第六十二話 ぴょんぴょん跳ねる死に体
* *【グラバ視点】* *
俊級……私は戦ったこと自体、
未だにありませんし未知の領域。
戦争の時、浮天のウルルドを見て感じた、
あの鮮烈に浮かび上がる死の一文字……
また……浮かぶというのですか。
「うあーいでよ剣〜」
不骨のシキョン。
名のある兇徒であり知識は得ていますが、
三度の討伐記録がありながら未だ生存している、
不死の怪物……風の魔力を放出して操る剣の群、
そして……関節は動かず移動方法はとび跳ねるのみ。
圧倒的なハンデを背負う相手だというのに……
なぜ私は震えている?
……捨てるべき感情。
今はただ生きることだけを考えるべきです。
そうでしょうグラバ、そうするべきなのですよ……!
「かかってこないのかー?
じゃーわたすから行くぞー」
……っ、息をまだ吸うな。
まだ……まだまだ……!
「……っは!」
私が息を吸った瞬間、
超高速で剣の群が眼前に迫ってきた。
ですが……息を合わせれば攻撃は容易く避けられる!
「おー、やるなー」
まずは初撃を避けられた……!
次……次の一手をすぐに警戒するんです!
「っぐ!」
風の斬撃……! ただの魔力放出のみで……!
「腕がカチカチだー」
身体強化魔法が遅れていれば、
私の両腕は切り落とされていた……
「っふー……」
言い聞かせて落ち着かせなければ……
心情ですら打ち負かされては勝てるはずもなし、
自分自身で鼓舞し続けなければ諦めてしまいそうだ。
「雷日、一千の時! 雷十刺!」
魔法……なるほど加勢ですか。
「あー?」
顔に電撃が直撃して仰け反るシキョン、
下級魔法をあそこまでの威力できるのならば……
「大丈夫そこのおじさん?
もうこっからは私たちに任しな!」
テチラ・レーゼルト、殿堂入りパーティーの、
リーダー、そして準俊級魔法使い。
短くも切り揃えられた黄色い髪に、
涼しさを優先したような服装。
まさに現地の人って感じですね……
それよりも……パーティーメンバーは少数、
ですが全員が上級以上であり英級二名。
総メンバー九名の剣士一名、
ほとんどが魔法使いで構成されるパーティー。
「いえ……一緒に戦わせていただきたい」
ソラニテ王国の実質的な最高戦力、
それでも……この相手には実力不足。
「……おじさん強そうだし、戦いたいならいいよ」
「いてて……いーたーいー」
少しばかりの会話を交わす中、
シキョンが仰け反った状態から起き上がり、
魔力放出で発生する風の斬撃に加え、
浮かぶ剣をこちらへと飛ばしてきました。
風の斬撃を身体強化で硬質化させた拳で弾き、
テチラ様の方を向けば一人の男性の剣士が前に出て、
全ての斬撃と剣を弾いていた。
「ラジャト、ありがー」
「とう。姐さん、あいつめっちゃ強いですよ」
黒い布を口元に巻く白髪で長髪の二刀流剣士、
副リーダー、ラジャト・ヨマバワル。
噂程度に剣の腕は耳にしていましたが、
想像以上の剣筋……
「……つよいやつがいっぱいだー」
「わかってるってラジャト。ナルバ、いつもの」
「いつものでいいんですよね?」
……? 身体強化魔法。
身体が軽くなって魔力量が増えた……
「ほんじゃ、こっからが″本気″だよ」
──
──
「あー? ── っぁ?」
──
──
「斬っ……?」
シキョンの胴体が真っ二つに斬れた……!?
落ちるシキョンの上半身の後ろに立つラジャト様、
そのレベルの剣士……? いやしかし……
そんな簡単に倒せるはずがない。
「姐さん!」
「痺俎!」
「あーバレてた〜」
テチラ様が地面に向けて杖を刺して魔法を発動、
相手の身動きを制限する中級雷魔法に合わせ、
突如、地面からシキョンが飛び出てきたのです。
「ひっ、ま、まってごめんなさいぃっ!!」
ナルバという方に迫るシキョン、
しかしその前にテチラ様が声を上げた。
「ラジャト!」
「はい姐さん!」
ラジャト様から投げられた一つの剣、
それをテチラ様がキャッチして、
思い切りシキョンに振り下ろしました。
「っ、外した!」
「うああぁあっ!?」
「!?」
おそらく今の三名がパーティーの上位、
後方で魔法を放とうとしていた魔法使いたちに、
シキョンが急接近してしまった。
全員が動けない中、私は地面を踏み込み、
シキョンの横腹目掛けて拳を放つと──
「……! 召喚体……!!」
私が貫いたのはただの肉塊、
召喚魔法によって雑に生み出された魔力の塊。
「気、晴れては颶風との狂宴、
剣、掲げるは暁月の静寂下、
魔、主上の神園はいつでも、
晴れよ……気劫滅!!」
咄嗟に私は後方に飛んだ。
「……はっ?」
次の瞬間、血の竜巻が発生。
それがなにを意味するか。
私を含めた十名中、五名が──
「オマエらぁあ!!」
一瞬にして木っ端微塵になったのです。
「っひ……!」
「ナルバ、ビビるな……!!」
壊滅したのはテチラパーティーの魔法使いたち。
辛うじて生き残った一人も、
シキョンから距離を取るには間に合わない。
「ラ、ラジャトさん……たすけ」
「いただきまーす」
「っ!!」
ラジャト様の接近虚しく、
生き残った方はうなじをシキョンに、
骨ごと噛み砕かれて絶命してしまった。
不骨のシキョンの戦闘での特徴……それは。
風の魔力による斬撃や剣の浮遊による斬り裂き。
召喚魔法による囮の作成に加えて圧倒的な素早さ。
そしてそれらを可能とする絶大な魔力量。
加えて……風魔法による自身を中心とした、
破壊的な竜巻の作成。
「クッソ……バケモノが……」
「ん〜おいしー」
テチラパーティーのメンバーは基本、
一人で独立してパーティーを作成しても、
二流ほどにはなれる実力者の集まり。
決して弱くもなければこれは上澄み、
だというのにこれほどまでの差があるなんて……
「姐様……ど、どうすればぁ、どうすればぁ!」
ナルバという女性の魔法使いはパニックだった。
初めてのことなのでしょう……目の前で、
仲間の命が一瞬にして尽きる瞬間が。
「……っく、とりあえず……奴から目を離すな。
一瞬でも油断したらぶっ殺される!」
……この方たちに油断は隙はなかった。
ただ、それはこの三名のみの話。
後ろの魔法使いは少しばかり安心していたから、
それであの末路に辿り着いてしまったのです……
つくづく……怪物、というよりは。
「次は誰から喰わせてくれるんだー?」
戦士として圧倒的に格上。
「姐さん……ナルバ。
俺たちが死ねばソラニテは終わりか?」
「おわり……おわりです……国が滅びますぅ!」
「終わる……だから私たちがいんのさ。
国の軍に所属しなくたって私たちは戦士……」
シキョンが血を顎から垂らしながら飛び跳ねて、
こちらへとゆっくり近づいてきました。
「ねぇ……おじさん。あんた強いよね?
悪いけど……手伝って、拒否なし」
「そもそも戦うつもりですよ……」
この怪物を倒さなければ、
リルメスお嬢様にフリィア様は……死ぬ。
ケルエタ様の思いも……だからこそ、
私は勝たねばならないのだ。
「魔剣化……!」
ラジャト様がテチラ様から剣を受け取り、
再び二刀流の状態へとなれば、腕を薄く刃に当て、
素早く引けば血が剣へと付着。
二対の剣が氷を纏えばそれは、
魔剣化状態へと移行し、白髪の末端が水色に光り、
こんなにも暑い地域で口元から白い息が出ている。
「ナルバ……強化魔法を限界超えて俺にかけてくれ」
「でも……そんなことしたらラジャトさんが」
「いいんだ! 姐さん……いいよな?」
「……いい」
その言葉がテチラ様から出れば、
ナルバ様は今にも泣きそうな表情で、
身体強化魔法の全てをラジャト様に向け、
重複させて発動し続ける。
身体強化魔法は″筋力″に″魔力″と″神経″
それらを強化するのが基本的な使用用途。
「いつでもいーぞー」
「お言葉に甘えて……!」
しかし、身体強化魔法には弱点があります。
それは重複発動を行ったが先にある、
必然的であまりにも大きい代償。
「ゴフッ……ゥアア!!」
「!」
力の代償により筋肉は限界を超えて血管を圧迫し、
魔力は本来の量を上回り溢れ出しては、
神経は極まり全身は激痛に襲われる。
血眼となったラジャト様は、
黒い布に血が滲みながらも超高速で接近し、
それは一時的に俊級剣士と同等……
「早いなー……!」
浮遊する剣たちがラジャト様の猛攻を防ぎながらも、
シキョンに対して少しずつ傷が入りだしている。
ラジャト様に魔法を当てずにシキョンにのみ、
私の魔法を当てなければいけない。
「火の静が宿る生花、饗宴飾りゆく彼岸、
悠々なる時の中で枯れることなし、
囀りこだませし一雫。華環耀……!」
しかしそれは、あまりにも容易い……!
「っおぁ!」
私の魔法がシキョンに直撃。
一雫のような極小の火炎球、
英級魔法であるそれに直撃し、
シキョンは一気に体勢を崩して背中が炎上。
「魔雷!雷十刺!」
加えてテチラ様の魔法の多重発動、
威力は落ちても込められた魔力は多く、
私の火と触れ合ってシキョンは爆発。
「取った!!」
目から血を流しながらそう叫ぶラジャト様、
シキョンの首に二対の剣が左右から入り込み、
一気に切断してみせた。
今度ばかりは確実に斬っている……!
「あーあー」
ごとんと落ちたシキョンの頭……
しかし……相手は不死。
シキョンが長年生きて名が知られるのには、
あまりにもわかりやすい理由があったのです……
「タルタさまー。つーかーうーぞー」
「何かヤバい……ラジャト!!」
「俺はいいですから……姐さんたちはっ!!」
「″終焉手法ー″」
私は目撃することになるのです。
ついに辿り着けなかった魔法戦においての──
″奥義″をこの身に。




