯を食いしばって大剣を杖にして立ち上がる。起きなきゃ……戦わなきゃ……
「……」
考えなきゃ……ここから勝つ方法を。
攻撃自体は入る……硬すぎない皮膚だから、
斬撃さえ当たれば勝機はまだたくさんある。
『魔法は想像力が全てなの!
剣士だってそうじゃない? 勝つ想像ができなきゃ勝てる戦いも勝てなくなっちゃうわよ?』
リルメスちゃんはそう言ってた。
私も……そう思うよ。
勝つ想像……勝つ想像を……
頭の中で何回も、何回も!
何回死んだって頭の中だったらいい、
何回でもいいから勝つ想像を……!!
「見えた。こっから勝ってやる」
私は剣士……剣に使われるんじゃなく、
剣を使うのが私……魔力も残る体力も今までの経験も、これからの未来も全部……全部賭けてやる。
「全部受け止めてよ。大きな竜さん……」




