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88話 それはお前の切り札だったな

「そんなこと…!」

「ああ?」

ギースはジェイクを睨みつける。

「そんなこと、誰が決めた!」

「うるせんだよ!どうせお前もそう思ってたんだろ!?」

「俺はそんな事など考えた事もなかった!」

「はっ!」

ギースは『話にならない』とでも言いたげに首を振った。

「つまり、俺はお前にとって考えるに値しない存在だとでも言いたいんだな!」

「何故そうなる!」

ジェイクは勢いをつけて斬りかかった。ギースはその重い一撃を難なく受け止めた。

「お前、やっぱりウザいよ。消えてくれ。」

(くっ、全く会話が通じない。)

「もうあの時の様に逃しはしない。ここでお前を殺す。」

「そんな訳にはいかない!貴様こそ観念しろ!」

「どうだか…。」

ギースはそう呟くと魔力を高め始めた。

「なっ、に?」

ギースの魔力の高まりに呼応する様に、鎧が変形していく。それまでの清廉されたような印象から、一転して攻撃的な意匠に変わる。

「貴様…。その鎧は?」

「お前には関係ない!死ねー!」

ギースは瞬時に距離を詰め、大振りの一撃を繰り出してきた。


「っ!?」

咄嗟にガードするもあまりの威力に吹き飛ばされるジェイク。

「おいおい。まさか今ので終わりって訳じゃあないだろうな?」

「…。」

無言で立ち上がるジェイク。

(ギース…。召喚獣の力をここまで引き出していたとは。)


「オイ!何とか言ったらどうなんだ!?」

「終わらせる。」

「あ?」

「ここで終わらせる。」

ジェイクは大きく深呼吸した。ジェイクの纏う魔力が大きく、炎属性を帯びるものになっていく。

「…へえ。」

ギースは何かを察した様だ。

(ギース、あの時のままの俺とは思うなよ。)

ジェイクは静かに剣を構えた。それと相反するようにその身に纏う魔力は荒々しさを増してゆく。

「【フレイムプライド】、か…。」

ジェイクの姿に、ギースはかつての親友の本気を見た。

「それはお前の切り札だったな。」

「…。」

「いいぜ。やってやろうじゃないの。お前を殺して俺の方が上だって事を証明してやる。」

「…。」

「…。」

風が静かに吹く。刹那、男の闘志と男の意地がぶつかり合った。その衝撃は熱を帯び、あたりに拡散していった。




一方のヒッカとラッフェルも激しい剣戟を繰り返していた。

「うら!やっ!」

「ふっ!はっ!」

ラッフェルのフレイムソードはかつて無い程の炎を灯している。自らにかける身体強化魔法も今までの比ではない。

(何でこんなことしたんだ!フィリーは何も悪い事はしてないんだぞ!)

ラッフェルの意識は混乱していた。ヒッカもジェイクもライクも、旅をする中での大事な仲間だと思っていた。それだけにフィリーに攻撃魔法を向けたのが信じられなかったし、それ以上に許せなかった。

「何で!」

「はっ!」

ラッフェルの突撃を物怖じせずに受け止めるヒッカ。その様子は涼しげであり、余裕がある様に見受けられる。それが余計にラッフェルの怒りを膨らませた。

「何で!何で!何で!」

ラッフェルはなおも剣を振り続ける。ラッフェルの目は真っ赤だった。

「うわー!」

雄叫びをあげ、さらに魔力を高めるラッフェル。

(…驚いたな。まだ本気じゃなかったのか?)

「ああああああ!!」

(これは…、油断できないぞ。)

ヒッカも纏う魔力量を引き上げた。

「絶対、許さない…!うわぁー!!」

「っ!!」

炎となって突撃してくるラッフェル。咄嗟にヒッカは、ラッフェルからの一撃を受け止めずに回避した。

「逃さない!」

(何とか剣を取り上げて大人しくさせないと。)

「やあぁー!!」

元からタフだったラッフェル。ジェイクやヒッカからの特訓の成果もあり、その成長は著しいものだった。そのタフさにヒッカも舌を巻くほどだった。

(これは苦戦しそうだな。)

ヒッカは感覚でそう思った。だがその考えは別の要因で吹き飛ぶ事になる。


ドン!ドン!と地面が噴出する。ラッフェルは目の前から動いていない。ラッフェルが攻撃した様子もない。

「これは…?」

それはギースの放った広域の炎属性魔法だった。違和感を覚えたヒッカは空を見げた。そこにはおびただしい数の火炎弾が見える。

「やばい!ラッフェル!一旦ストップだ!逃げるぞ!」

「そんなの関係ないぞー!」

「やめろー!」

ラッフェルは炎の雨の中を突っ込んでくる。大きな火炎弾がラッフェルの背後に迫る。ヒッカは無意識に体が反応していた。

(間に合え…!)

右手の人差し指と中指に魔力を集中させ、火炎弾に狙いを定める。

「【ガストバースト】!」

ヒッカの放った特大の【ガストバースト】は、ラッフェルに直撃するはずだった火炎弾に命中した。

(やった。)

あまりにも集中していたために、眼前にラッフェルが迫っていることに気づくのが遅れた。

「よそ見すんなー!」

(しまった!)

咄嗟に左手に持っているバスターソードで受けようとしたものの、剣は弾かれてしまった。

(やられる!?)

無意識に【エアライド】で距離を取ろうとするヒッカ。それを待っていたと言わんばかりに、ラッフェルが【ファイアボール】で追撃する。

(っつう!)

さすがのヒッカも【ファイアボール】を無力化するだけの身体強化魔法は間に合わなかった。たまらず撃ち落とされた格好のヒッカ。畳み掛けるラッフェルは剣を構えて突撃してきた。

「ごめん!」

その瞬間、地面が平手の形となりラッフェルを吹っ飛ばした。地面に魔力を流し込んだヒッカは【大地の賢人】を発動していた。



すぐさま吹き飛ばしたラッフェルの元に駆け寄るヒッカ。ラッフェルが纏う魔力は僅かなものだった。

「ラッフェル?」

軽く肩を叩くが反応はない。どうやら気絶しているようだ。急激に魔力を消耗しているので、その反動もあるのだろう。

(脈はある。良かった…。)

ドン!と近くの大地が爆ぜる。まだ攻撃は続いていた。

(やばいな。少し離れるか。)

攻撃の位置を確認して離れようとするヒッカ。不意に目線をジェイクの方に移す。そこには炎を纏った二つの人影が見えた。激しく剣を打ち合うその様に、ヒッカは固唾を飲んで見守る事にした。


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