第六十三話 終焉手法
* *【5年前のケルエタの記憶】* *
終焉手法。
魔法使いの技術の 終着点で奥義。
それは一度の発動でとてつもない魔力を消費し、
完全オリジナルの魔法を放つもの。
魔法についての知識は一通り得たが、
やっぱり必殺技みたいなのはあるんだな。
大体理解した。
魔法使いの戦いの中じゃ主に二つ、
結界魔法による結界構築、終焉手法での必殺技。
この二つが極めた者が手にする技術か。
終焉手法自体、かなりシンプル……
それでも扱えない奴が多いってことは、
シビアなことが多いんだろうな。
* *【グラバ視点】* *
「終焉手法ー」
「マズい……!!」
まさかこのシキョンという兇徒が、
その域に達しているとは想像できなかった!
剣士として認識していましたが……
それができるなら魔法使いでしょう!
「終焉の流転ー」
頭だけのシキョンはそう言うと、
切断された首の断面から白い煙が吹き出し、
胴体の方へと首が煙に持ち上げられました。
そして、それは首と頭を繋げて再生、
加えて身体には白い煙を纏い始めたんです。
「おー、攻勢魔法じゃないぞー。
でもーしんだなーおーまーえーたーちー」
シキョンの雰囲気が変わった……?
関節が動いている……まさか……
「必死に怖がっていいぞー。
今のわたすは柔らかいからなー」
シキョンは関節を動かして浮く剣を両手で掴み、
二対の剣で露出した腹部を斬りつけたのです。
それが意味することつまり──
「魔剣化ー」
シキョンは白い煙を一気に手首へと集中させ、
髪の毛の末端は緑に光って瞳が赤く光る。
絶望……ただでさえあの強さの怪物が、
今こうして一段階か二段階……いえ、それ以上。
強化を許すに至ってしまった。
「ゴホッ……クッソ……ナルバ、
一回魔法を解いてくれ……!」
「は、はい!」
「そう言わなくてもころすから大丈夫だぞー」
低姿勢、その状態からの踏み込みによって、
前へと飛び出してくるとなると速度は優に、
ラジャト様の反応速度を上回った。
「っぐぅう!!」
「? 腕、もらうぞー」
私は辛うじて見えた動きに勘で対応し、
硬質化した腕をラジャト様の前に出しましたが、
シキョンの剣がじわじわと入り込んでくる……!
「ナルバ毒撃魔法!!」
「っはい!! 絶痺!!」
私を起点にナルバ様から毒撃魔法が放たれ、
それはシキョンの動きを止める麻痺魔法となった。
「あぉぁっぁっぅ!」
感電するように震えるシキョン、
すごい威力ですね……毒撃魔法をそこまで……
「天帝が下す正義の碇、裁かれし落日の僕、
無響の雷が今ここへと! あぁ大成の奏と煌!」
完全詠唱、なるほど高火力で潰す作戦ですか!
ならばこちらもそれに合わせる……!
「炎界にて踊ろう三星若火、紅月見えし天空海、
楽土月淵の園、天空に見えし陽炎、正に神陽」
「っぅく……とめ……止めきれないぃ!」
ナルバ様が血を目や口、鼻から耳、
至る所から出しながらも耐えてくれている……
「しかし訪れる悪魔の楽祭、雷碇は折れ、
山上にて見上げよ星空を──
際限なく訪れる星々の脈動。
あぁ、越えし不浄の世……っ!」
ナルバ様が血を激しく吐き出した。
「姐様……っやめないでください!
ここしかないんです……!! 今しかっ!!」
私はそれを聞いて詠唱を続行しました。
「炎声の歌声にて光増す陽光、
七色のその終着点にて見える黒点、
子は厭世的心情、但し、微笑み絶えずにて」
「……っ今しか……っ今しかぁ」
「うぅううっ!!」
シキョンがゆっくりながらも動き始めている……
間に合え……間に合ってください……!!
「……不浄の世界の先で!!」
今こそ堕ちよ! 雷帝ァッ!!」
「黒炎界、死の舞踏!
燃えよ劫火! 陽月黒ッ!!」
両者俊級魔法。
単体に対して特化した高威力の魔法……
テチラ様の杖から放たれる青白い電撃に、
私の杖から放たれる赤黒い火の光線。
二つが混ざり合いながらシキョンへと直撃。
大爆発と共に私たちは全員が吹き飛ばされ、
各々は地面を転がりながらも体勢をすぐに立て直しました。まだ……シキョンの死が確認出来ていない。
「ナルバ大丈夫か?」
「うっく……ぁっ死にそうですけど、
なんとかまだ……どうにか──」
「……シキョンはっ」
ラジャト様が辺りを見渡しますが、
辺りは土煙だらけでまともに見えません。
もし……もしあの攻撃でピンピンしていれば、
この状況下ではいつ襲われてもおかしくない。
火と雷が混ざると爆発が起きますが、
ここに来てそれが不利を作り上げるとは……
「……ナルバ?」
「え……ぇあ?」
煙が晴れる時、私の目に入るのは、
ナルバ様が剣にて心臓を背中から刺されている状況。
「んー、効いたぞー」
右半身が焼き焦げながらも再生するシキョン、
服が燃えながらも包帯のサラシが見え、その肌は、
無傷というよりは再生したてのもの。
ですが……私たちの攻撃の証は、
少しの間に完全にシキョンの身体から消えたのです。
「ナル……バ」
「姐様……まだ死にたく──」
その次の瞬間にはシキョンは剣を上に向け、
一気に肉を裂きながら血飛沫を上げさせ、
ナルバ様はその場で崩れ落ちてしまいしました。
その瞬間、身体強化魔法が切れ、
先ほどまでのような身体の状態は消えてしまった。
「……嘘だ」
「っ!」
立ち尽くすテチラ様に飛び込んで移動させる、
ラジャト様の目は少し震えていました。
「なぜ……直撃したはずです」
「あー、召喚魔法でちょっと防いだんだー。
直で喰らってたら上半身吹き飛んでたぞー」
私がそう聞けば親切に答えるシキョン。
終焉の流転の効果はおそらく、
不死となり如何なる場合でも発動する完全自動再生。
「……そうですか」
血まみれにならずとも理解る敗北感。
「ラジャト逃げて……私が止める。
あいつは私が止めるから逃げて」
「姐さん……それだけは出来ないです」
「……じゃあ、死にたいってこと?」
「逃げて生きて……幸せになんか俺はなれませんよ」
逃げるとなればそれは国を捨て、
仲間を捨て家を捨て……何もかも捨てること。
「長く戦ってきたがーお前たちは強い方だー」
なんて思っていないような言葉が聞こえてくる。
……ケルエタ様がいればリルメスお嬢様はきっと、
安全とは言えずとも生きていけるはず……
強い戦士など世の中にはたくさんいますし、
なにも私にこだわる必要もない。
「……シキョン」
「なんだー?」
ボルワール家の執事として……ではなく、
ここでは一人の戦士としてなにをするべきか。
「私が貴方に勝てる確率はどの程度でしょうか」
「んー……ないんじゃないか?
どう考えてもわたすに勝てそうに見えないぞ」
「なら……勝つとは言わずとも、
その不死の肉体に焼き付けて差し上げます。
この私の死力……生涯の全てを」
死ぬのならば本望。
全てを出し尽くしここで命尽くす……
シキョンさえ倒せば……撤退させるのでも良い。
ただ、今だけはこの敵を……リルメスお嬢様へと、
触れさせないために……全てをここで出し尽くす。
「──星水衝!!」
「うおー!?」
「……!?」
「なんだ……?」
「水魔法……すごい雑な魔力だけど……」
この魔力は……この魔法の特徴は……!
「助けに来たわよ!! グラバ!!」
リルメスお嬢様……!!
「なぜ……なぜ戻ってきたのです!!」
「うるさいわね! あたしが助けたいからよ!」
道の奥に見えるケルエタ様とフリィア様に加え、
中央に立つリルメスお嬢様……
「来てはいけません……死にますよ!」
「ふふん。死ぬだなんて言わないで!
こっちだって格下なりに色々準備してきたの!」
準備……? なんですか準備とは……
「ケルエタさん、もうみんないけるみたいです」
「よーしならやってやりましょうフリィアちゃん。
グラバさーん! こっからが反撃ですよッ!!」
ケルエタ様にはなにか策がある……
ですが……それでもこのシキョンを相手にしては。
「よくわからないがー獲物が自ら来たなー!」
マズい……! シキョンが動き出してしまう!
「やったれソラニテギルドーッ!!」
ケルエタ様のその掛け声と同時、
突如、四方八方から魔力が一気に立ち上り、
シキョンへと向けて何百もの魔法が放たれたのです。
「なっぁ──」




