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85話 これはこれは…聖騎士団団長様

「こっちです!」

ヒッカとラッフェルを先頭に五人は固まって行動した。先ほど駆け抜けた森を走り抜ける。

「確かこの辺りっス!」

ラッフェルが指差すのは、先ほど転がり落ちた場所だ。転んだ先で例の男に出会った。

「…ここは少し急なので、俺が連れて行きます。」

ジェイクたち四人は無言で頷いた。なるべく魔力を温存するため、ヒッカは斜面を下った後すぐに【エアライド】を解除した。



「こっちっス!ここの道を進んで行ったっス!」

「…このまま行くぞ。警戒は怠るなよ。」

「はい!」

再び五人は走り出した。森はどこまでも静かで不気味なくらいだ。



どのくらい走っただろうか。道を辿れど、白馬に乗った男どころか、野ウサギすら見かけない。

「少し休憩するぞ。」

「ふう。ずっと森が続くね。どこまで繋がってるのかな?」

ライクが自分の足をマッサージしながら疑問を口にした。確かに同じような場所を延々と進んでいる感じだ。そう思うのは無理もない。周りの景色はほとんど変わらず、道も一本道だからだ。

「先ほどよりはマナが少し濃い…気がするな。多分近づいていると思う。」

「そーなんスか?腕がなるっスね!」

ラッフェルは早くも先頭準備と言わんばかりに腕をぐるぐる回している。フィリーは軽くため息をついていた。

「お兄ちゃん、気が早すぎだよ。」

「ジェイクさんはどう思いますか?」

ヒッカがジェイクに疑問を投げかけた。

「どう、と言われてもな。このまま追いつくだけだ。」

「このまま走るだけじゃ追いつかないかもしれないです。やっぱり俺の魔法で一気に移動しませんか?」

「そうしたいところではあるが、お前の魔力は温存しておきたい。何があるか分からないしな。奴は強敵だ。想定されうる最悪の状況を考えると…。」

「?」

「いや、何でもない。そろそろ行くぞ。」

「うひゃー。ジェイクさんスパルタっス!」

「このままだと日が暮れるかもしれないんで、省力版で行きませんか?」

「省力版?どう言うことだ?」

「それは…。」



「うわー!こう言う使い方もあるんだね!」

「なるほどな。これならずっと飛んでいるよりは魔力消費も抑えられるな。」

「すごいです。ヒッカさん!」

「へへっ。まだまだ行くよ。そーれ!」

森の中を五人は低空で飛んでいる。いや、連続した低空ジャンプで移動している。ヒッカの掛け声で皆はジャンプし、ヒッカが【エアライド】でそれを強化する。なるほど、これであれば、ジャンプのタイミングでのみ魔力か必要になるため、恒常的に飛ぶよりはヒッカの魔力消費は格段に抑えられる。代わりに全員の体力強化魔法も使ってしまうが、普通に走るより魔力も体力も温存できそうだ。

「何だか楽しいですね。」

まるでバッタの様に五人は飛び続けた。




ここは小高い丘の上。白馬から降りた青年は周りを見渡す。魔獣の気配がそこかしこに感じられる。

「…。」

男はただ静かに佇んでいる。

「ハイゴブリンか。コイツならまあ使えるか?」

ハイゴブリンは縄張りに侵入した青年に群れで襲いかかる。微塵も動じる様子のないその青年は、おぞましいまでの魔力を纏った。

瞬く間にハイゴブリンの群れは沈黙した。

「さあ、見せておくれ。」




「ヒッカくん待って!」

ライクがヒッカに声をかけた。

「え?どうしたの?」

返事をしつつも急には止まれない。

「一旦止まりまーす!」

ヒッカは急制動をかけるでもなく、ステップを踏んで止まった。

「どうした?」

ジェイクもライクの様子が気になる様だ。

「ごめんなさい。またすごく嫌な気配がして、もうすぐ近くまで来てます。」

「何!?」

「それ、どう言うこと?」

「うまく言えないんだけど、すごく嫌な感じ。ごめん。」

そう言うライクは少し悪寒で震えている。

「近くに敵が来てるってことっスね!」

ラッフェルは抜剣し、周囲の警戒を行う。だが、辺りは静かなものだった。

「何も…いませんね?」

フィリーはおずおずとヒッカに聞いた。

「多分、だけど。」

ヒッカは周囲を見渡してから、改めてフィリーに向き直った。

「近くまでは来てるけど、囲まれてるとかそんな雰囲気は無さそうだよ。俺たちがついてるから大丈夫。」

「は、はい。」

声は上ずっているものの、いくらか笑顔が見える。

「ここからは慎重に行くぞ。各自、いつでも戦闘に入れる様にしておくように。」

続けてジェイクはライクに質問した。

「ライク。その嫌な気配はこの先から感じたのか?」

「はい。もうちょっと、右の方な気がするします。」

「なるほど。」

ライクが指した方向に小高い丘が見える。ここからであれば直ぐにつきそうだ。




「ふぁ、あ〜あ。」

青年は大きな欠伸をした。目の前でゴブリン同士が仲間割れを起こしている。その様子を心底つまらなそうに見ていた。

「使えねえクズどもだな。」

青年が魔力を高めると、ハイゴブリンは苦痛に歪む悲鳴をあげた。どうやら仲間割れしているのではなく、仲間割れを強制・操作されているようだ。

青年は頬杖をついて、再び鑑賞の体勢をとる。

ハイゴブリン同士の戦闘は続けられた。やがて、一方のハイゴブリンが全身に炎を纏い、もう一方のハイゴブリンに突撃する。

「お?」

炎を纏ったハイゴブリンの突撃を受け、もう一方のハイゴブリンは爆散した。

「まあまあ、だな。数を揃えたら多少は使えるか。」

変わらず青年は興味なさげに呟いた。




「今、何か聞こえたっス!」

「ああ。本命は近い様だな。」

「腕がなるっス!」

「そろそろですね。俺たちも気をつけよう。」

「はい。」

「う、うん。頑張る。」

フィリーもライクも表情は固い。


「着いたっスー!ん?」

一番乗りのラッフェルの目の前に飛び込んできたのは、おびただしい数のハイゴブリンの死骸だった。

「なんだ…コレ。」

ふと前方から視線を感じる。ラッフェルは岩の上に座っている青年と目が合った。

「お前…。」

「あー!お前はっ!」

中衛のヒッカたちも間をおかずに到着した。

「このハイゴブリンの群れ、あの人が一人でやったのか?」

「一人でこんなに?」

「こ、怖いです。」

「…。」

白銀の鎧を纏う青年は、岩から降りてこちらに向かってくる。

「俺が…。」

前に出そうなラッフェルを制し、ジェイクが先頭に立つ。

「お前たち、奴がターゲットだ。」

(ジェイクさん?)

青年はジェイクの前に立ち、うやうやしくお辞儀をした。

「これはこれは…聖騎士団団長様。」

不敵な笑みを浮かべるその青年に、ジェイクは強烈な敵意を向けていた。


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