第六十一話 脈無し乙女
黒文字……それは俺がいなきゃ確定で死ぬ運命、
なんだ。なんで今なんだ?
……依頼? まさか今日受ける依頼がマズいのか?
「……グラバさん。ちょっと耳貸してください」
「えぇ……はい」
俺はとりあえず黒文字のことをグラバさんに伝えた。
「……では依頼は今日は休みましょうか」
「そう……ですね」
黒文字が表示されるほどの依頼……
今日の依頼はガガルパーティーの昇格依頼。
二流案件の依頼に行くわけだが、
黒文字ってことは確実に何かトラブルが起きる。
つまりだ。ガガルさんたちは……死ぬかもしれない。
そうとなれば今日依頼を行かせないようにすれば、
もしかしたら運命は変わる可能性がある。
「ガガルさんたちの依頼をどうにかずらせませんかね」
「……どうにか頼んでみましょう」
「なに二人でコソコソ話してるのよ」
「あぁー……ちょっとこっちの話ですから、
難しいですし無視で大丈夫ですよ」
リルメスがそう睨みを俺たちに効かしてくるが、
なんとか誤魔化すことに成功した。
「……なら、いいわ」
フリィアちゃんとリルメスは、
なにも信頼してないってわけじゃないが、
思わぬ一言でバラしそうな気がする。
これは俺の予想だがおそらく、
この世界には俺を探してる奴がいる。
リアバダさんが出会った預言者、
必ず奴以外にも俺を追ってる奴はいるはずだ。
もしいなかったらそれで良い、
ただ、いるとして考えると自身が何者かを、
不特定多数に知られるのはあまり良いことじゃない。
さて、今日も今日とてギルドに来たわけだが、
ガガルパーティーの人たちが珍しく早く集まってた。
「今日は珍しく皆さんお早いですね」
「あーグラバのおっちゃんらか……」
リーダーのガガルさんはがっかりしてる様子だった。
「どうかしたんですか?」
フリィアちゃんがそう聞けば、
ガガルさんの隣からメグバさんが出てきて、
一つの紙を取り出すと見せてくれた。
「ダウラ砂漠で種族間の争いが始まった。
砂獣族・龍族・死族の争い……
それに伴って停戦か終戦までギルドは活動停止、
依頼はお預けってことになるな」
メグバさんは自身の頭の上にある天使の輪を持って、
ため息をつきながら綺麗な布で拭き始めた。
「そういうことでおいらたちは今日は解散ネ。
正直争いが終わらない限り依頼は受けれないし、
困ったもんですネ〜」
ホクホトさんは椅子に座ってのほほんとそう言う。
「てなわけだ。稼ぎたい奴は町での依頼、
パーティー名義上での個人活動になる。
あんたらも今日は自由でいいぞ」
ガガルさんはそう言って机の上に剣を置いた。
好都合……ってよりは、
死のリストから通知すら来ない。
ということはそもそも、
こうなること自体が正史なんだ。
つまり……この王都バグラに襲撃してくる。
「グラバさん……」
「文字に変化は?」
「ありません……」
「……王都を今から離れても間に合わないでしょう」
グラバさんの真剣な表情、
それを見てガガルさんが事情を尋ねてきた。
「なんだ? なんか悩みごとか?」
「……いえ、なんでもありませんよ」
「……ま、深くは聞かないぜ」
ガガルさんたちもバカじゃない。
俺たちが何かを隠してることくらい知ってる。
ただ、それでも深くは聞いてこないから、
こちらとしても嬉しい限りだ。
「グラバさん、とりあえず宿に帰りましょう」
一通り話が終わって俺たちはギルドを後にする。
今日は超珍しく曇天、雰囲気もあまり明るくない。
少し嫌な予感がする……
でも、王都で襲撃してくるなら、
俺たち以外とも戦闘になるはずだ。
そう無茶苦茶なことはしてこないだろう。
「ねぇグラバ、このあとどうするの?
なーにも今日はすることなし?」
「えぇ、依頼もないですし宿で待機です」
「えー、あたし出かけたいわよ」
「ダメですよ……理由は……えーっ……と。
その……とにかく、ダメなんで──」
「……──気劫滅!!」
!?
そんな声が二人の会話の中に割り込んで、次の瞬間、家屋を貫いて何かがリルメスの眼前に迫った。
「っひ……グ、グラバ!」
「……嘘でしょう。町中ですよ」
グラバさんは真っ黒になった腕を振るって、
ボソッと治癒魔法を詠唱し完治させると、
倒壊した家屋の瓦礫の上に立つ一人の少女。
「あー? 強いなーおまえー」
震えた。
煙の中から姿を現したのは、
異名持ち兇徒の不骨のシキョン。
圧倒的な魔力を前にリルメスは思わず耳を塞ぎ、
フリィアちゃんは少しフラついてしまった。
「……貴女、なにが目的ですか」
「目的ー? んえー……あー……なんだっけ」
不骨のシキョンは過去に三度の討伐記録がある。
しかし、いつだってシキョンは死を受け入れない。
そうこいつ、″不死″なんだ。
「あー思い出したぞー。
おまえたちをーころせってータルタ様がー」
ぐだぐだとした喋りに若干イラつくが、
タルタって名は天級兇徒の……
まさか、天級兇徒が俺たちを狙ってんのか!?
「なぜ私たちを殺そうとしてるのか……」
「んーわかんないぞー」
俊級ほどの実力を持つシキョン……
どっからどう見てもキョンシー……映画で見たな。
でもまあ、腕は前に突き出して札も着けてて、
加えて肌の色も青白い……定番は変わんないか。
「ケルエタさん……私……」
フリィアちゃんはフラつきながらも大剣を構えた。
だが、それをグラバさんが止める。
「フリィア様、リルメスお嬢様を連れ、
出来るだけここから離れた場所へと逃げてください」
「グラバさんは……!」
フリィアちゃんはそう言うと、
グラバさんは少し微笑んで答えた。
「すぐにお戻りしますよ」
その言葉を信じ切ることは不可能だが、
この状況下では縋り付きたくなるような、
根拠のない信用が湧き出ていた。
「……リルメスちゃん立てる?」
「あたり……まえよ!」
魔力の圧に抗いながらも立ち上がるリルメス、
俺はもちろん二人についていくことになるので、
去り際にグラバさんに一言。
「死なないでくださいよ……!」
「死人にやられるほどやわじゃありません」
そう言ってくれたから、
俺はそれを信じてその場から去った。
逃げる中、ギルドの前も通った。
その時にガガルさんたちが顔を出して俺たちに聞いてくる。
「なにがあったんだ!?」
「不骨のシキョンです……!
今、グラバさんが戦って──」
爆発音。それが俺の声を遮った。
「俊級兇徒じゃねえかよ……!」
「ガガル、どうする?」
「助けいくかー?」
ガガルパーティーの人たちは義理堅い。
それでも死ぬ気は皆にはないはずだ。
「……殿堂入りパーティーに任せるべきだ。
俺たちが行っても死ぬだけだ……だって相手は、
上級を瞬殺できる俊級だぞ?」
その言葉に皆が納得して反論の意見は出ない。
それと同時に、少し先の人混みが一気に退けられ、
何名かの集団が道に出てきた。
「俺たちも今すぐに避難するぞ」
ガガルさんの視線の先にはあの集団がいた。
おそらくあれが殿堂入りパーティー。
一流のさらに上のパーティー。
一流パーティーの中でも最上位の功績を持ち、
リーダーが準俊級であることが条件。
「王都バグラを壊させるわけにはいかない。
全員で追い返すわよ!!」
テチラ・レーゼルト。
準俊級の魔法使いで女性、
テチラパーティーのリーダーだ。




