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86話 お前も失えば分かる

青年は頭を上げた。青年の歪んだ笑みにヒッカはどことなく、邪な気配を感じた。

(この人…!)


そこにジェイクが一歩踏み出す。

「やっと…やっと見つけたぞ!」

「あっははは!何を言ってるんですか?私は逃げも隠れもしていませんよ?」

「ふざけたことを!」

ジェイクは今にも殴りかかりそうな勢いだ。フィリーは少し怯えている。

「今のジェイクさん。怖い…。」

そうポツリと呟いた。



「ギース!貴様だけは…!許さん!!」

「おお、怖いなあ。」

ギースと呼ばれた青年は、大袈裟に怖がる素振りを見せた。

「いけませんよ。聖騎士団団長様がそんな乱暴な言葉使いだなんて。ああ!」

わざとらしく、ポンと何かを閃いた仕草をするギース。

「失礼しました。『元』聖騎士団団長様ですね。」

「貴様ぁー!」

ジェイクは抜剣しそのままギースに斬りかかる!ギースもどこからともなく抜剣し、その攻撃を真正面から受け止めた。

「おいおい。折角の再会だろ?落ち着けよ?」

「誰が!落ち着いていられるか!貴様が…、貴様が奪っておいて何を言う!」

「怖いなぁオイ。そんなんだとまた同じことの繰り返しになっちまうぞ?」

「…何が言いたい?」

「お前は何も守れない、ってことさ。」

「言わせておけば!」

二人の鍔迫り合いはなおも続く。


「事実だろ?現にお前の団は壊滅した。ああ、俺は生きてるから壊滅じゃあないか?」

「…。」

「あーでも俺、お前の団を抜けてるし、そもそもお前はもう聖騎士でもないからやっぱ壊滅でいいか。」

「…黙れ。」

「それに、大事なフィアンセも守れなかったもんなぁ。あ?」

「黙れー!」

ジェイクの胸にあの日の出来事が去来する。



ーージェイクの回想ーー

召喚獣に寄生された男はギースによって打ち取られた。ただ…。

「ぐっ。」

膝をつくギース。

「大丈夫か?ギース!待ってろ。今すぐに助ける。」

召喚獣はギースに寄生していた。ギースの首元で怪しくうごめく召喚獣。

「…。」

ジェイクが召喚獣に手を伸ばそうとしたその時、ギースは強大な魔力を発現した。

「ぐっ!」

その魔力の圧に思わず吹き飛ばされるジェイク。

「あ…あ。」

ギースはゆっくりと立ち上がった。

「…。」

「ギース?」

「フン!」

ギースは発生させた火炎弾を投げ放った。ドーンと大きな爆発と共に、大木がまとめて薙ぎ払われる。

「な!?」

ジェイクは驚いた。少なくとも、普段のギースからは想像のできない魔法の使い方だったからだ。

「ああ…。」

恍惚の表情を浮かべるギース。

(奴がギースを操っているのか?早く切り離さないとまずい!)

ジェイクは剣を拾い上げ、ギースに寄生する召喚獣に斬りかかった。

ギン!重い金属音が響く。ジェイクの一撃は、ギースによって受け止められた。

「な!?」

「…。」

「待ってろ、ギース!操られてるんだろ?すぐにソイツを切り落としてやる。」

「…。」

再び剣を振るうも、やはりギースの剣に阻まれる。

「俺は…。」

「ギース?」

「俺は操られてなどいない。」

「ギース。何を言ってるんだ?」

「どうすれば信じてくれるか。そうだなあ。今からアイツを消す。それで信じてくれるか?」

ギースはジェイクに背を向け、火炎弾を放った。その光景にジェイクは言葉を失った。


「何故だ!?何故こんなことをする!!」

ジェイクは叫ばずにはいられなかった。ギースの放ったその一撃は、エルガの亡骸を灰燼へと帰していた。

ーー


「し、師匠。何かジェイクさん。やばくないっスか?」

「…。」

「師匠!」

「確かにそうだな。」

ヒッカは帯剣に手を伸ばした。その気配を感じてかジェイクが叫んだ。

「お前たちは来るな!コイツだけは、俺が仕留める!」

「ジェイクさん…。」

ヒッカは素直に静観することにした。




「おうおう。もしかしてあれがお前の今のパーティーか?まさかエリート聖騎士団団長様が落ちぶれて、そこらのガキ引き連れてますとか言わねえよなぁ?」

「何とでも言え。貴様に答える義理はない。」

「図星だったかぁ。悪いこと聞いちゃったね〜。」


どこまでもジェイクを侮蔑するギース。

「貴様は…、貴様だけは絶対に許さん!俺が必ずお前を討つ!」

その言葉を聞いてギースは一段と魔力を高めた。

(ヘレナ…。)

ジェイクはギースと距離をとり、胸元のペンダントを強く握りしめた。魔力を高めるため、ジェイクは精神統一をする。その一瞬を見逃さなかったギースは、ジェイクを蹴り飛ばした。


「大丈夫ですか?」

「…。」

ジェイクは駆け寄るライクを手で払いのける。それに反応したのはラッフェルだった。

「ジェイクさん。どうしたんスか?今日おかしくないっスか?」

「うるさい!どけ!」

ラッフェルはジェイクの前に立ち塞がった。

「いーや、どかないっス!」

「いいからどけ!」

「だってこのままだとジェイクさんはアイツを殺すんでしょ?」

「だったら何だ?」

「俺、ジェイクさんに人殺しにはなってほしくないっス!」

「お前には関係のないことだ!」

「関係あるっス!俺たちはパーティーで仲間っス!仲間が人殺ししようとしてるのに、それを黙って見てるだなんて俺にはできないっス!それにあの人、俺の怪我を治そうともしてくれたっス!」

「…いいからどけ!」

「ジェイクさん、やっぱおかしいっスよ!どうしたんスか?」

「どうもこうもあるか!奴は俺の仇だ!フィアンセも…仲間も…。奴が殺したんだ!」


その言葉でラッフェルは一瞬怯んだ。

「で、でも!それでアイツを殺して、フィアンセが喜ぶんスか?仲間がジェイクさんの人殺しを望んでるんスか!」

「知った様なことを言うな!」

「だって!」

「…お前に何が分かる?」

「分かるっスよ。辛くて苦しくて、でもそれだからこそ、真っ直ぐに生きなきゃいけないんじゃないスか!?」

「お前は何一つ分かってなどいない!そんなことは綺麗事だ!奴は他にも罪を犯している。仮にここで奴を捕縛しても、被害にあった人々はそれをどう飲み込めばいい!?」

「そ、それは…。」

「これは誰かが背負わなければならない業なんだ!」

「で、でも!」

「くどい!」



痺れを切らしたのか、ジェイクは魔力を高める…!

「え?ジェイクさん、何を…?」

「綺麗事だけでは生きていけない。」

ジェイクは左手に集中させた魔力をフィリーに放った。

「きゃ!」

「ジェイクさん!」

フィリーは球状の風魔法に包まれ、空高く浮かび上がった。

「お前も失えば分かる。」

ジェイクが構える。幾度となく見てきたジェイクの切り札を放つその構え…。ライクはそれを直感した。

「やめて!」

「【ファイアバースト】!」

極太の炎熱線がフィリーに向かう。

「う、うわぁああああー!!!」

空に浮かぶフィリーに【ファイアバースト】が直撃する。ラッフェルは咄嗟に【ファイアボール】を連発した。【ファイアバースト】の軌道を逸らそうとしているのだろうか。


「あ!バカ!!」

ラッフェルがここまで精度高く魔法を発動できたことはなかった。それはヒッカが今までに見た中で特大の【ファイアボール】だった。


「ちっ!」

ジェイクが舌打ちをする。

「ああああー!!」

構わず【ファイアボール】を連発するラッフェル。

「ラッフェル!やめるんだ!」

だがそのヒッカの叫びはラッフェルの耳には届かなかった。爆炎と共に大きな爆発音が空に響いた。


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