第五十三話 足枷は煌々として
「あたしの天才的な発想で1時間を変えてあげる!」
そんなことを言ったリルメス、
紐と棒と布を必要にしてる様子だったんだが、
なんせ今はフリィアちゃんも自由に動けない。
「ケルエタ! メアラとルダクルを呼んできなさい!
あの二人に紐と棒と布を持って来させて!」
ので、身体を持たない俺は伝達係になり、
棒と布は船内で待機する二人が運ぶ前提で話が進む。
「持って来ましたよリルメスお嬢様!」
てな感じで少しすれば材料を揃えてみせた。
「こんなの何に使うですなの?」
「僕的にも想像があまりつきません……」
紐と棒と布、それだけ聞けば、
帆を増設するんじゃないかと思うはずだろうな。
しかし、帆のようにちゃんとした作りでなければ、
それは風魔法によって容易く崩壊してしまう。
リルメスがそれを知らないほどバカじゃないと、
俺は今までのリルメスを見てきて確信してる。
ただ、それ以外に特に方法もない……
どうするんだ? 予想が全くつかないぞ。
「そしたら帆に布を多くつけるのよ!」
なるほど……!
魔法に耐えられる強度が少ないなら布を増やして、
その強度を上げれば魔法も威力を強くできる!
ただ……
「ど、どうやってつければいいですなの!?」
メアラがそう言う通り、
帆に直接登って棒を紐で固定して、
そこに布を広げてつけるなんて難しすぎる。
どう考えても魔法がないと至難の業だ。
「あたしの魔法操作は天才なの。
そこもあたしに任せなさい!」
どういうことだ?
まさか布をつける作業をしながら船を動かすのか?
「ルダクル、持って来た棒をあるだけ並べて、
それを全部紐で縛りなさい!」
「承知しましたリルメス様!!」
相変わらずルダクルは従順である。
棒を並べたやつを紐で縛れば、
それは少し大きい板のような見た目になった。
「それに二人は布と紐を持って乗りなさい!」
「は、はいですなの?」
二人が乗った瞬間、
リルメスは魔法を詠唱し始める。
「凱旋の刻、風雲の如く夢の落日よ。
人々が天に乞う現実を顕現するのだ。
余に従え風の精霊よ! 風幻操!」
上級風魔法の風幻操。
それは簡単に言えば定めた対象を浮かせる魔法。
わかったぞ。リルメスのやりたいことが。
「う、浮いてるですなの!」
「これ落ちたら死にますね」
「なんでそんな冷静ですなの!!」
リルメスは嬉しそうに飛び跳ねてる。
そう、帆に送る風魔法を発動させながら、
リルメスは上級魔法を発動させたんだ。
二つの魔法を同時に発動させる技術力、
さすがと言うべきか魔法の天才……!
「あとは任せたわよ二人とも!!
帆に布を被せて紐で縛りなさい!!」
メアラとルダクルは下を見下ろし、
大きな声でそう言ってくるリルメスに頷き、
二人は顔を合わせてこう聞こえてきた。
「「ご褒美は!!」」
「は、はぁ……?」
あの二人は報酬によってクオリティが変わる。
ので、リルメスは報酬を提示しなきゃいけない。
まあ、金銭のやり取りじゃないんだけどな。
「えー……んー……なら、
成功したらあたしが撫でてあげるわ!!」
「やりまァアす!!!」
「やりますなの!!!」
……はは、いつも通りって感じだな。
* * *
てなわけで帆の強化工事は今行われてるんだが、
フリィアちゃんは黙々と迫る触手を斬りまくってる。
俺はリルメスに向かう方向だけを伝えるだけだ。
この状況で他に何か出来ることはないから、
つい周りの状況に目がいってしまう。
フリィアちゃんは王蛸族の触手を、
さっきからずっと斬り続けてるんだが、
体力に底はないのか? 疲れないってのもすごいな。
……やっぱりフリィアちゃんは、
あのダグンドの剣士、ユレケオとの戦闘で、
明らかに限界を越えた。速度に力に技術。
本人は無自覚かもしれないが、
あの戦闘時よりも今の方が断然強い。
「っふ……」
女性の大剣剣士で英級以上は存在しない。
歴史上、存在したという文献はない。
その理由は女性の身体に見合わない大きさの剣に、
戦いにおいての圧倒的な不利。
大剣を使うならば軽い剣の方が強い事実、
多くの女性剣士はその理由で大剣を避ける。
でも……でもだ。
フリィアちゃんはもしかしたら……いや。
このままいけば、英級になれるぞ。
努力量だっておかしいさ。
ただそれを上回る才能の数々……
知識だけはあるからな……
大抵剣筋を見ればどれくらいの潜在能力があって、
これからなにをするべきなのかくらいわかる。
その上でフリィアちゃんは、
英級じゃ止まらない素質がある。
……俺は最近気が付いたんだが、
俺はフリィアちゃんの″ファン″なのかもしれない。
戦う姿を見るたびにこの子を越える剣士なんて、
いるわけない。とかの身勝手な断定をしてしまう。
「リルメス様! 出来ましたなの!!」
「よくやったわね!!」
俺が黙々と考えていたら、
いつの間にか帆の強化は終わってた。
何分くらいだろうか。
多分何分どころじゃない……30分くらい?
メアラとルダクルが甲板に降りてくると、
リルメスは目を閉じて魔力出力を上げる。
「行くわよ……! ぶっ放してやるわ!!」
どこで覚えたんだそんな言葉……!
「……? 船の速度が上がった?」
「グラバさん。見てみなよ、リルメス嬢のおかげだ」
驚いた表情でグラバさんがこっちに顔を向けてきた。
風魔法の出力は高まり、
船は、加速する。
「成功ですなの?」
「成功ですよメアラさん……」
「成功だわ!!」
船の速度が速くなったせいか、
どんどんと触手の数が減り始める。
赫耀の王蛸が攻撃しながら追いつけなくなった証だ。
「っはぁ、リルメスちゃん?」
フリィアちゃんは触手が減ったので隙が発生し、
こっちへと駆け足でやって来た。
「すごいでしょフリィ」
「船が加速したのって……」
「あたしたちのおかげよ!」
ドヤ顔のリルメス。
フリィアちゃんはそんなリルメスを見て、
表情が柔らかく崩れて笑顔を見せてくれた。
「よかったぁ〜」
* * *
そんなわけで、赫耀の王蛸から逃げることが出来た。
それはつまり、海域が芯宴の灘に変わったんだ。
ここは世界一危険な性質の海域、
水族も存在しない船が通るためだけの海。
天候も穏やかで普通にしてれば安全な場所だ。
「あ〜疲れたわ〜……」
操縦がグラバさんに変わって、
帆の柱の下で座るリルメス。
約束通りメアラが今は頭を撫でられてる。
「うへへ、へへ、へへぇ……」
撫でるのは順番であるため、
今はルダクルが羨ましそうに待ってる。
「……なぁケルエタ」
「? なんですシルフさん?」
久しぶりのゆったりとした時間に、
シルフさんが俺に話しかけて来た。
「ウチ、あんただけにでも話しておくべきだと思ってさ、ちょっと話したいことあるから来てよ」
なんだ……この真剣な感じ。
「いいですよ」
俺は言われるがままに場所を移動する。
他の誰からも話を聞かれない場所にだ。
「それで……話って?」
「テグのことだよ」
「……そうですか」
……テグトトさんか。
「テグは死んだ。ウチは長い間ずっ……と、
あいつのそばにいて生きてきたからさ。
正直、今の生活には実感が湧いてない」
シルフさんも俺と同じ妖精族だ。
表情とかはないし涙も流れない。
「ウチ、わかってた。
テグは戦争じゃ生き残れないって」
……。
「でも、表面上じゃそれを否定してさ、
それはウチが受け入れられないだけなのに……」
「そんなことは……いや……すみません」
「あっははは、悪いねこんな話。
いや、まあ本題はこれからでさ──」
「ウチにメアラとルダクルを……
任せてってよりは……強くしてもいいか?」
メアラとルダクルは戦力外だ。
戦えない二人は今後、旅の中で苦労する。
それは俺だって問題として認識してた。
「シルフさん。ありがたい話ですが、
どうやって強くするんですか?」
「旅ってのは色んな奴と出会う。
ソラニテ王国に行ってもそこはゴールじゃない。
生きるためには金が必要……言い当ててあげる、
ケルエタは今後、″ギルド″に入るつもりでしょ」
……ま、予想くらいされるか。
ギルド。
全大陸で親しまれるなんでも解決組織の名称。
パーティーを組んで依頼をこなすお仕事だ。
戦士は軍に所属しない限り、
収入源はギルドで生活することになる。
だから俺たちも例外なく、
ギルドに入って金を稼ぐつもりだ。
「ギルドにも良い奴はいる。
あんたらが安定したと感じたら、
旅からはあの二人を連れて抜けようと思うよ」
ありがたい……良い話ですね。
「二人の心はどうなるんですか」
「……」
しまった……本音が。
「知らないさ。あんたもわかってるはずだ。
この世界はそんな甘く出来てないんだよ。
ウチだってしたくないさ。でも……!
ウチらは奪われた側の存在、
我慢して生きるしかないの!」
「……わかってますよ。でも……でもそんなの」
「ケルエタは優しすぎる。
あの二人だってわかってるはずだよ。
自分たちがどれだけ戦えないかくらい」
……だからってそんな。
「これも一応言っておくだけ……
ケルエタ、あんたが決められないならウチが決める。
あんたにだけ、全てを任せるのは不義理だし……
あっちに着いて落ち着いたら二人にはウチが言う」
そう言ってシルフさんは皆のもとに帰ってしまった。
……わかってるさそんなこと。
でも……そんなのって……
二人にとって残酷すぎる。
「次はルダクルよ!」
「今日を忘れずに生きて参ります」
「まだしてほしかったですなの……」




