第六十五話 ひとりじゃない
4月24日。
ソラニテ王国の王都バグラは快晴。
昨日起きた不骨のシキョン襲来、
あれから1日、被害の全貌が見えてきた。
まず住宅が多くある場所で、派手にシキョンが暴れたもんで建物は結構な数倒壊。その建物の中にいた人やシキョンに殺された者含め、死傷者五十八名。
殿堂入りパーティーのテチラパーティーは解散、
生き残ったリーダーと副リーダーの人は、
どうやらこの戦いで心を折られたらしい。
1日経った今日、町を修復するための作業はすでに始まっていて、ギルドは相変わらず活動停止中。
砂漠の争いは砂獣族が大敗して終わったらしいが、まだ何が起きるか分からないということで依頼は受けられないらしい。受けられても行きたくないけどな。
そんなわけで今日は一日中暇だ。
フリィアちゃんとリルメスが今日はどこかに出かけるらしいが、ついてくるなと念を押されている。
ただ、今の状況下で放っておくことはできない。
ので、ちょっと罪悪感だが尾行させてもらう。
「フリィ起きて〜!」
「ん……うぅ、うぅうまだ……夜」
「じゃないわよ!! 朝よ朝!」
寝室にて二人の女の子の声がこだまする。
フリィアちゃんは朝にめっぽう弱い、
逆にリルメスが朝に強くて夜に弱いんだ。
「早く出かけるわよ!」
「……わかった……うん」
フリィアちゃんは眠そうにそう返事して、
またリルメスの前で目を閉じてしまった。
「っぶっぁ!?」
「起きなさいフリィ!」
そしたらリルメスはフリィアちゃんの上に乗って、
頭を掴んで激しく揺らし始める。
「起きる起きる! 起きるよぉ!」
よっぽどだったのか効果は抜群。
フリィアちゃんは髪の毛をボサボサにしながら起き上がり、目を擦って顔を洗いに寝室から出ていく。
「強引ですね……」
「フリィにはこんくらいしてもいいの、
丈夫だし内心意外に喜んでるのよ?」
えぇ? マジ?
リルメスにああやって起こされるのが、
フリィアちゃんにとっての幸福の一つなの?
……未だよくわからんものだな。異世界ってのは。
「ん〜っ……リルメスちゃん準備終わったよ」
少ししたらフリィアちゃんが戻ってきた。
顔を洗っただけで爽やかな雰囲気纏うフリィアちゃん、はっきり言ってイケメン女子の部類だ。
この異世界基準でも美少女でありながらイケメン、
今思うと案外人に転生しなくて良かったかも……
ルッキズムで心が腐りそうな気がする。
「じゃあ行くわよフリィ。
ケルエタはグラバと一緒に宿にいてよね!」
「わかってますよリルメスお嬢様、
お二人で楽しんできてください」
* * *
てなわけで尾行開始だ。
二人が今日向かうのは王都にある図書館、
リルメスはかなりの魔法好きで本好きなので、
今の生活だと図書館に行くしか本を読む方法がない。
本はなんせ高いからな……
ここは現代じゃない、ネットだとかスマホは無し。
印刷技術だってアナログなもんで本は高価だ。
図書館にて二人は大きな机を前にして椅子に座ると、肩を寄せ合って二人で一つの本を見る。
「リルメスちゃんの読む本って難しいね……」
「意外と簡単よ?」
「私……文字とか苦手なんだよね」
「フリィは勉強したらすぐ頭良くなるわ。
だって、フリィはあたしよりも賢いんだから」
そんなことを言われてフリィアちゃんは、
苦笑いしながらも目をリルメスから逸らす。
「私、勉強嫌いだからさ……えへへ」
「頭が悪い女の子はモテないわよ?」
「えぇ……! お嫁さんに行けなくなるってこと?」
「そうよ。あたしのお母様が言ってたわ」
そんなことはないぞ。
べつに頭悪くても問題ないと思うが……
まああれだ。人知族以外の魔族だとか獣族なら、
人とは違う言語を使うから勉強は必須だな。
しかし意外だな……結婚願望はあったのか。
「私、結婚できないのかな……?」
「フリィに相応しい男なんて多くないわ。
本当に惚れた相手に求婚しなさいよ」
リルメスは恋愛に対しては上級者か……
本人が恋した感じはないが、なんせ貴族。
そこら辺の考え方は既に熟してるみたいだ。
「ま、あたしも好きな相手なんて見つからないけど」
「リルメスちゃんはどんな人が好きなの?」
「あたしはフリィみたいな人がいいわ」
「わ、私? そんな……結婚はできないよ」
「し、しないわよ! フリィみたいな男の人がいたらって話、べつにフリィと結婚とは言ってないわ……!」
フリィアちゃんは天然気質だ。
冗談をガチで受け取るタイプで詐欺に引っかかる子。
「でも……私が男の子だったら、
リルメスちゃんは私と結婚する?」
そんなこと言ったらもう好きじゃん!!
「は、ぇあ?」
と思うが、フリィアちゃんに恋愛的な思いはない。
今の問いかけはただの疑問なんだ。
これがフリィアちゃんだ。
「す……するかもね! もういいでしょこの話、
本読みに来たんだから本読むわよ!」
リルメスは意外に満更でもなさそうだったが、
フリィアちゃんは質問に対して嬉しい答えが返ってきたので、ニコニコとしている。
リルメスからしたら好きだと言われたように感じているんだろうが、フリィアちゃんにそんな気はない。
なんというか……最近はフリィアちゃんにリルメスが、振り回されることが多くなってきた。
「リルメスちゃんはどれくらい強くなりたいの?」
「……ちょ〜っっ強くなりたいわ」
「それって……」
「どれくらいって聞くんでしょ?
いいわ答えてあげる」
リルメスはフリィアちゃんの頭を上からポンと優しく手で触り、目を見て話す。
「フリィに置いてかれないくらい……
ひとりにさせないために強くなるの」
そんな言葉にフリィアちゃんは微笑む。
「えへへ、昔言ったこと覚えてるんだ」
「当たり前よ。あたしたちは二人で勝てばいいの、
あたしがどれくらい強くなるかはフリィ次第よ」
フリィアちゃんはそれを聞いて、
リルメスの手をゆっくりと触る。
「リルメスちゃんは私を置いていくつもりで、
誰にも負けないような魔法使いになってよ。
私は、必死にリルメスちゃんについていきたい」
フリィアちゃんとリルメスの二人は、
剣士と魔法使いとしてかなり相性が良い。
仲の良さもあるが連携力が抜群で、
扱う属性も火と水、隙のない属性だ。
「ふ、ふん。すぐ強くなって抜いてあげるわ。
あたしは魔法の天才なんだから、すぐよすぐ!」
「えへへ……なんだかリルメスちゃん元気だね」
「な、べつにいつも通りよ……」
リルメスは旅に出てからかなり大人びた、
無邪気さは残酷な現実によって削がれたからな。
「ここ最近じゃ……ずっと辛いことばかり、
楽しいことなんてほんの一握りでさ……
リルメスちゃん……ずっとしょんぼりしてたから、
こうしてちょっと元気そうだと嬉しいんだ」
フリィアちゃんなりにそんなリルメスを心配していたんだろう。
「……まだ全部受け止めきれてないわよ。
戦争で故郷にいられなくなったのも……
メアラとルダクルにシルフが急に消えたのも、
昔みたいに……幸せからかけ離れた生活も……」
リルメスは席から立ち上がってフリィアちゃんの手を握る。
「でも……それでもあたしが前を向けるのは、
フリィやグラバにケルエタ。みんながいるから。
……あたしはもう下を向きたくなんてない。
もう止まるわけになんていかないの」
リルメスは現状グロワール王国最後の貴族。
国の運命をその小さな背中に背負っている。
「あたしはいつか、グロワールを復興させる。
それができた時、あたしは無邪気に笑えるわ」
……良いことが聞けた。
それがリルメスの幸せの一つということか。
「リルメスちゃん、頼ってよ……?
私……リルメスちゃんを絶対に助けるから」
「……頼りまくるわよ。なに言ってんの」
手を握るリルメスはそう笑って、
フリィアちゃんは席から立ち上がる。
「さ、新しい本でも読みましょ」
「うん……!」
* * *
ソラニテ王国に来てから半年、
だいぶ長い時間ここで過ごした。
ガガルパーティーの人たちも良い仲になれたし、
そろそろ海を渡る金も溜まってきてはいる。
「……お二方、そろそろ上級になりましょうか」
「上級……戦士ってことですか?」
「あたしたちなら余裕ね」
長く泊まり続けた宿の部屋の中で、
グラバさんがコップを片手にそう話す。
「ガガル様たちのパーティーも二流になって数ヶ月、
そろそろお二人も実戦には慣れたはずでしょう」
フリィアちゃんとリルメスは向き合って口角を上げる。どうやらかなりの自信があるらしい。
ま、そうなるのもわかるくらい二人は強いからな。
「今日の依頼で上級になるために動きを変えます。
目指せ一発合格ですよお二人とも」
上級。
それは戦士としては才能の壁を超えた先にある、
一番最初の等級。上級からは敵の強さが桁違いだ。
ただ、上級となれば一目置かれる存在。
「リルメスちゃん頑張ろうね!」
「あたしたちなら一発でいけるわよ!」
自信満々の二人。
死のリストに変動はない……おそらく成功するはず。
抜けはない。なのに……俺は妙に二人に対し、
どこか根拠のない不安を抱いていたんだ。
第二部 第八章 不骨の札屍族編 -完-
次章
第二部 第九章 思春期編
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ここまでお読みいただきありがとうございます。
投稿日時を14時に変更します!
次回からついに第九章、より描写の密度を上げるために文体がかなり変わるかもです!




