第六十四話 一騎当千の死体
* *【ケルエタ視点】* *
グラバさんを助ける少し前、
俺はギルドでガガルさんに一つ提案した。
「逃げても結局無駄です……
ソラニテ王国には殿堂入りパーティー以上に、
強くそして勇敢な戦士たちはいないんです。
相手は俊級兇徒、被害は国全体に及ぶ……」
俺は全知脳で戦力を把握してる。
ソラニテ王国には俊級戦士が滞在していない。
「ガガルさん……戦いましょう。
殿堂入りパーティーだけじゃ確実に負けます」
俺のその言葉にガガルさんは顔をしかめ、
すごく息を詰まらせたあとため息を吐いた。
「わかってる……そうだよな。
ったくリーダー失格だぜこりゃあ」
ガガルさんは続けて話した。
「でもケルエタさんよ。俺たちは無駄死に御免だ。
なにか策とかがあって戦おうとしてんだよな?」
不骨のシキョン。
原因不明の不死の性質を持ついわゆるキョンシー、
風の魔力を有していながらも剣を多く使う剣士。
そんな奴と正面から戦っても絶対に勝てない、
基本的にこの世界は剣士の方が魔法使いより強い。
だけど集団戦じゃ話は変わってくる。
ある程度距離を取った中で、
魔法使いが有利となる距離であれば、
劣勢は一気に魔法使いに傾くんだ。
好都合なことにシキョンはそう頭が良くない、
戦闘に関しては少しは頭が働くようだが、
記録上、会話は下手くそだ。
理解までに時間がかかるタイプ、
ならこっちだってやり方はある。
「町中の魔法使いを集めてください。
その全員でシキョンに魔法を一気にぶつけるんです」
集中砲火。
それは弱者が強者に行うシンプルな定番策。
「できるわけねぇだろ!
相手はあのシキョンだぞ?
どうやって魔法が確実に命中する場所で、
あいつから攻撃されずに魔法を放つってんだ」
ガガルさんは俺が正気じゃないように見えたのか、
そう言って狂気を正すように言ってきた。
「えぇですが、今シキョンは戦っています。
もうぶっちゃけますがグラバさんは準俊級上位、
殿堂入りパーティーのテチラさんも準俊級。
言い方悪いですが引きつけ役としては十分です」
強者同士の戦いにトドメを刺すのは、
大量の弱者ってことだ。
「相手は結局知力を少し持った死体。
戦いに集中すればこちらは認識しないはず、
加えて想定外のことが起きれば動きは止まる……」
奴の狙いはフリィアちゃんとリルメス。
「俺たちが奴を驚かせます。
四方八方を魔法使いで囲んで一気に魔法を放つ、
それで奴が復活したとしても……何回も何回も、
奴が死に絶えるまで撃ち続けるんです!」
ハメ技、ゲームとかでよく聞くが、
あれをされた時はマジでイライラする。
でもハメ技は意外にシンプル、
する側とすれば環境さえ完成すれば、
容易く成功させ一気に勝利することができる。
不安要素は少ない。
正直、出来る未来しか見えない。
「ガガル……乗ってみよう。
新人さんの言うことには僕も賛成だ」
「おいらはなんもできないけどネ」
メグバさんはまだ俺の名前を覚えてないらしい……
ま、今はそんなのどうでもいいが、
波風は俺たちに吹いてる。
「……わかった。魔法使いをできるだけ集めてくる。
ただケルエタさん。妖精族のあんたのことだ。
これで不幸になっちまったら少し恨むぜ?」
「いいですよ。ならせませんから」
* * *
そして今に至る。
ガガルさんの人脈には驚いた。
魔法使い総勢二百十四名! 属性はごちゃごちゃ!
だが威力がこれだけ重なれば俊級魔法以上だ!
集中砲火で火葬されちまえよキョンシー!!
「っかは……」
効いてる……!
いける……もう一回ぶちかませ……!
「もう一回だみんなァーッ!!」
ソラニテ王国がギルドの活動を停止したおかげで、
生憎大量の魔法使いが町にはいたからな……
自分の仲間がお前の足を掴んだんだ。
いつも通りのギルドならこんな人はいなかった。
「ぅぁああっ!」
シキョン……お前がなんで俺たちを狙うのか、
それが気になってしょうがない!
「もう一回!!」
シキョン、お前の討伐を証として、
世界中の俺たちを狙う奴等に警告してやる!
「もう一回ッ!!」
様々な属性の魔法が絶え間なく浴びせられ、
シキョンは煙の中で身体を崩壊させながらも、
踊り狂うように攻撃に直撃し続ける。
再生してるんだろうが、
この量の魔法の中で再生がいつまで続く?
万物は魔力に依存してるってんなら……!
その魔力が空になればいい!
その不死だって、完全無欠じゃないんだろう!
「もうッ一回ッ!!!」
「ケルエタさん……! ちょっと待って!」
「もッ……? なんですフリィアちゃん」
「……やっぱり、シキョンがいません……!」
は?
「消えた……?」
「どういうことなの!?」
グラバさんもリルメスも驚きだ。
「メグバ! シキョンの魔力は!?」
「ない……完全にない!」
「どういうことですかネ?」
あり得ない……!
生命が死ぬ時は必ず魔力が爆散するような、
あの衝撃が少しでも感じ取れるはずなんだ。
シキョンは一切それがなく消えたってことなのか?
……違う、まだどこかに隠れている可能性だって!
「グラバさん……本当にシキョンは?」
「消えました……おそらく隠れてもいませんし、
死んでもいない……消えたのです」
なんで……どういうことだ。
全知脳、使ってもなんにもわからない。
それだけ謎な現象なのか……?
「ケルエタ様……逃げられましたが、
ひとまずは安全ではないでしょうか……」
……そうだな。確かに安全ではあるのか。
そうだ。死のリスト……!
「リストからも文字が消えている……」
黒文字は消えていた。
てことは、俺たちは運命に勝ったんだ。
捻じ曲げてやったぞ……よし……よし!
「ふふ……今回はあたしの活躍もあるわね」
「魔法使えないから何もできなかったよ……」
白文字……他人の干渉で変わる文字。
軽々しく黒になるのはやめてほしいぜ……
* *【タルタ視点】* *
「やーらーれーたー」
「あいーまーけーたー」
ビゾンとシキョンの魂が帰ってきた。
「……無茶をさせてしまったな」
ビゾンはわかるが……シキョンがまさかな。
某は奴等を侮っていたのか?
二人に終焉手法を使わさなければ、
どちらも死んでいたということ……
なんとも解せぬ事実よ。
「タルタ様ービゾンさむいですー」
「タルタさまーわたすもー」
「帰ればすぐにでも身体を作り直してやろう」
……機会は失ったか。
ここまで派手に動いたことで帝国軍が介入してくる。
デエス帝国を敵に回すとなると、
某だけではいずれ敗北する……
「……少し明日からはのんびりと過ごそうか」
「はーいー」
「あいー」
砂獣族が復興するまで何年かかるだろうな。
* *【記録】* *
星断暦844年4月23日。
壊刀のタルタにより砂獣族壊滅。
武祭のケケラはダウラ砂漠を離れ、
砂獣族は間も無くして縄張りを失い、
各地に生き残りたちが散らばるのであった。
元の縄張りは腐食が激しく、
もうまともに住める地ではない。
ダウラ砂漠の勢力図は龍族と死族の、
一対一の拮抗状態へと移り変わる。




